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教える力

井上 多恵子 [プロフィール] :3月号

 2月に開催を予定していた社外でのセミナーが、コロナウイルス感染防止の観点から延期となった。国内外のマネジャーを集めて3月に実施をすることにしていた社内の研修も、延期となった。こうした一連の延期により、私自身や私の周りで、「教える力」に対する関心が高まっている。
 社外でのセミナーの主催者からは、こういった事態が将来も起こりうることに備えて、「集合研修だけでなく、バーチャルでの研修も考えて欲しい」という要望を受けた。元々実施しようと思っていたのは、ペアになってお互いに質問し合う練習を含むコーチング・スキルを学ぶワークショップだった。私自身、場に人が集まる中で醸成される力や雰囲気が大好きで、ワークショップでは、ライブの魅力をできる限り高めることをいつも狙っている。その観点から、以前の私だったら、バーチャルでのワークショップ実施案は、検討すらせず、断っていただろう。
 しかし、今回のコロナウイルス感染拡大の経験を踏まえ、物理的に集まることが難しいケースの代替案として、「バーチャルでのワークショップができる」ようになっておくことが、今後求められるようになると思うに至った。元々、集合研修を補完すると言う点からも、バーチャルの活用が効果的だということは、私自身が研修を受ける立場として、この1、2年感じ始めていた。
 例えば、前述した社内の研修では、11月に1回目の集合研修を海外で数日間実施した後、3月に国内で再び集まる迄の間、学びの実践を促進するという目的で、バーチャル・グループ・コーチングを2回実施した。3月の開催の延期が決定したので、グループ・コーチングの回数を増やして実施することを現在検討している。その場合、予算の関係上これまでのように社外のプロに依頼することは難しく、私や同僚がファシリテートすることになりそうだ。私も同僚もコーチングの資格は持っており英語も話せるが、英語×グループ・コーチングをファシリテートした経験は無い。チャレンジングな取組みになるが、研修参加者の協力も得て、皆がバーチャルで集まれる場を創っていくつもりだ。
 お手本にしたい例は複数見てきている。現在学習中のコーチング研修は、アメリカを中心に世界中から参加者を集めて全てバーチャルで実施されている。ICFという世界的なコーチング連盟を立ち上げた方とグーグルのヘッド・コーチの方が提供しているだけあって、内容もデリバリーも、極めて優れている。10回弱ライブで提供されるモジュールは、時差を考慮し毎回同じ内容で2回ずつ違う時間帯で行われる。一方的な講義ではなく、投票機能を用いて視聴者からデータを集めたり、チャット機能を使って視聴者に意見を求めたり質問を出してもらい、講師が回答したりしている。視聴者からボランティアを募り、その人を相手にコーチングをしている様子もライブで見せ、視聴者を巻き込んでの振り返りの際には、「視聴者が気づいたことや質問」を募り、講師が解説したり、コーチングを受けた人に感想を聞いたりしている。最後に学びの振り返りを全体で行い、チャット画面に記入された気づきをファシリテーターが紹介している。
 録画された各セッションを繰り返し視聴することができるだけでなく、音声、文字おこしされたテキスト、コーチングデモの部分だけを切り出したもの、チャット画面のテキストが48時間以内に公開されている。事前課題もあり、講義されるトピックについて考えるアンケートに回答させたり補助教材を読ませたりしている。アンケートの結果に応じて、講義の内容を変え、満足度を高める工夫もしている。また、希望者には追加料金で練習セッションも設け、ある設定された条件のもと、バーチャルで3人グループに分かれて練習した後、全体振り返りをすることをやっている。お互いの顔は見えないが、慣れれば違和感なくできる。フェイスブックのグループもできており、講義中にできなかった質問や学びを活用した例を共有している。円滑にこのフェイスブック・グループが運営されるよう、お互いに尊重し合う、売り込み禁止などの参加ルールも明記されている。
 この研修を提供している団体は、World Business & Executive Coach Summitで、コーチのレベルを高めていくことをミッションにしている。同団体は、バーチャルで複数の著名人が講義をするサミットを開催しており、学びを深めるための手法の一つとして、講義の後ファシリテーターのガイドのもと、希望者が気づきや次に向けたアクションなどを共有する「実践セッション」を設けている。これまでは英語セッションしかなかったが、他言語にも広げて行こうという構想を彼らは持っており、希望者がいれば、私も日本語のファシリテーターとして、協力することになるかもしれない。これも新たなチャレンジになるが、学び方の変化をリードしていくという意気込みで、取り組んでみたいと思っている。

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