グローバルフォーラム
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「グローバルPMへの窓」(第148回)
徹底的に攻めるPM

グローバルPMアナリスト  田中 弘 [プロフィール] :8月号

 先月号まで、5回にわたって世界のプロジェクトマネジメントの課題について書いてきた。プロジェクトの成功とプロジェクトマネジメントの成功は、オーナーの視点に立つと、必ずしも同じではない、と述べたが、少なくともプロジェクトマネジメントがうまく行くためには、つまり、プロジェクトが計画通りに、あるいは、計画値と実績値を最小にしてプロジェクトを完成するのに必要な真理は一つである。
 
徹底して抜けがないようにWBS(ワークブレークダウン・ストラクチャー)を作り、プロジェクトの範囲を明確にする。プロジェクトは社会システム(産業システムも社会システムの一部である)で、システムを過不足なく分解したWBSは希求するプロジェクトを正しく表現したものだ。
プロジェクトの遂行はすべてWBSをベースに行う。プロジェクトスケジュールもコスト予算も勝手に作ってはだめで、オーソライズされたWBSから導く。
WBSの階層のあるレベルとプロジェクト担当組織の階層のあるレベルの交点をワークパッケージといい(WP)、WPには、誰が、あるいはどの部署がこのWPの遂行に責任を持つのか、中間成果物(deliverable)として何を生成するのか、そして、先行作業や、当該WPに利用すべき知的資源(仕様書など)は何か、全体計画から所与されるこのWPのスケジュール(始点・終点)と予算はどれだけか、必要な投入資源の種類と物量は、が記載される。一つ一つのWPはあまりに範囲が広くても、狭くてもうまくいかない。
WBS由来の、プロジェクトのスコープ管理、スケジュール管理、資源・コスト管理を月ごとに行い、つねに計画と当月実績値の差異分析を行い、差異がイエローゾーンに入った場合には是正措置を採る。
 
 世の中の多くのプロジェクトを観察していると、WBSは作るが、プロジェクトマネジャーなどが恣意的に作っていて、当該プロジェクトをシステムとして正しく把握していない;プロジェクトスケジュールもコスト予算も作るが、WBSとは別の括りでバラバラに作っている;WPはプラントのプロジェクト以外ではあまり見たことがない;一応計画までは作るが(PM標準にそのように書いてあるので)、定期的なフォローはあまりきちんと行わない;という現象に多々当たる。
 
 要は徹底してPMをやっていないので、必然的に未達プロジェクトが生まれる。
 
 かつての日本では、何事もきめ細かく行い、計画とおりプロジェクトを収めるという世界に誇るべき技があったが、近年はほころびが目立つ。徹底的にやらなくなった。
 
 国として新型コロナウイルス封じ込み政策では、日本は、疫学発動、公衆衛生管理、サポートするICT、国民の規律のいずれでも隣国韓国に大きく遅れをとっている。とくに、若年層の感染予防に対する危機意識や行動規律で差が出ていると感じられる。
 
 新型コロナウイルスの封じ込めでは、韓国の他に死者ゼロのベトナム、台湾が有名となったが、西アフリカや中央アフリカの国も、多くの国民が三蜜状態で生活し、医療資源が乏しいなかで大変頑張っている。常に感染症の危機にさらされており、保健衛生当局のアジリティーが高く、夜の室内外食の風習はないが、宗教の集会と密の居住環境から派生するリスクをぎりぎり回避している。
 
 ルワンダ(Rwanda)という小国がアフリカ大陸の真ん中にある。ルワンダ(英語圏とフランス語圏がある)では1990年代中盤に部族間抗争からツチ族が100万人近く虐殺された血の歴史があるが、21世紀に入り海外に逃避した帰国ツチ族が近代的な技術やスキルを持ち込み、顕著に近代化が進み、「アフリカのシンガポール」、「アフリカの奇跡」と呼ばれる発展を実現した。首都には近代的な建物や道路が建設されて、ICT立国を目指し、ICTの普及・整備に力を注いでいる。強化された中央政権はアフリカに共通であるが、ルワンダではこれが経済成長の要因のひとつともなっている。一方で、政府の指導が市民生活の隅々にまで入り込み、各地の行政官は上部組織に対しイミヒゴ(Imihigo)と呼ばれるノルマを設定して開発計画を進めていくなど、強権的な開発独裁体制が確立している(一部Wikipedia引用)。この碁盤の目のリーダーシップ(監視)体制と近代的なICT基盤がコロナ封じ込めに威力を発揮し、人口1,130万人で、COVID19感染者1,689人、死者5人で収束しており、ルワンダはEU諸国からいち早く渡航制限が解かれた。

 プロジェクトマネジメント必勝のワザから国の新型コロナ防戦の話へと飛んだ。やるなら徹底的にやりたいものだ。 ♥♥♥

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