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経験学習する力

井上 多恵子 [プロフィール] :1月号

 研修で私がよく紹介している学び方は、経験学習だ。経験を経験で終わらせるのではなく、そこから学び、抽象化して新しい経験に活かすものだ。これを使って、私自身の2019年を振り返ってみたい。
 2019年に私がした「挑戦や経験」の一つが、「異文化理解」だ。9月に初めてモスクワを訪問した際には、自分の思い込みに気づかされた。上司と、受け入れ先の方と話をつけて、出張の段取りができたのは、出張に行く直前。ロシア訪問に必要なビザ発行のための招聘レターをホテルから速攻で発行してもらう必要があった。私の頭の中にあった「ロシア=処理手続きがスローな国」という思い込みは、極めて迅速なホテルの対応で、覆された。メールで依頼を出した後1時間もたたずに、招聘レターが送られてきたのだ。
 モスクワでは、現地法人の社長を始めとする日本人駐在員に、異文化対応のワークショップを提供した。それまでに教えた異文化理解の講座では予備知識を与えていたが、モスクワでは、実際に、今現地の方と接し日々課題を感じている人達がより円滑にコミュニケーションできるようサポートすることが求められた。そのため、高低コンテクストの違いだけでなく、もっと具体的な意思決定やフィードバックの仕方の違いなどを私自身、事前に理解しておく必要があった。
 中国とスエーデンで、個性分析理解についてのワークショップを実施する機会もあった。日本語でも説明するのが容易ではないワークショップだが、良い評価を得ることができたのは、事前に担当者の人達と受講者のニーズなどについて密にコミュニケーションしたことと、理論に詳しい職場の人達の力を借りたからだろう。
 多様な国籍の社内の人事の人達を相手に、英語で2日間ファシリテーションもした。海外の人事の中には、マスターやドクターを取るなど勉強熱心な人も多いので、質の高いファシリテーションが求められる。5月のワークショップでは、合格点は取れたようで、自分自身の成長を感じることができた。
 こういった経験や学びを2020年にどう活かしていけるか。「異文化理解」については、①思い込みに気づきそれが判断にマイナスに影響しないように気をつけること、②事前準備を引き続き念入りに行うこと、③簡潔に意見を英語で言えるようにする力を高めることをしたい。③については、他社の英語ネイティブ人事メンバーのコミュニティーに入ったことが背景にある。アメリカの企業が提供しているシステムを使っている企業同士で、各社の取組等について情報共有することで学び合うのが主旨だ。先日、私が参加できなかった1回目の会の録音を聞いた。アメリカ人とカナダ人が、間髪を入れずに積極的にバーチャルに発言しあっている。このコミュニティーで存在感を出すには、内容もさることながら、伝え方についても、もっと磨いていかないといけない。
 ワークショップのやり方についても、参加者からのフィードバックにより、進化のポイントを見つけることができた。1つ目は、アンケートに書かれた。「あの冒頭での一言は余分だった」というコメント。「前半は、一方的な説明が続きます。私はもっとインタラクティブにやりたいのですが、説明する資料が決まっているので、仕方がなくて。」という私の発言によって、話しを聞こうという意欲がその後失せたかもしれない。言い訳は、研修生には、何らメリットをもたらさない。
 二つ目は、「前半は自習でも良かった」と書かれたことだ。確かに、一方的な説明なら、わざわざ集まってもらう必要はない。多様な人達が集まっている場を有効活用できないでいることを自覚しつつも、「変えようがない」と思い込んでいた。しかし、改めて前半の進め方をレビューしたら、配布資料に合わせて説明部分を削除したり、伝え方を工夫したりすることで、参加者同士の学び合いの時間を捻出できることがわかった。
 3つ目は、プログラム・マネジメントを教える講義で、ある外国の方から「一般的な内容で実例に乏しい」とアンケートに書かれたことだ。これまでの研修生が作成した実例を使って説明はしていたが、それらはあくまでも借り物の例であり、私自身がしっかりと理解しているものではなかった。それを自分でも気づいてはいたが、「プロジェクトなら言えるけれど、プログラムはそもそも概念的なものだし」と自分に言い訳をして、それで良しとしていた。それ以外のところで参加者の知恵を引き出すなど工夫はしていたが、不十分だ。幸い来年は、「多様な社員がより活き活きと働けるために」ということをよりプログラム的に考えて、複数の施策を検討する必要が業務である。プログラム・マネジメントを適用して、自ら関わっている事例を来年は紹介できるよう、取り組みたい。
 皆さんも、2019年に経験学習したことを2020年に適用して、より成長実感を得ることができる年にしてみませんか?

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