PMプロの知恵コーナー
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ゼネラルなプロ (117) (事例PFI 事業)

向後 忠明 [プロフィール] :7月号

 前月号でKさんは取締役建設本部長となりましたが、Kさんはこのポジションと関係なく、以前にPMが行っていた職務も含めて統括することにしました。
 同時に建設本部内の体制の見直しを行い、特にこれまでの前PDと確執のあったオーストラリア人のPMが罷免され、新しく入ってきたオーストラリア人を主に現場を主体とするCM(Construction Manager)的な役割として各現場を統括する役割とし、各エリアに置いた現場のマネジャを監督してもらうこととしました。
 これにより本社側のマネジメントはKさんを中心とした体制にすることができました。

 そして、本社サイドからの現場管理はこれまで現場エリア単位であったが、これを各システム科目毎に変更し、設計部門と直結し、各エリアでの技術上の齟齬が無いようにしました。その結果、現場への設計資料もこの各システム毎の現場管理者と設計部門のシステム担当者間で調整を行い齟齬の無いような形で現場に送れるようになりました。
 一方、コントラクターからの設計やその他の提出書類についても承認期間の短縮を図るため本社の設計部員も業者側に出向きレビューを直接行うようにし、承認期間の短縮もはかれるようになりました。

 また、問題のあった作業手順の作成をQA/QC部門にISO9001に従い作成するように指示するとともに、この方針を建設本部社員全体に周知し、協力するようにPD(建設本部長)としてお願いしました。
 また、スケジュールコントロールはPDの役割とし、その配下として、これまでのその職務についていた社員(オーストラリア人)を直接の指揮下に置き、実態に即したマネジメントができるようにしました。

その他としては
会議数の減少とアジェンダの設定による効率的な会議運営
重要事項及び緊急事項に絞ったPDによるDirector Orderといった徹底した指示の明確化
sequential Network Schedule(プロジェクト4からプリマベーラへのsystem変更)。そして、プロジェクト担当部門の壁にSカーブを各システム毎に進捗具合を示すA0判の大きさの進捗表を張り、進捗の見える化を図った。
各コントラクターの契約書レビュー/チェックとそのまとめ
そして建設予算の見直し等々

 このような見直しや改革案の実行及び指示を出しましたが、一方ではすでに実行されている仕事の問題の処理、そして会議等と関連する仕事を一度にやるといった目まぐるしい状況が就任以来長く続きました。

 このような中、今度はスポンサー側コンサルタントと融資銀行団調査が本事業の調査のためやってくるとの情報が入りました。
 彼らの来訪の主要点は建設の進捗状況並びにそれに伴う電話収入の状況の調査とそのヒアリングです。
 調査やヒアリングをされても、現状ではその進捗は全く進んでない状態であり、このままでは融資時期の先送りまたは中止といった事態を招きかねないといった危惧もありました。

 一方、Kさんの就任前の顧客(インドネシア電信電話公社)に約束していた建設達成目標も達成できていない状況となっていました。
 この達成目標も結局は以前のマネジメントの未熟管理と現場工事の状況未把握の下で作ったものであったようです。
 そこで、目標回線施設数の達成具合と工事業者の能力をこれまでの実績及び現場調査により、初期の達成目標は絶望的な状態であることがわかりました。
 このままでは銀行融資も先送りとなることが必然となってくるように思い、この目標値を変更するようにKさんは役員会やスポンサー会議にて強く要求し、顧客に提示するようにお願いすることにしました。

 これまで行ってきたことは建設本部内で起こっている問題の分析や調査であり、そのための各種対策を行ってきたが、こんどは工事の進捗や達成目標といったことが銀行融資にかかわる問題と絡んできて、一難去って、また一難ということになりました。

 ここで少しPFI事業の収益構造について話をしておきます。
 この事業は投資家や銀行団に約束した本事業の事業可能性から見ての投資対効果といったものが守られているかどうかといったことです。それは、本事業の建設コストと運用にかかわるコストと収益のバランスとの関係を考慮したものでなければなりません。
 この事業の償却年限は15年を前提としているので、最終的にその間にて投資家としては投入資金の回収ができなければなりません。
 このことは、すでに本事業の入札時のビジネスプランからくるキャッシュフロー予測からIRR(内部収益率)を算出して、この事業の妥当性を出していました。
 IRRの計算式は銀行利回り、エクイティーリスク、ローカルリスク等々を考慮してある一定の%以上になれば問題ないということで進めていたようです。
 しかし、本事業は初めから問題含みで15年の事業期間の約2年以上が無駄となり、当然、銀行団も投資家も問題視することになるのは当然です。

