PMプロの知恵コーナー
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ゼネラルなプロ (115) (事例PFI 事業)

向後 忠明 [プロフィール] :5月号

 これまでは日本側とオーストラリア側がうまくいっていない理由は商習慣的のものだけでなく価値観の違いなどからくる問題が多いように感じていました。
 一般的には日本人中心でプロジェクトを構成する場合、日本人同士のメンバーの価値観や判断基準は似ていることが多いです。また「阿吽の呼吸」といったコンテキストの食い違いのように明確に記載していない部分まで当たり前と考える傾向にあります。

 このような前提に立って、PMA(PJ Management Advisor)のKさんは現地に入り、問題の現状把握と問題解決の糸口探しの調査を開始しました。

 (なお、下図に関係部門の話がいろいろ出てくるので参考に再度ここに示しました)

関係部門

 調査を開始してまず行ったことはこの会社(SPC)の社長(CEO)はじめ幹部に会って話を聞くことから始めました。
 しかし、最初に会った社長の言葉で「PJアドバイザーはいらない、日本人は信用できない」の言葉でした。
 この言葉でこれ以上何も社長とは話す必要がないと考え、今度はオーストラリア側の幹部役員に会って話を聞きました。
 しかし、ここでも全く相手にされず、表面上は穏やかに笑顔と語り口で話をしてくれたが、日本人側のプロジェクト遂行能力の低さを遠回しに話すだけであり、参考にもなりませんでした。
 また、オーストラリア側の親会社であるコンソーシアムリーダのT社代表にも話をしたが「プロジェクトの遅れは主に日本側担当の設計と承認遅れが最大の原因である」と言っていて、SPC内のオーストラリア側の幹部と同じ意見でした。

 そこで、今度は日本側の建設本部内の人達に話を聞くことにしました。
 最初は本プロジェクトの実行責任者であるオーストラリア側出身(T社)のプロジェクトマネジャ(PM)に話を聞き、現在起きている事象についての考えを聞きました。
 このPMも同じく問題視していることは設計関係であるということでした。
 そこで設計部門のN社出身のトップに話を聞いたところ設計図はすでに必要なものは現場に送られていて、現地で工事を行う業者の現場設計を待つだけになっているとの話でした。
 しかし、その後も再度のPMへの質問に対しても同じ答えであり「何はともあれ設計が遅れているから工事ができない」との話でした。
 これらから判断すると設計図がどこかに滞留していると思いドキュメント管理担当者に聞いてみることにしました。
 しかし、ドキュメント管理担当を探しましたが、いろいろな人に聞いて分かったのですが、その役割担当はQA部門ということがわかりました。
 何故、この部門がドキュメントの管理担当として設計と現場の連絡先になっているのかわかりませんでした。
 このQA部門はプロジェクト部門とは全く関係なく、行っている作業の内容を聞いたところ、ただ単に書類を設計部門から送られてきたら単純に関係部門に配布するという役割ということでした。
 その上、この部門はプロジェクト部門からの依頼で購買部門との調整役も行い、購買機器材や現場の品質管理といったQC(品質管理)もやっていました。

 QA部門のもともとの役割を聞いたところ、このプロジェクトは多国籍なので仕事のやり方も異なることから統一した手順を作成することが目的ということでした。
 すなわち、ISO9001に従って業務手順を作成し、それに従った統一した管理手順で仕事を管理する部門とのことでした。
 ところが、QCで忙しく、本来の仕事をする時間もなく、そのため全くISO手順に従った書類作成することもできず、現在に至っているとのことでした。ましてや本建設本部内で行きかう書類等の管理手順も全くありませんでした。
 何故このようになっていたか原因を探っていくとプロジェクト部門のトップであるオーストラリア人のPMが同じオーストラリア人の仲間であるQA部門の長に建設本部長(PD)と相談もなく独断でQA部門に関係の無い仕事の依頼をしていたことがわかりました。

 この問題については日本人の設計部門の長もPD(Project Director)にクレームを出していましたが、PMは全くこのクレームを無視して、問題にもしていませんでした。
 その結果、お互いに責任のなすりあいということになり、設計部門とPMが険悪な状態になっていました。
 このような状態をPDはそれぞれの関係者を集めて、何とかこの問題を解決しようとした。
 しかし、他のオーストラリア人担当の財務部長や運営本部長の反対意見もあり、結局はPDも何もできずに、何も手が付けられていなかったようです。

 このように調査をしていくと、日本人とオーストラリア人の中に亀裂が入っていて、協調してプロジェクトを進めようとする雰囲気にはなっていませんでした。
 その上、PDがオーストラリア側の強固な絆を崩すために必要な突破力そして起きている問題に対する意識の低さやリスク管理に対応するプロジェクトマネジメント上の基本的対応不足を強く感じました。

