PMプロの知恵コーナー
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ゼネラルなプロ (116) (事例PFI 事業)

向後 忠明 [プロフィール] :6月号

 インドネシアから電話があり、特別な準備もなく急遽インドネシアに向かうことになりました。あまりにも急な呼び出しであったので、機中の人になってからも「一体何がインドネシアで起こったのか?」とKさんは考えました。

 インドネシアに着いたら、空港でN社の社員が車を用意して待っていました。
 そして、そのままジャカルタのI社に連れていかれました。
 このI社というのはインドネシアの国際通信を一手に引き受けている会社であり、日本の昔のKDDに相当する会社であり、インドネシアでは大手の企業に入り、有名な会社です。
 その建物も立派なもので、Kさんの乗った車は会社の玄関に車が横付けされ、そのままN社の社員に導かれ5階の会議室前のロビーに連れていかれました。
 このI社は今回のPFI 事業での筆頭株主(スポンサー)であり、Kさんは理由もわからず、案内され会議室前のロビーに来ました。

 そこにはN社の役員がKさんを待っていました。その場で出来ればと思い今回インドネシアに呼ばれた理由を聞こうとしましたが、残念ながら何も話をしてくれませんでした。
 しばらくして、会議室からインドネシア人が出てきて、Kさんに挨拶しながら、「次はお宅の番です」と言われ、N社の役員と一緒に会議室に入りました。
 そこにはI社の会長、T社の役員そして一緒に入ったN社の役員の3人が座って、その前にKさんは面対の形で椅子に座るように指示されました。まるで入社面接かと思うような形で座りました。

 何となく緊張する雰囲気の中で、最初に聞かれたことは「貴君の出されたSPC会社の問題に対する対策でこの会社の苦境を貴君は解消できる自信はあるのか?」とのことでした。
 Kさんは「報告書に示されているこの会社の問題を理解し、そこに示された対策をとれば十分可能と考えています」とはっきりと言いました。
 ただし、「多国籍で構成されているこの会社ではトップに立つPDはかなり強権的なトップダウンの指揮でやらないとうまくいきません」とも言いました。
 さらなる質問で「貴君は会社経営に必要なことは何だと思うか?」と聞いてきました。そこで以前、日揮にいた頃の研修でのケプナートリゴ法の問題解決法や中小企業管理士試験の参考書に書かれていた経営管理に関する企業のあり方などについて簡単に説明しました。

 このようなやり取りを一時間ほど行われ、終わった後は興奮していたこともあり、また英語での面接でもあり、自分が何を話したのかもわからないまま終わりました。
 「何故、経営のことまで質問されたのか?」を考えながら会議室を出てきたが、何となくこの会社の問題処理をKさんに依頼するつもりで各社の役員は考えているのではと感じました。
 その後。N社の役員が戻ってきて、「I社の会長はKさんの対応は日本の侍のようですね!とかなり君を気にいったようだよ!」と言ってきました。
 「そこで君にインドネシアにもう少しいてもらい、明日の大事な会議に参加してもらいたい」と依頼されました。
 しかし、Kさんは「日本でのやり残しの仕事もあるので早く日本に帰りたいです」と言ったところ、「それも明日の会議次第ですね!」と言われました。

 この会社の混乱の内容といきさつ、その対策の概要についてはすでに前月号で話をしました。
 この問題の発端はPMと設計の確執であり、設計の承認遅れが進捗の遅れの原因ということであったが、それ以外に多くの問題が内在していることが分かりました。
 以下に会議の場にて各社のスポンサー会社の役員に話した内容を纏めてみました。

<原因>
建設本部の強いリーダシップがないため他のスポンサー企業(I社、T社、W社、その他)から横やりや介入が入った
進捗遅れの原因究明がなされないままの会議(問題分析より達成義務の変更をどうするかの後ろ向きの会議ばかり)
建設のキ―となるPMのプロジェクトマネジメント能力の不足
本部長(PD)の指導や判断の不作為から上記PMの本部長に対する不信感
PMの設計部とのコミュニケーション不足と独断的判断による他の組織への介入
進捗管理のズサンさと細かすぎる進捗管理(バラバラな進捗管理)
各現場管理者間とのコミュニケーションギャップ

