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良質なコミュニティの力

井上 多恵子 [プロフィール] :2月号

 自分がどんな環境に身を置くかで、成長速度が違ってくるという話を最近よく耳にする。成長したいと思っている人達が周りにいれば、自分も刺激を受けて、成長しようという気になる。私が所属している人材開発部には、勉強熱心な人が多い。先日の昼食時の会話は、「今話題のドラマの登場人物の個性分析をすると、何が言えるか?」だった。私の夫は、社会人大学院で知り合った人達と教授を交えて輪読会を続けており、日々読書をしている。日本プロジェクトマネジメント協会も、講師としての場や、このオンラインジャーナルでの執筆の場を提供してくれている。そう考えると、私は、つくづく環境に恵まれていると思う。
 有難いことに、その環境をより一層高めてくれるコミュニティの一員に昨年なることができた。「コーチングの神様」として知られるマーシャル・ゴールドスミス氏が数年前に立ち上げたMG100というコミュニティで、当初はメンバーを100名に限定していた。参加を希望する人が相次いだことから少しずつ拡大し、現在、180名程度のコミュニティになっている。マーシャル氏が自分の知っていることをメンバーに無料で伝え、恩恵を受けたメンバーが将来同様な活動を行うことで、世の中にポジティブな影響を与えていこう、というのが主旨だ。
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 私はマーシャルの日本でのワークショップの通訳をしたことがきっかけでメンバーになり、1月18日と19日にアメリカのサンディエゴで開催された初回ミーティングに出席することができた。二日間で得たのは、「想像をはるかに上回る良質なコミュニティでのネットワーキングと学びと刺激」だ。初日は、マーシャルの配慮に感激するところからスタートした。8amからのネットワーキングの場で、マーシャルが遠くから私を見つけてくれ、「よく来たね」とアメリカ流のハグ(抱きしめる)をしてくれたのだ。
 その次に話した人は、偶然、私の今の職場での大きなミッションの一つになっている「社員のエンゲージメント向上」の領域における大家だった。地元在住のベストセラー作家で数多くの企業でコンサルテーションをしているという彼は、翌日家から2冊本を持参し、プレゼントしてくれた。サインをお願いしたら快諾してくれ、書いてくれたのが、“Use, Enjoy + Share!”(使って楽しんで共有して)だった。それだけでなく、メールで参考記事も複数送ってくれた。彼位著名なら、あえて売り込まなくてもいくらでも仕事はある。私が勤める会社での仕事に繋がる可能性も期待しているのだろうが、それ以上に、コミュニティの仲間として私の役に立とうとしてくれている想いが伝わってくる。
 次に知り合ったのが、インクルージョン(多様な人やその人達の考えを受け入れる)の大家で、インクルージョンを自ら体現していた。私ともう一人の日本人が、アメリカ人が大半を占める参加者の中に上手く溶け込めているか、気にしてくれた。2日目の夜には、彼女の家に他の人達と共に招待してくれた。私が小学6年生でアメリカに行き、英語が話せず苦労した話をしたら、異文化コミュニケーションに関する著書をサイン入りでプレゼントしてくれた。帰国してからもメールのやり取りをしているが、彼女が書いてくれるメッセージの一つひとつが優しさに満ち溢れている。
 多くの実績を持ったメンバーは、成長意欲がすごかった。著名な方々がボランティアで次から次へと講義やスピーチをしてくれた初日の休憩時間は、午前中の15分、ランチの1時間、午後の10分間のみで、密度が濃かった。更に、会が終わって前述したインクルージョンの大家の家に私が1時間ほど遅れて行ったら、10名ほどがサンディエゴ湾を見下ろす絶景が楽しめるバルコニーで、ワインを楽しみながら、ディープな話し合いをしていた。順番に、5歳から10歳の頃の経験をストーリーとして共有し、その経験を3つの言葉で現在の自分の価値観として表現し、聞いている人達がフィードバックする、ということをしていた。私が研修生として、あるいは事務局としてこれまで参加した研修後の飲み会では、解放感で楽しく飲んでいるだけのことが多かった。だが、このメンバー達は、どんな場面でも、学びを実践する人達なのだと知った。
 このメンバーで間もなく始めることがある。8名程度のグループで週一回バーチャルで集まり、自分が改善したいと思う行動をその一週間どれ位実践できたかを報告し、改善のためのアドバイスをし合う、私自身、改善したいと思う行動を継続できたことはこれ迄ほとんどないが、この素晴らしい人達に見合う自分でありたいという動機で、少しでも良い自分になりたいと思っている。

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