 スケジュールの進捗についてもPM配下にあり、オーストラリア人のSC(スケジュールコントローラ)がやっていました。
 このSCから設計、調達そして各エリア現場の進捗具合を聞いたところ、全くと言っていいほど明確な答えが返ってきませんでした。
 そこで、スケジュール表を見せてもらいましたが、各作業の内容とそこに示された目標とするスケジュールが細かいバーチャートで示されていてあまりにも細かいものであり、コントロール目的となるようなものではありませんでした。
 それもお互いの機能や関連する各エリアとの関係も示すいわゆるネットワークスケジュールになっていませんでした。
 Kさんが見てもそのスケジュール表から「何がどうなっているのか」全くわかりませんでした。
 結果的には現場に設計書類も機材もなく工事が始まっているようなものもあり、逆に現場が始まっているのに設計図もなく機器材もないといったようなケースが見られました。
 また、設計書類も関係機器材も全く関係ない別の現場に送られていたりしていて、何のためのSCかわかりませんでした。

 現場調査の結果で判明したことはオーストラリア側も、日本側もプロジェクトマネジメントの基本が全くなされていなかったことと、そして日本人のオーストラリア側への頼りすぎが原因となっているようでした。このような状況であり、このままではこのプロジェクトを続ければ完全に挫折すると思いました。

 そして、日本に戻りこの調査結果を作成し、PMA(プロジェクトアドバイザー)であるKさんがスポンサーであるN社の役員や担当部長に直接説明に行きました。
 そこで言われた言葉は「建設の進捗遅れは日本側の設計遅れにあるとオーストラリア側のスポンサー責任者も言っているので、まずはこの人を説得することが必要である。」と言われました。
 そのためには「問題提起だけではなくその対処策も具体的に示さないと説得力はない」ともいわれました。
 確かに問題提起だけでは対策も打てないと思い、ここで調査結果により自分なり問題分析を行い、その解決案(対策)を作成し、報告書の作り直しをしました。

 これまで、多国籍での事業やプロジェクトは商習慣や文化の違いや考え方の違いからくるとばかり思っていました。
 しかし、この報告書を作り直しながら、「日本人の弱いところを少しでも見せると虎が弱い動物を襲うように、その弱いところを突いてくる」といった欧米人の攻撃性を今回の調査で感じました。
 その主な原因は「PDの全体マネジメントや直接部下であるオーストラリア人PMを抑えることができなかったこと」、そして「PMやそれに同調するほかのオーストラリア側の幹部の意見に反論できなかったこと」と思いました。
 すなわち、日本人はどちらかというと欧米系の人に強く出られるとすぐに引き下がってしまう弱い面があります、これがPDとPMの間にあったような気がします。
 また、同国の人達は自分たちを守ろうとする意識が働き、間違いがあってもなかなか認めようとしません。
 今回特に目立ったのがPDのプロジェクトマネジメントの基本がわかっていないことがオーストラリア側のPMに悟られ、PDの言うことを聞くこともなく、またこのPM自身がプロジェクトマネジメントのプロを自称し、自信過剰気味で傍若無人の動きをしていたように思えました。
 その結果、前述のような事象が生じてしまったことがプロジェクトの進行に混乱を生じたと考えました。
 特に、PDに言えることは「海外で仕事をする場合は指示は明確に」ということでした。

 すなわち、
言葉での伝達だけではまず仕事はやらない(書類に示す、そして書類に残す)
手順書を作り共通の理解を持つように心掛ける(分ったそぶりを示しても自己流となる。)
指示すればやっていると思っては行けない(進捗チェックや問題把握は他人任せにせず自分で)

 勿論、ここに示すことだけではありませんが、このようなことを考えながら今回調査した結果の分析を行い、その問題と対策をまとめました。その結果をもって早速インドネシアに向けて出発し、オーストラリア側のスポンサー代表に説明をするためにジャカルタの事務所に出かけました。そして、この報告書に示す対策をすぐに取らないと、問題はさらに大きくなることを説明しました。
 その後、建設本部に出かけPDをはじめ日本人スタッフに説明をし、すぐにこの対策をとるようにと説明し、日本に帰ってきました。

 これでお役御免と考え、日本でこれまで進めていた、ISO9001のN社関連の各企業に対するコンサル業務に復帰することになりました。
 そして、N社関西支社(現N社西日本)のコンサルを開始し、ここの社員に対するISO9001についての教育やその進め方について説明していた時、社員から「Kさん、インドネシアから電話です」と呼び出しがありました。
 早速、その電話に出ると「Kさん、すぐにインドネシアに来てください」ということでした。
 何事かと思いましたが、東京に戻り、その次の日に急遽インドネシアに向かいました。

今月はここまで

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