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プロジェクトをマネージする力

井上 多恵子 [プロフィール] :6月号

 私が関わっているプロジェクトに、これまで社外で多様なプロジェクトを手掛けてきた方が加わった。海外でも名門校に留学をしており、頭脳の切れは抜群だ。彼女がプロジェクトをマネージするようになり、その手腕の凄さに感服させられている。
 とにかく、スピード感が半端ない。頭の回転が速く、歩き方も早い。会議中にどんどんメモを取り、終わるとすぐ格納しているから、次の仕事にすぐ取り組める。いろんなことを次々とマルチで手がけてきたからだろう。コンサルテーションもしてきたからか、人の懐に入るのが上手だ。相手をちょっとホットさせようと思う時には、関西弁を使うというテクニックも用いている。余談だが、私も以前、研修講師をする際は、「冒頭で関西弁を使うといいよ」と言われたことがある。私の意図はそうではないのだが、どうやら、私には、常日頃から近づきがたい雰囲気があるそうだ。今回彼女の話しぶりを見ていて、雰囲気を柔らかくする「関西弁の効用」を思い出したので、今後使ってみたい。今は、対面ではないバーチャルな世界が主になっている中、ハードルは更に上がっているが、まずはトライすることから。
 彼女がメンバーとして加わり、まずやったこと。それは、メンバーを知ることだった。私とも1時間話をして、私の人となりや仕事への態度などを探っていた。それをメンバーだけでなく、部の他の人達ともしていった。組織開発の知見も豊富な方だからこそ、「人を知る」「対話をする」ことの重要性を理解し、時間をかけて実践したのだろう。「対話」のやり方もとても丁寧だ。例えば部単位で話し合う場合、私だと、時間が少ないことを口実に、「皆で話そう!」といって全員と対話をしただろう。せいぜいマネジャー抜きでまずはメンバーから話す、といった形式だろう。しかし、彼女の場合は、まずはより小さい単位のメンバーとじっくり話をしてから、マネジャーに話を持っていった。効果を考えて、そこにかけるべき時間を決める、そういったことの繰り返しなのだろう。
 次に彼女がやったのは、フォルダー階層をすっきりさせることだった。何か新しい情報が届いた時に初めて、「さて、どこに入れようか」と考えるのではなく、事前に一連の流れを考えておいて、それに合わせてフォルダー階層をつくっていく。複数の人がアクセスするので、フォルダー階層のルールも徹底している。わかりやすい構造にしておくことで、情報を探す際のコストも下がる。中程度の項目の進捗管理票をつくる際も、想定し得る達成度合いを最初に洗い出し、それぞれを引っ張ってこられるようにしている。そうすると、本来どこまでいっていかないといけなくて、それに対して、今のステータスはどうなのかが、一目瞭然に分かる。私の姉が常日頃言う”Forward Thinking”(先のことを思考して、今の行動を行う)に繋がる考え方だ。私自身は何かが起きる度に対応するタイプで、それによって生じるマイナスも感じてきているので、身近な彼女のやり方を見習っていきたい。
 PMとしてプロジェクトを成功させるために、ありとあらゆる努力をする、という姿勢も、感服するに値する。つまずいている人がいると、プロジェクトが上手くまわることが目標なので、「これをやるのは私の仕事です」と言って自ら手をあげて支援してくれている。例えば、メンバーが作成した中項目の目的やゴールが曖昧だったり、何かの会議用の資料の流れが上手くできていない場合などは、一緒に考えてくれたりしている。社内でそういったことをしている人もいるかもしれないが、ここまでの徹底ぶりは、私は見たことがない。
 更に、PMで十分多忙になっていることに加えて、今社員に必要なことは何か、といった視点から考えて、社員に配布できる資料をどんどん作成していっている。私が一つの仕事をやっている時、彼女は複数分をこなしている。自身の学びも継続していて、どんどんステップアップしていっている。
 従来からきちっとプロジェクトをマネージしている方々からすれば当たり前のことかもしれないが、実践経験が少な目の私自身は、ここまで身近にすごい人を観察できているのは初めてで、大いに学びになる。私自身がやっているプロジェクトが難航しているからこそ、私自身の「使えるものはなんでも使いたい!」という気持ちが強くなっており、真剣に観察するようになった、ということも言えるだろう。
 観察し学ぶ、という観点からは、大阪で新型コロナウイルス対策リードしている吉村洋文大阪府知事の動き方にも注目している。プロジェクトの進捗や成果をどう伝えていくか、といったコミュニケーションの在り方や、リーダーの資質といったようなことについてもヒントがもらえる。てきぱきとしたタイムリーな指示、真摯に府民のことを考えていることを想い起させる表情と態度。新型コロナウイルス対策で再び休業を要請する際の独自基準「大阪モデル」。も数値化されており、信号の色で状態を示すなど、分かりやすくなっている。
 新型コロナウイルスの影響を受け、増えている社内外のプロジェクトの数々。それら「一つひとつから何を学ぶことができるのか?」「自分のプロジェクトで実際に活用できることは何なのか?」そういた視点で改めて見ていると参考になることがいろいろとありそうだ。

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