図書紹介
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なぜ感染症が人類最大の敵なのか?
(岡田晴恵著、(株)ベストセラーズ社、2020年04月05日発行、オンデマンド版、343ページ、1,760円+税)

デニマルさん : 7月号

今回紹介する本は、2020年の年初から世界中に拡散しパンデミックとなった感染症と人類の関係を詳細に書いている。しかし、本書は2013年に執筆されたので新型コロナウイルスには触れていないが、感染症の歴史とその問題点を分かり易く纏めてある。それと著者だが、新型コロナウイルスが話題となった2月頃から民放のモーニングショウ等のテレビのコメンテーターとして頻繁に出演されていた。それを新聞等のマスコミでは、その活躍振りを「コロナの女王」と揶揄していた。それはさて置き、著者は、感染症学や公衆衛生学を専門とする大学教授であり、医学博士でもある。筆者も、この新型コロナウイルス感染防止の緊急事態宣言下での外出自粛の間、何回となくテレビで著者のコメントを拝聴した。その内容は、疫学者として如何にパンデミックを抑え込むか、そのために政府や関係機関や専門家は何をすべきかを明解に指摘していた。そのポイントは、コロナ感染に関する検査の拡充と感染者の隔離を徹底して、急増する危険性の高い重症患者を救う事。更に、コロナ感染者以外で入院中の患者や緊急患者に対処する。所謂、今まで通りの病院機能を維持するために、医療崩壊を絶対に防ぐ事。それと次なる感染拡大を防止する必要性を強調していた。その話は、素人にも分かり易く丁寧に説明され、主張にブレがなく納得できた。筆者は、そのコメントに共感して、この本を購入した経緯がある。さて、著者の経歴から感染症との繋がりを紹介したい。埼玉県の出身で大学の専門は薬学研究であったが、大学卒業後の2000年にドイツのマールブルク大学医学部ウイルス学研究所に奨学研究員として留学した。この大学はグリム兄弟が通ったこととウイルス学では世界的に知られている。この大学のあるマールブルクの街には、聖エリザベート教会があることでも有名で、聖女エリザベートを称えて建設された教会である。聖女エリザベートは、ハンセン病患者や貧困者を献身的に支える活動をしていたと本書に紹介されてある。昔からハンセン病は伝染病として恐れられていた。日本でも以前はライ病と言われ感染防止で隔離され、差別と迫害を受けていた。中世ヨーロッパでも同様な状態であった。著者は、そのハンセン病等の感染症を身近に感じて学んだことを綴っている。帰国後、国立感染症研究所の研究員を経て白鷗大学の教授となっている。マールブルク大学での留学経験から感染症への道を深める契機となったと書いている。それは人類と感染症の歴史から、疫学者としての将来を見極めたのかも知れない。この本は、感染症の歴史から人類の歩んだ道を分かり易く纏めてある。そこから現在の新型コロナウイルスのパンデミックに、我々はどう対処すべきかを学べる良書である。ご一読をお勧めしたい。

感染症とは             ――身近で怖い感染症――
感染症とは、ウイルスや細菌等の病原体が体内に侵入して発熱や咳等の症状から命に係わる病である。この感染症は、色々な種別があり感染経路から分類されている。①接触感染(感染者・源の接触):本書では梅毒の例。②飛沫感染(咳やくしゃみ等):インフルエンザの例や、新型コロナウイルスはこれに含まれる。③空気感染(空気中の最微粒子):結核の例と、④媒介物感染(食品、血液、昆虫、動物等):ペスト、新型インフルエンザの例。これらの事例を細かく歴史を追って紹介している。それと公衆衛生の誕生の章では、各国の検疫、パスポート、保健所や医療施設等も紹介している。中世の時代での教会の果たした役割も文献を基に丁寧に説明されてある。中でも検疫(QUARNTINE)の語源が、イタリア語の40(QUARANTA)から来ているとある。これはペストの感染防止の為に、各国が人と物資の水際防止で船舶を40日間の停泊させたことからと紹介している。現在の新型コロナウイルスの感染防止のため2週間を強制隔離される例に等しく今も昔も変わらない水際作戦である。到って単純な方策であるが、歴史が証明している確実な方法で、昔から変わらない人類の知恵である。

感染症の歴史           ――聖書にある感染症――
感染症は、人がいて病原菌があるから感染し拡大もする。著者は、その感染症の歴史を有史以来から紐解いている。新約聖書でのラザロの復活から感染症(重い皮膚病)の蔓延を救った記述からハンセン病の対処や、先の聖エリザベート教会の活動の歴史へと繋がっていく。中世の黒死病と言われた「ペスト」は、ヨーロッパ中に蔓延して、世界で数千万人もの死者を出し、ペストの蔓延が大量死を意味すると言われた。この感染ルートは、当時の物資と人の流れの中心となったシルクロードを通じてヨーロッパ中に感染したと著者は書いている。次のルネッサンス期には、梅毒の流行があったことも触れている。その後の産業革命の時代には結核の感染があった。現在では結核が感染症である事を忘れている位に撲滅された病である。日本でも1900年代の初期には100万人もの結核患者が居たと言われている。その後ストレプトマイシンが発見されて、結核の治療薬が有効に効いて感染が無くなっている。

感染症の予防策           ――感染症とパンデミック――
この本は、2006年に「感染症は世界史を動かす」(ちくま新書)として出版されたが、2013年に鳥インフレエンザやMERS(中東呼吸器症候群)の発症で加筆して再出版されたとある。だから新型インフルエンザに関してはこと細かな情報が記載されてある。その感染症が蔓延してパンデミックとなったのは、先のペストと第一次世界大戦中の「スペイン風邪」があり、世界での死者は数千万人とも言われた。その後、アフリカのコンゴ(旧ザイール)やスーダンでのエボラ出血熱は致死率の高さで脅威となり、1千万人が亡くなっている。2002年にSARS(重症急性呼吸器症候群)や先のMERSは、コロナウイルスによる感染症がある。そして2013年MERS患者から感染力が強いスーパースプレッターのウイルスが発見されて、新型コロナウイルスとなった。これが現在の新型コロナウイルスの原型だという。これからのパンデミックを抑えるには、生命を守るか生活を守のかのバランスの闘いであるという。身近には『感染しない。感染させない』生活をする事が最善の策であると著者は力説している。

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