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「エンタテイメント論」(147)

川勝 良昭 Yoshiaki Kawakatsu [プロフィール] :6月号

エンタテイメント論


第 2 部 エンタテイメント論の本質

6 創造
●筆者への「個人的相談」
B-4 中小企業を経営する社長(役員)からの個人的相談

 自分は中小企業を経営する社長(役員)である。社長(役員)としてやるべき事は、やっていると自負している。会社はいろいろな深刻な問題を抱え、「今のまま」では「近い将来」ではなく、現在が「ヤバイ」と「冷静に深刻に認識」している。今、何を考え、如何に行動すべきか? 教えて欲しい。

出典:専門相談
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●経営とは
 本号で経営として「やるべき事」とは何か? 「やってはならない事」とは何か?を説明する事を前号で約束した。しかしこの事を本稿で説明するには相当長い期間の「号」を重ねなければならない。そのため絞りに絞ったエッセンスのみ説明する事にした。しかしこの説明の前に、そもそも「経営」とは何かを定義せねば、この説明に繋がらない。

 日本や海外の多くの経営学者、経営者などは、「経営」を以下の通り定義している。
経営とは、人々の「夢」を実現すること。
経営とは、世の役に立つ価値を創造すること。
経営とは、「利他」を事業を通じて実現すること。
経営とは、既存の事業と新規の事業を共に成功させること。
経営とは、経営者がその理念を実現すること。
経営とは、事業を哲学、科学、芸術と同様「生きた総合芸術」にまで高めること。
経営とは、事業の営みを基に事業目標を達成すること。
経営とは、企業を作り、将来へ向かって存続させ、発展させること。
経営とは、経営理念(ミッション)、経営ビジョン、経営戦略を実現すること、、、、、、など。

●経営の語源
 「経営」は仏教用語から由来している。「経」は「お経(理)」を、「営」は「行動(行)」を夫々意味する。「経」は「経糸(たて糸=地図の経度)」と「緯糸(よこ糸=地図の緯度)」で構成される。

出典:Buddha sathyasaibaba.wordpress.com&norikaiya.net/koutei.html 出典:Buddha sathyasaibaba.wordpress.com&norikaiya.net/koutei.html 出典:Buddha sathyasaibaba.wordpress.com&norikaiya.net/koutei.html
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 「経糸」は、過去~現在~未来を貫く「不変(変わらないもの、変えてはならないもの)」な「真理」を云う。この「真理」は、他者の喜びは自己の喜び、他者の繁栄は自己の繁栄などとする「利他」の「在り方(基本的考え方=哲学、理念など)」を説いたものである。

 「横糸」は、過去~現在~未来を貫く「可変(変わるもの、変えてよいもの)」な「真理」を云う。この「真理」は、「利他の在り方」を叶えるため、時代に即した自由で創造的な「やり方(方法)」を説いたものである。

 「営」は、経糸と横糸の「真理」を叶える「行動(行)」を説いたものである。従って「お経」の糸を紡いで考え、行動し、生きていくこと「仏教の教え」である。この悟りには、理入(経の修行)と行入(行動の修行)の道があると説かれている。

 さて筆者の「経営」の定義は、「利他の心」で世の中に「新しい価値」を生み出し、「過去~現在~未来」を通じて「更なる発展」を続ける「営み」であるとしている。

 「経営」は、人間界を含めた自然界で最も進化した「複雑系」であると言われている。従って「経営」を実現させ、成功させることは、万物の営みの中で最も難しい事の一つであると思う。

●欧米式資本主義と公営資本主義
 この「仏教の教え」は、企業経営だけでなく、国、自治体、大学、非営利法人などあらゆる人間組織の生成と運営に通じる「真理」であると思う。

 「コロナウイルス危機」の到来を契機に、株主優先、利益優先の「欧米式資本主義」が見直され、従業員を含む「ステークホルダー」のための所謂「公益資本主義」が主張されてきた。大変良い傾向であると思う。しかし日本の企業人は、昔から「仏教の教え」に従った経営を行ってきた人物がかなり多い。欧米の企業人はもっと日本の企業人を見習うべきである。

 なお日本語の「経営」に相当する英語は「Management」 「Business Administration」、「Carrying on an enterprise」などがある。それらは、企業体、組織体などを運営し、管理する行動、人々や状況を成功裡に管理する行動、その管理の「技」などを云う。日本語の宗教的、真理的な意味は無い。