<問題>
多国籍による組織運用上での習慣や考え方の違い(日本人の性善説とオーストラリア人の性悪説)
人種的偏見(表面的には問題ないが、底流に流れる思いは異なる)
仕事の進め方(共通基盤の不足)やマネジメント能力の差
コミュニケーション不足とそのギャップ(英語、インドネシア語そして日本語)
特にコンテキストの理解が得られないためいわゆるツーカーが通じない。
欧米系の人達の日本を含めたアジア系人種に対する目に見えない優越性

 そしてその主な施策として以下のようなことを迅速に実行に移し、是正の処置を行うことを示した。その内容と対策を以下に示します。

スケジュール
 各現場及びサブシステム間(回線敷設、交換局と関連施設、伝送システム、無線シスム、制御システム等々)の連携そして図面や仕様書の適切な提出・配布の迷走、そして現場作業の連携等々にて混乱が生じている。
 すなわち、スケジュールコントロール及びドキュメントコンットロールが迷走していることが問題となっている。

<対策>
あまりにも詳細そして各作業の関連の無いスケジュールコントロールチャートで全く用のなさないものであった。ネットワークチャートの作成をする。
誰でもわかる進捗の見える化を図り、誰もが現在の進捗がわかるようにアナログ的に示す。
ドキュメントコントロール、図書類や機器材のデリバリーのコントロールをスケジュールコントロールセクションに一元管理させるその強化を図る。
QA部門の本来の仕事であるプロジェクト枠組みつくり(WBS)を考慮したISO基準の業務手順書早期に作成と、その順守を図る。

組織
設計部門とPM部門との確執、現場リーダと本社側APMそしてPMとのコミュニケーションの問題の解消
<対策>
現場の情報が本社側にいる各エリア担当のAPMからPMを通して設計部門へのコミュニケーションルートに問題があったこと、そしてAPMの役割にも現場の問題が共通化されないこともあり、これらの問題解消を行う。
すなわち、APMの役割を変更し、サブシステムごとの担当とし設計部門と直接コミュニケーションを取れるようにし、これまでの現場ごとの担当による弊害をなくす。

多国籍問題
ビジネス習慣も異なるが共通となるプロジェクト遂行に必要な手順書が確立されていないため、各々が自国の仕事のやり方で仕事を進めていた。
<対策>
誰もが納得する国際標準であるISO 9001に順じたコーディネーション手順書を作成し、これに従った業務遂行を行うようにする。
早急にQA部門にこの作業を行わせ、その順守を守るようにさせる。

 以上のような内容の話を役員との面接において説明を行いました。
 その結果が冒頭での話であり、KさんはここまでSPC会社の問題とその対策について各社のスポンサー会社の役員に説明したものの、「自分にその対応が回ってくるのでは!天つばになってしまったのでは!」等々と不安になったようです。

 そして、その翌日SPC会社の本社があるスマランにSPC役員及びスポンサー各社の役員が集まり、Kさんの前日の報告の内容をスポンサー会社の代表であるI社の会長から説明がありました。

 会長はこれまでの本事業の問題の基本はSPC会社のトップを含めた各事業本部の無責任体制にあったこと、そのためには組織改革の必要性があると判断し、SPC会社のCEO を始め、業務上本件に関係ある関係役員や担当部長の罷免を発表しました。そして、同時に罷免されたCEO、会社役員そして担当部長の入れ替えを行いました。

 この時、Kさんは取締役建設本部長(PD)との発表を受けましたが、このことはKさんにとっては全く「寝耳に水」の話となりました。
 このことは、今回の「言い出しっぺ」であることを考えると、こうなるのではと役員面接の時の雰囲気から感じていました。
 それでも、自分は現PDの下で現地駐在のアドバイザーの立場ぐらいと思っていたが正直会長からの発表には驚きでした。まさかここまで重い責任を負わされるとは思っていなかったようです。

 その他の人事異動は建設本部の「がん」となっていたPM及び口出しの激しかった財務本部長であり、代替の人はそれぞれ同じスポンサー会社(オーストラリア)から新しい人材が送られてくるとの話でした。
 このような経緯でSPC会社の組織変更が行われ、Kさんは 建設本部長(PD)に就任することになりました。

来月号はPDとなったKさんのSPC会社立て直しをどのような活動をしたかについて報告します。

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