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プロジェクトの力

井上 多恵子 [プロフィール] :5月号

 新型コロナウイルスの感染拡大を受け、多様なプロジェクトが起きている。それらを見聞きして思う。今回は、プロジェクトが持つ価値を多くの人が改めて認識する機会になっているのではないかと。世界中の誰もが共通して直面している課題。自分達の生活が激変している中だからこそ、健康や生活を守ろうとする取り組みには、自分事として、感度が高まっている。
 ここ一か月間、私自身に、プロジェクトの力を再認識させてくれたプロジェクトはいくつもある。ここでは、グローバルな観点からOne World: #Together At Homeを取り上げたい。新型コロナウイルスの感染医療従事者を支援しようとして、Global Citizenと世界保健機関、そしてLady Gagaがコラボしたプロジェクトで、サイトにデジタルスペシャル版として、動画が掲載されている。影響力の大きいLady Gagaが想いをもって呼びかけ実現した国内外の著名人が参加するというスケールの大きさを維持しつつ、企画力とデジタルの力を活用して、各視聴者の心に響く形になっている。
 1985年に「アフリカ難民救済」を目的として複数の会場を使って開催されたLive Aidの時は、その規模感に圧倒されたが、今回のOne World: #Together At Homeは、自分の心により深く入ってきた。Live Aidの時は、寄付を呼び掛けたのに対し、今回は「家にいよう」という呼び掛けで、これは一人ひとりが行動を変えるということを意味する。また、サイト上で、各自が誰のために自宅にいるのかという宣言をできるようにもなっており、自分もプロジェクトの一員なのだ、という感覚になる。また、著名な出演者が自宅から参加しており、プライベートな情報だったり気持ちを吐露したりしていることから、親密感がより湧く形になっている。画面を通じて目の前でアーティストを視ることができるので、あたかも自分に語り歌い掛けてくれているという贅沢な気分を味わうことができる。
 Lady Gagaが語ったことを私はこう受け取って意訳してみた。「医療従事者のことも、家にいていつまでこれが続くのか不安に思っている皆さん全てのことを思っています。だからちょっとの間笑顔になる許可を与えます」彼女の大きな愛を感じ、私も笑顔を増やそう、という気持ちになった。ポール・マッカートニーさんは、彼の母親がかつて看護師をしていたことを写真と共に共有している。プライベートな情報を敢えて出すことで、彼の医療従事者を「真のヒーロー」として大切に思う気持ちがより伝わってくる。彼が歌っている背景に、医療従事者の顔写真が次々と写り出されることで、医療従事者集団ではなく、一人ひとりの個が我々のために頑張ってくれていることがより伝わってくる。彼はこうも言っている。「グローバルな危機なので、皆で取り組む必要がある」と。グローバルなプロジェクトとして影響を持っていく、という意思を感じた。
 他のアーティストも、意図を持った曲選びをしてメッセージを添えることで人々を元気づけようとしてくれている。ケイシー・マスグレイブスは、窓に虹の写真を掲げている人達からインスピレーションを得て、「虹」という歌を歌っている。エルトン・ジョンは、”I’m still standing”を歌っている。「いろんなことがあったけど、まだ立っている=負けていない」というメッセージは力をくれる。ジェニファー・ローペズは、「この状況で気づいたのは、これから我々は益々お互いのことを必要になる」ということで、”People”(人々)を歌っている。自宅勤務となり家族と過ごすことが増える中、家族をより大切にしたい、という気持ちにさせてくれた。動画の中で、”Stay strong.”という言葉も聞いた。強い(気持ちで)いて、といった意味だ。当面厳しい状況が続きそうだからこそ、こういった言葉をお互いに掛け合うのは大事そうだ。
 もしまだこの動画を視聴したことが無い方がいれば、ぜひ視聴をお薦めしたい。英語を100%理解できなかったとしても、非言語メッセージや歌声からアーティストの想いはきっと伝わるはず。そして、グローバルでありながら、一人ひとりの心をつかむプロジェクトの力を感じて欲しい。

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