 ちなみに欧米の場合、Managerは、日本で言う「マネージャー(課長)」のイメージとかなり違う様だ。Managerは経常的業務遂行の管理者の権限と義務を持つ他に、例外的、想定外の問題処理をする権限と義務を持つ人物を云う様だ。ManagerがManagement(経営)の語源から由来しているからであろう。

出典:Manager community.ashworthcollege.edu/groups 出典:Manager
community.ashworthcollege.edu/groups

●「やるべき事」と「やるべきでない事」
 今回の「コロナウイルス危機」は、「天が人に課した試練」の様に思えてならない。

 この危機以前から、経営として「やるべき事」をやってきた企業、「やってはならない事」をやらなかった企業は、この危機に直面しても、窮地を乗り越え、危機を境に更なる発展をするだろう。一方「やるべき事」をやらず、「やってはならない事」をやった企業は、この危機に直面して、窮地に立ち、危機を境に姿を消すだろう。

 「やるべき事」は、企業の業種、業態、業容によって異なる。しかし基本的に共通する事は、世の中の役立つ「新しい価値(モノやコト)」を知恵を絞って生み出し、世の中に供給し、その成功を持続させる事、そして第二、第三の創業を生み出し、成功させる事である。その結果、「新しい顧客」や「新しい収益(売上、利益、資金)」が生み出される。この逆はない。またそれらの成功は、「やるべき事」を失敗を恐れず「決断」し、「実行」することである。

 「やるべきでない事」とは、企業の業種、業態、業容によって異なる。しかし基本的に共通する事は、「やるべき事」をやらない事、そして「公序良俗に反する事(不当行為、違法行為など)」をする事である。例えば、現状の事業に満足し、第二、第三の創業に挑戦しない事、現状の事業が傾いた時、新規事業に活路を求める事、「夢成功一貫実務経験(★)」を持たない経営コンサルタントの支援・指導で経営や業務を推進する事などである。「やるべきでない事」をやる事は、企業を窮地に追い込み、倒産させ、多くの社員とその家族を路頭に迷わせる。

●「やるべき事」を失敗を恐れず「決断」し、「実行」すること
 上記の事を見事にやった人物の事を本稿の第139号(092519)で紹介した。読み返して欲しい。その人物は、1977年全米女子プロオープン優勝の樋口久子以来、男女を通じて日本人2人目の、42年振りのメジャー制覇を果たした人物である。世界で全く無名の彼女は、初の海外メジャー戦で優勝した。一夜にして世界のゴルフ界は彼女を「スマイリング・シンデレラ」と命名し、その偉業を称えた。その人物こそ弱冠20歳の「渋野日向子」である。

 彼女は最終日、4パットのダブルボギーを出し、首位から脱落した。しかしバーディーを取るべきホール(やるべき事)で果敢に挑戦してバーディーを重ねた(やった)。そして最終ホールの最後のパットでバーディーを取れば優勝するところまで復活した。

 その最後のパットは、反対側のホールの壁にドスンとぶち当たり、バーディーを奪取した。その瞬間、優勝した。この最後のパットのシーンを是非YouTubeで見て欲しい。
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 彼女は優勝後に語った。「迷っても、後悔しない様に(失敗を恐れず)、ホールをオーバーして、3パットになってもよい(覚悟、決断)と強く打ち、向かっていきました(勝負)」。彼女はゴルフの鉄則「Never Up,Never In」を忠実に守り、優勝した。

出典:渋野日向子
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 この鉄則は、ホールをオーバーする位の強さでパットする事(アップする事=やるべき事)を求めるものである。何故ならそうしない限りボールは絶対(100%)に入らないからだ。これを「当たり前」と簡単に考えて欲しくない。経営でも同じだからだ。「当たり前」の事を社長や社員が本当にやっているか?

 プロ・ゴルファーがホールを狙ってパットし、そのボールがホールの手前で止まった時、それは完全な「ミス」である。しかし日本の殆どのゴルフ解説者は、その瞬間、「ミス」と絶対に言わない。関係者や視聴者から批判される事を恐れ、本来の在るべき評価や解説をしない。彼らは「クソ解説者」だ(筆者は品がないので)。

 彼女の全英オープンの優勝に日本の殆どのゴルフ評論家は、「強気のゴルフ姿勢」であると主張する。彼らも「クソ評論家」だ。彼女の強気姿勢が勝因ではない。「笑顔」が勝因ではない。

 彼女はUpしなければ、絶対にInしない「当然の事」を忠実に、冷静に実行し、失敗を覚悟し、競技ボードを見ながら自分の位置を認識し、自分と向かい合い、勝利したのである。「怖いもの知らずの優勝」でも、「偶然の勝利」でも絶対にない。彼女の意志、勇気、決断が成した成果である。

