理事長コーナー
先号   次号

2020年を振り返ると

PMAJ 理事長 加藤 亨 [プロフィール] :7月号

 20年後、30年後、あるいは100年後に2020年を振り返ったときに、どんな年だったと記憶されているのでしょうか。
 現在の状況を生きている我々にとっては、「コロナウイルスが蔓延した年」いう印象が非常に強く、その記憶しかありませんが、歴史的にみると、感染症そのものは歴史的な事件として重要である以上に、その後の歴史に大きな変化をもたらしたという事実が重要になるようです。
 たとえば、「スペイン風邪」がパンデミックを引き起こしたのは1918~21年ですが、この時期は、第一次大戦が終結した時として知られています。「ヒクヒクドイツベルサイユ」とか、「遠くいくベルサイユ」など、1919年の語呂合わせでベルサイユ条約締結の年として覚えている方も多いかもしれません。
 最近のステイホームという状況の中で、色々なオンラインセミナーを聴きまわっていたのですが、池上彰氏がいくつかの講演で、「実は第一次大戦を終結させたのはスペイン風邪である。」というお話をされていました。
 第一次大戦という戦争で亡くなった戦死者の数は1000万人と言われていますが、スペイン風邪という病気の犠牲者は4000万人ともそれ以上とも言われています。どの国も戦争をしている状況ではなくなり、終戦せざるを得なかったようです。
 また、14世紀以降、ヨーロッパで蔓延し、ヨーロッパ人の1/3が死んだと言われているペスト(黒死病)も、その結果として、農作物を作る農民の絶対数が不足したことにより、農民の地位が向上し、ルネサンスにつながっていったと言われています。
 それ以外にも、ペストにより大学が休校となり講義が無くなったアイザックニュートンが、田舎に帰って暇を持て余していたら、庭のリンゴの木からリンゴが落ちて、万有引力の法則を発見したと語ったという説もあり、その後の物理学や哲学に大きな影響を及ぼしたのも歴史への大きな影響の一つかもしれません。
 さて、今回のコロナウイルスとの戦いはまだ終息したわけではありませんし、今後の第2波の発生にも十分に注意する必要があります。ただ、その中でもすでに多くの変化が現実となり、おそらくこれからの歴史を変えていくだろうという予感が芽生えています。
 PMAJとして、その大きな変化の予感を感じているものに「ジョブ型雇用」という言葉があります。テレワークが普及する中で、従来の従業員の業績を時間で測定するという方法が通用しなくなり、欧米流の「成果主義」の導入が進み、時間給で評価するのではなく、仕事の成果で評価する仕組みに変わる必要があるというのが「ジョブ型雇用」の意味合いの様です。でも、これは言い換えると「プロジェクト型の業務評価」そのものではないでしょうか。
 昨年、私はいくつかの地区のPMセミナーで、「プロジェクトマネジメントが日本を救う!」というテーマで講演をさせていただきました。その意味は、「高度成長時代の成功体験に縛られた、日本の『良いものを正確に繰り返し早く作るという役割を分担した縦割り型の日本の業務遂行体制』が、1990年代以降の日本の凋落の原因であり、今後は、組織を横通しして目的を達成するというプロジェクトマネジメント型の業務遂行形態を導入することが、日本再生のカギとなる!」という趣旨のものでした。
 まさに、テレワークの導入に対応する個人のジョブ型雇用は、その結果として組織としてのプロジェクト型業務評価につながり、最終的には企業全体でのプログラムマネジメント経営につながっていくのではないでしょうか。
 今回のコロナウイルス禍の中で、犠牲となった多くの方々の冥福を祈りつつ、その犠牲を無駄にしないためにも、この機会を、従来の殻を打ち壊し、新しい経営により日本を復活させるというチャンスに代えて行くこと、「塞翁が馬」という教訓を実践していくことが私たちの使命だと考えます。
 ということで、7月3日に、法人会員の集いに、元千葉工大の久保先生にご登壇いただき、「人間万事塞翁が馬~レジリエントな生き方~」をテーマにご講演をいただきます。法人会員の皆さまには、ぜひご参加ください。

ページトップに戻る