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ネガポジ反転力

井上 多恵子 [プロフィール] :4月号

 「新型コロナウイルスによって影響を受けている中で、良かったことが一つあるとしたら、それは何ですか?」という問いから、MG100のコミュニティのある日の集いが始まった。MG100は2月号で触れた「コーチングの神様」として知られるマーシャル・ゴールドスミス氏が数年前に立ち上げたコーチを中心とするコミュニティだ。マーシャルさんのお誕生日を皆でお祝いしようという主催者からの呼びかけで、その日はなんと、約100人の人達がzoom(遠隔で繋がることができる手段)を用いて、ビデオで自分の顔を表示して参加した。
 70分に及んだそのバーチャルな集いでは、いくつもの発見と感動があった。新型コロナウイルスによって、「社会的な距離」は広がっているが、技術の力で、アメリカ、イギリス、カナダ、欧州、インド、タイ、中国、日本など様々な国から人が参加し、同じ体験を容易に共有できるということ。「バーチャルな集い」であっても、ファシリテーターの力量によって、心温まる場をつくることができるということ。ファシリテーターの力量があれば、大人数であっても、チャットという書き込みの機能に頼ることなく、一人ひとりに発言する機会を与えることができるということ。どういう質問を投げかけるのかによって、人々の思考を良い方向にガイドできるということ。
 私自身の日常的な会話は、最近ネガティブになりがちだった。心配なニュースが多く、家では、それをもとに夫との会話が始まる。「大変だね。心配だね。」と。職場の同僚とお昼を食べていると、「いつまで続くのやら。買い物も大変になり、スポーツジムにも行けないし」と、「不足していること」に焦点をあてて話をしてしまう。「今日こそは、ネガティブに引っ張られないぞ!」と朝決意しても、皆がネガティブな話をしている時に、「ポジティブな話をしようよ」と言っても、空気を読まない人みたいになって、場を白けさせてしまうことがある。愚痴を言うことでストレスを発散している人もいるから、そんな中でのポジティブ発言は嫌われることがある。
 そんな状況が続いていたので、「新型コロナウイルスによって影響を受けている中で、良かったことが一つあるとしたら、それは何ですか?」という問いに、70分間向き合い、100人が次から次へと「良かったこと」を口にしていくのを耳にする時間を持つことができて、本当に良かった。100人分のポジティブシャワーを浴びることができたのだ。
 この集いが実施された時点では、アメリカなどで一部ロックダウンが始まっており、多くの人が家で時間を過ごしているという状況だった。そんな中でコメントされた「物理的な社会的距離は広がっているが、心理的にはもっと近づいている」ことの例として、「疎遠だった両親とスカイプで定期的に話すようになった」や、「休校になり子供達も家にいるようになったので、子供達とじっくり話をする時間が増えた」や、「リスクを避けるため外出を控えている高齢者に対し、それまで交流がほとんどなかった近所の人が必要な物を聞いて代わりに買い物に行ってあげている」や、「最低限の挨拶しかしなかった人達が、お互いに健康を気づかうようになり、心がこもった挨拶をするようになった」などが挙げられていた。忙しさに追われている日々から解放されて自分にとって大事なことを見なし、生じた時間を親しい人達との交流や、身近な人同士の助け合いに費やすことができるようになったということなのだろう。
 日々こういったポジティブなシャワーを浴びることができればいいが、実態はそうではない。新型コロナウイルスの影響は甚大で、心痛むことが多いのは事実だ。ニュースが気になり、大事な人達の健康が気になり、気分が下がり、心情的に自分がネガティブ・スパイラルに入りかねないリスクを感じている。そこで、私がやり始めたことがある。MG100のメンバーの何人かとの間で自分の目標を決め、継続を支援するために、お互いに定期的に報告し合う場を最近持つようになったのだが、その中の目標の一つを「ネガティブなことを思ったらすぐポジティブに変換する」にしたのだ。もちろん、純粋に悲しいことは、悲しいこととして受け入れる。一方、些細なことを自らの解釈や思い込みでネガティブにする癖があることについては、「根拠もなく、ネガティブに捉えている」という思考回路に自ら気づき、「この見方は自分にとって有益か?違った見方ができないか?自分にとってプラスになる意味合もあるのでは?」と捉え直す思考の回路を変える訓練を始めたのだ。このオンラインジャーナルを執筆する中でも、これまでもいろんなことを都度思い実践を試みると書いてきたが、3日坊主で終わっていることが多い。今回は、今この状況だからこそ大事なこととして、グループの力を借りて、継続させたい。

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