出典:ネバー・アップ ネバー・イン www.golfanytime.golf/blog/never-up-never-in
出典:ネバー・アップ ネバー・イン www.golfanytime.golf/blog/never-up-never-in

 彼女は優勝後、記者会見、インタビューなど数多くのメディアに登場した。筆者は彼女が登場するYou Tubeを数多く見た。特に印象に今も残る事は、全英オープンの修羅場で見せた「礼儀正しさ」、「フアンへの心使い」、優勝後のメディアの場面で見せた試合の場と変わらぬ「礼儀正しさ」であった。更に印象深い事は、彼女の「簡にして要を得た回答」である。とても20歳の人物と思えなかった。彼女は今後、日本と世界のゴルフ界に「名」を残し、その発展に「寄与」する人物に成長するだろう。その頃には、残念ながら筆者はこの世にいない。

●経営が傾いた時の手遅れの新規事業開発
 日本の多くの企業は、経営が傾いた時、必ず「新規事業」に活路を求める。しかし殆どの場合、手遅れで、開発しても、実現せず、実現しても成功に至らず、結局失敗する。何故か?

 そもそも生物は、如何なる「種」でも、元気溌剌の時に子を産み、育てる。人間も、若い元気な時に結婚し、子供を産み、育てる。これは人間界を含む「自然の摂理」である。この摂理は企業にも当て嵌まる。

 筆者は、官僚時代、県理事として知事命で県下の地元企業への経営支援と指導を行った。また」官僚退官後現在まで経営コンサルタントとして多くの企業の経営相談に乗ってきた。その企業数は1000社を超えた。しかし筆者の扱った企業数では経営学的実証サンプル数には届かないかもしれない。しかしその僅かなデータからでも、経営が傾いた時に新規事業に取り組んだ企業は失敗した。一方元気で隆盛時に開発に取り組んだ企業はいずれも成功した事が分かった。

 ならば傾いた企業は、どうすればよいか? それは「新規事業の実現」でなく、「既存事業の改善」に徹底して取り組む事である(前者を変革のビジネス・イノベーション、後者を改革のビジネス・イノベーションと言う人がいる)。此処で興味ある事実を紹介したい。それは、傾いた企業が「既存事業の改善」に取り組み、事業を立て直し、成功し、元気になった。その時、満を持して「新規事業の実現」に取り組み始め、成功した事である。

●「夢成功一貫実務経験」を持たない経営コンサルタント
 日本の大企業や中堅企業は、既存事業の改善や新規事業の実現を目指す場合、何故か? 判を押した様に「大手・有名経営コンサル会社」に支援・指導を求める。

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 求められた大手・有名コンサル会社の経営コンサルタント達は、最新の経営学を身に付け、グローバル経営の方法、AI技術を核とするDX技術などを駆使し、支援・指導する。それらの点は文句無しである。しかし筆者は気になる事がある。それは「夢成功一貫実務経験(★)」を持たない経営コンサルタントに経営や業務の支援・指導を任せて大丈夫であろうか?と云う事である。この理由を本稿で書くと長くなる。別の機会に譲りたい。

 ちなみに筆者は官僚時代、某大手コンサル会社から要請され、知事の許可を得て、多忙な本職と兼務で同社のコンサルタント達を支援・指導する所謂「コンサルタントのコンサルタント」の仕事をした事がある。しかし同社には「夢成功一貫実務経験」をした人物は極めて少なく、ショックを受けた。最近は同社はどうなっているだろうか? また多くのコンサル会社はどうであろうか?

「夢成功一貫実務経験」とは、「夢」を成功まで一貫して導いた経験を云う。これは事業分野で例示すれば、事業の「夢(やりたい事、好きな事、目標、志など)」~「優れた発想(思考)」~構想~計画~建設(構築)~新事業基盤完成(夢の実現)~事業基盤での新事業の運営開始~事業運営の成功(夢の成功)までを、「汗と涙と血」を流して、一気通貫で「優れた発汗(行動)」をした経験(暗黙知+形式知)を云う。なおPM経験はその経験の一部でしかない。

 経営の問題は、一筋縄では解決しない。また新しい経営(事業)を産むことも至難の業である。この2つの問題と課題は、共に「優れた発想(思考)」とそれらに基づく「優れた発汗(行動)」が存在しない限り、幾ら人、金、物などを投下しても絶対に成功しない。何故なら、そもそも「経営」は、既述の通り、「最も進化した複雑系」に属するからである。

つづく

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