 ここで、コンサルタント(ヨーロッパ企業)が入る理由は本事業の進捗を第3者の目でその信ぴょう性をチェックすることにあります。
 この対応は主に建設本部であり、新たにPDとなったKさんはこれにも対応することになります。その他に銀行団(日本、アメリカ、ヨーロッパの混成)に対する説明もあり、本事業の現状説明も、財務本部と共にやることになり頭が混乱する毎日となりました。
 このことはこれまでの進捗遅れのキャッチアップを建設本部内の体制立て直しにより進めようとしようとしていた矢先だったが、そのことにも支障をきたすことになってきました。

 しかし、Kさんは「できるだけ事務的な作業は配下の戦略企画部と財務本部に任せる」ということで、建設本部内の立て直しを優先的に行いました。
 その一方ではこれまでの遅れによる進捗具合から当然目標としている達成値には届かないことは明白となっていたので何とかしなければと悩んでいました。
 そのため、役員会において当初の最終目標値には遅れていることを事実として認め、今後は建設本部の建て直しを確約し、今年度の目標値の変更を提示しました。
 その結果をもって、その後のスポンサー及び顧客(インドネシア電話公社)を交えた会議にて何とか承認を得られることになりました。
 そして、承認された達成目標を確実にするため、PDとしてのKさんの活動が開始されることになります。この会社に就任後、2か月ほどたっていたが建設本部内の体制及び計画のリセットも完了し、全員が一丸となって動き出すことができるようになりました。
 このように内部体制の問題是正が終えたところで、今度は外(特に業者関係)に向かっての動きに重点を移すことになります。
 すなわち、約束した目標建設数を予定通りに回復すべく手を打つといった対外是正処置に焦点を移していくことになりました。
 対外的な問題では進捗状況が最も芳しくない線路工事業者(オーストラリアとインドネシアとのコンソーシアム)の工事の状況でした。そのため、建設本部内にこの線路工事を重点とした直営のチームの編成を行い、それぞれの現場に社員を常駐させ監視することにしました。その他の業者に対しては類似プロジェクトにて十分な経験を持った有能なスタッフを新たに雇用することや下請け業者に対しては十分な能力を有する技術スタッフを補強するように各業者に要求しました。
 特に、線路工事は最も工事量が多く、また中部エリア全域に掘削やケーブルを引くのでローカル政府や住民の協力、そして既存埋設物などに注意しながら工事を行う必要があります。
 その他、電気通信の宿命である無電話村落対策としてのWLL(無線による通信)の設置義務もあり、ジャングルの中を分け入って無線基地、アンテナタワーそして電源装置を各所に建設するといった難題もこの事業には含まれていて、この工事もかなり遅れていました。
 その為、設計効率や工事効率のより高い、そして需要密度の比較的高い地域を再度検討しなおしました。その結果、WLL設置対象地域を減らすことができ、遅れを回復することができるようになりました。
 その他の外部要因としては、インドネシア特有の宗教事情(イスラム教)による断食月、イスラム正月、そして雨季や選挙といったものもあります。
 当然このようなことは予測できる問題であったが、これまでの計画では残念ながらこの考慮がされていないことも判明し、スケジュールの見直しなども行い、進捗Sカーブも新たにゼロベースで作り直しを行いました。

 このように対内、外の問題を一つ一つ取り除くことによって、建設本部内の雰囲気も何となく、社員も前向きな気持ちで仕事を進めるようになり、4か月ほどたってからは工事の進捗も少しずつ上り調子となってきました。
 特に工事の進捗の効果に役に立ったことは進捗カーブを各担当システム(ケーブル敷設、WLL、伝送光ファイバー敷設など現場工事の困難なシステム)毎に壁に張った壁紙に示した計画工事対実際工事を示したSカーブです。
 この壁に張った進捗カーブを見ながら各システム担当者はお互いに競争して、その進捗の発表のあるたびに「今回は俺の負けだから、次は勝つぞ」と冗談を言いながら現場に戻っていきました。
 壁にでかでかと張ったこのSカーブに示された実行と計画の進捗差を埋めることがみんなの目標となり、進捗の見える化としてばかりでなく競争心をたきつけるための良いツールとなりました。
 このようなことでこの頃になると電話設置工事も予定目標に近づき、これまでの事業会社に対する不評、不信感も一掃されてきました。
 その良い兆候として、このことが新聞やテレビで報道されるようになりました。
 この頃になるとこれまでのこの事業の体たらくから、全く見向きもしなかった、N社の副社長や常務がやって来て工事の状況や今後の事業の在り方や問題についてのヒアリングなどを求めてきました。
 その後も多くの日本企業が、いろいろと本事業についての情報収集にやって来ました。

 しかし、就任7か月ぐらいになると建設工事は順調に計画値に近づき、いい気になっていた時、社内の営業の方から「売れる回線」がどのくらいあるかその供給実数を求めてきました。
 この要請は、Kさんにとっては全く予想外のことで、さらにこの問題解決のため新たな動きをする必要が出てきました。

今月はここまで

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