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インドへの旅から学んだ力

井上 多恵子 [プロフィール] :12月号

 研修事務局の仕事で、インドに一週間滞在した。研修の実施場所としてインドを選んだ主たる理由は、海外各国から参加する研修生に、普段の思考の枠から出てもらうこと。世の中が大きく変化している時に、住んでいる国の文化と大きく異なるインドが提供する「混沌とした状況」を体感して欲しいと思ったからだ。私自身も、6回目のインドへの旅で1年ぶりに改めて「異なる価値観や考え方や行動」に接して、刺激を受けた。
 空港での入国審査で、まず「日本との違い」を感じた。飛行機が到着したのは、現地時間で零時半、日本時間だと午前4時。時差と睡眠不足でフラフラしている状態で、ぼーっと周りを見ていて気づいた。Eビザを持っている人達用の長い列を抜け出して左側の方にあるカウンターに行って何かを書いて戻ってくる人達がいる。前回入国した際用紙に記入したことを思い出し、後ろに並んでいた人に断りを入れてカウンターに行ったが用紙は無く、列に戻った。しばらくすると、入国審査官が、” You need to fill out the paper”(用紙に記入する必要あり)と叫び始めたので、私も声を張り上げ、”No paper on the counter.”(カウンターには用紙は無い)と叫ぶと、ようやく別の職員が、紙の束をカウンターに持っていった。その後は、列を抜け出しては戻ってくる人が続出するミニ混乱状態。用紙を1枚ずつ配ってくれれば、混乱はなかったのだが、、、
 ようやく入国し、機内預入荷物受け取りに向かうエスカレーターに乗っていると、下で赤いベストを着たインド人が数名立っており、ニコニコしながら”luggage tag?”(荷物のタグは?)と聞いてきた。言われるままにタグを渡すと、荷物が届くレーンに連れていってくれた。「なんていいサービス!」と思いながら、彼の背中を見て気付いた。”Paid porter”(有料のポーター)と書いてあるではないか!!!無料のサービスだと思ったのに!慌てて、”No need.”(必要ない)と言って自分で荷物を取り、支払を免れた。
 次のハードルは、ホテルまでのタクシー。カウンターで言われた値段は、2000インドルピー。ぼられまいと、「書かれた値段を見せて」と言ったが、「クレジットカード明細が出るから」の一点ばり。疲れてもいたので、それでよしとして支払い、一旦空港の外に出てカウンターの向こう側にいた運転手と車まで行った。車の窓に会社名が書かれているのを確認した上で乗車。綺麗な車だったが、シートベルトは座席奥深くに入り込んでいて出すのに一苦労。何よりも、高速に乗るにあたりいきなり、「高速代を払え」と言われた。「そんなことは聞いていない」と言っても、「高速代」と繰り返す。怒鳴り声に聞こえてきたので、怖くもなり支払った。他の人達に後で聞いたら、700高い2700インドルピーを支払い、高速代は請求されなかった人、そもそも高速を使わなかった人など様々。インド人に聞いたら、カウンターに運転手を連れていき、そこで値段を確認するのがお薦めとのこと。皆さんも、様々な値段を提示してくる国に旅される際には、ぜひご用心を。
 良い点も、たくさんあった。ホテルの敷地に車で入る際には人と犬両方を使った検査があり、人が入る際も、荷物チェックがあるというセキュリティの高さ。レベルが高いホテルに宿泊したこともあったと思うが、スタッフの人達のおもてなしの高さ。食事をしていると、シェフが毎回挨拶に来てくれ、必要なことがないか確認してくれた。部屋を掃除してくれる人も廊下ですれ違うと、満面の笑み。”Namaste”(こんにちは)と言って、合掌して挨拶してくれると、穏やかな気持ちになれた。
 複数の会社訪問もした。プレゼンテーションを聞いて改めて思ったのが、彼らのビジョンの高さ。コストを抑えるために設立された「コストセンター」から「イノベーション・センター」への変革を遂げるために、彼らが成し遂げたこと。インドに来るたびに感心させられるのが、彼らの意欲と目標を達成する力だ。バンガロールはIT産業で知られているところで、世界的にも名が知られている企業が数多く存在している。それらの立派なビルのすぐ横には、穴だらけの道があったりする。格差が激しい。道路ではクラクションが鳴りまくり、慣れていない我々は、道を渡るのも命の恐怖を感じるぐらい。その混沌とした中で、たくましく生きる彼ら。もちろんすべてのインド人がそうではないだろうが、ビジネスで接する人達の多くにその力を感じてきた。
 日本はインドと比べると、静かで平和だ。もちろん、午後早目の成田空港は、大勢の外国人でごった返ししていたし、ラッシュ時は混雑している。しかし、全体的には綺麗で秩序だっていて、穏やかだ。その良さを日々満喫しているわけだが、時々は、インドで感じたハングリー精神が欲しくなる私がいる。マンネリ化しかねない日常に警鐘を鳴らす自己防衛機能だろうか。これからも、時々は混沌とした環境に身をおいて、脳や身体を活性化したい。

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