投稿コーナー
先号   次号

日本の危機の認識とプロジェクト・マネジメント活用への提言 (1)

東京P2M研究会 渡辺 貢成: 4月号

Z. 先月号はIさんのパソコン故障でお休みしたが、これを機会に今書かれている“アベノミクス”関連記事を終了させ、日本のプロジェクト・マネジメント(PM)の現状とあり方について、忌憚のない意見を出したいという申し出があった。

I. 先月号を提供できず申し訳ありませんでしたが、幸いなことに“アベノミクス”関係の記事は終了させるべき時期でした。
 理由は日本に大きな危機が迫っている。その問題を読者と共に進めてみたいと考えたからです。4月号からは、危機感のためのオンラインジャーナルで、時代の流れとの関連、グローバリゼーションという大きな課題に対し何ら手を打ってこなかった日本の産・学・官に大きな欠陥があるとみています。時代の変化を見ようとしない教育制度。社会の動きが複雑に変わっていく中で、体制を全く変えない官庁組織と、それに追従する多くの民間企業の無気力さ、何かが欠けています。
 また、日本のテレビはお笑い芸人に占領され、目先のつまらない問題に取り組み、先行きのない社会を笑いでごまかしている。テレビは今や「東大族とお笑い族」が両者の知識の豊富さを競うゲームに興じています。これらはすべて本質から離れたところでの遊びで、現実からの逃避をしています。このような社会現象と比例して、現在の日本はその競争力を下げている。それはグローバリゼーション化の世界の中で、今の日本人は外に進出する発想から遠ざかっています。その最大の理由はバブル崩壊後の日本が国による安易な国債の発行で、倒産寸前の特殊な大企業を救済し、現状維持を保つ努力をしていることです。この救済は、ある意味では優れた救済方式であったかもしれません。しかし、それは抜本改革でなく、大手特殊企業の救済だけで、関連する他の中堅企業の倒産は見過ごしにしました。このため多くの中堅企業が倒産しました。3.11の東日本大震災は多額の復興予算を準備したが、復興に寄与する人々を犠牲にしたため、復興予算を余らすという珍事態となりました。中堅企業の倒産は震災復興計画に人手不足を生み、回復工事が思うようにはかどりませんでした。
 二つ目の要因は日本の組織運営体系がグローバル社会の中で世世界を相手にする競争型体系でなく、人脈優先型の組織のままで過去の経験を主体とする活動体系が残されているからです。では、この二つの課題に対し、どのように取り組むかが問題ですが、2019.7.20.初版の小熊英二著【日本社会の仕組み】を読みますと、日本社会は「大企業型26%」、「地元型36%」、「残余型38%」の3類型です。この中で正社員はさほど減少していないが、非正規雇用が増えており、それは地元型に多い自営業の減少に起因している。いずれにしても日本企業の人脈優先型の組織は温存されています。この問題の解決法の一つにPMの活用があります。現在のグローバル社会を見ますと、ジョブ型組織が競争力向上のためにPM資格者を活用させています。
Z. それも一理ある。話を続けてください。
I. そこで今月号から危機感対策として。新しい提案をします。内容が多く複雑なため今月号とそれ以降に提供する提案の目次をつくりました。
1.1 地域開発再生協議会に関する記事の終結
1.2 終戦から製造業世界一になるまでの生き方(肯定的な面は何か)
1.3 世界の人々が活用しているプロジェクト・マネジメント(PM)が、国内で多くの企業・組織で活発に使われていない
1.4 日本でPMが使われていない要因は日本的ムラ社会の存在が大きい
1.5 日本でPMを活用している企業群
1.6 米国でPMが多く使われている理由
1.7 米国IT経営とその効率性
1.8 日本企業のIT経営とその真実
1.9 グローバリゼーション化とは何か

2. 日本的なユニークな発想
2.1 日本国の国債活用の発想とその実態その1
2.2 高偏差値教育の弊害
2.3 エリート官僚の勅任官的発想への団結
2.4 規制という特権で幅を利かす官庁
2.5 官の研究機関では成果をあげることが要求されていない不文律がある。
2.6 予算時の目的と異なる案件への暗黙的予算転用
(官が複式簿記を活用しない理由)?
2.7 官が使う金は国民のためで、国民は税金で補う義務があるという不文律。
(国債利用者は債務者、預金者は債権者が法の定め)。
その回収は国民が税金でお返しするという発想はない。
2.8 大企業の世界的競争を強化するために減税が正しい?。
正しくはないが、課税すると、低税金国に移住される

3. PM活用への裏技
3.1 PMの上位概念:システムズエンジニアリング
3.2 PMの概念
3.3 P2Mの概念
3.4 資格制度としてのP2M
3.5 PM理論とTOC理論のプラットフォーム
3.6 PMと価値創出
3.7 P2Mの価値創出
3.8 OWモデルの価値創出概念
3.9 PM関連その他

 当面の提案が終わったら、以下を実施するのではなく、このようなテーマを乗せた出版物が出ているので、この内容を探索し、皆で勉強をするのは悪くない方法と思われる。

4. マッキンゼー・アンド・カンパニー責任編集 日本の未来について話そう
  ―日本再生への提案―2011.7.4.初版からの抜粋
4.1 日本の再生へ向けて
4.2 再び変化の時代へ
4.3 再建のための現状把握
4.4 国際化へのカギ
4.5 日本外交政策の選択
4.6 グローバルな視座
4.7 人材の「発見」と活用
4.8 文化の継承と発展
4.9 マッキンゼイー提案以外の外部専門家意見
 これらは研究の対象となる。
Z. 目次がでるとその主張が見えてくるようだ!これは面白いテーマであり、“正論”や “ホンネ・タテマエ論が聞けそうだな。
I. その通りです。しかし、日本はこうすれば成功するよという単純なものはありませんので、早速目次に沿った話をします。

1.1 地域開発再生協議会に関する記事の終結
 「地域再生協議会が関与している案件は地方自治と称される都道府県とその傘下の市町村の再生協議会に関連しています。わが町ではすでに立派な再生協議会の実践戦略が明記されています。これは戦略的にも、実質的にも見事な戦略論が提示されています。
 しかし、よくよく見ると、ビジョン的な事柄が書かれていますが、具体論となると新しい発想が必要であることがわかりました。
 ところが戦略論の作成者は再生協議会に加わっておらず、再生協議会の幹部は行政的知識には素人的存在ですが、協議会メンバーの幹部は前職で社会的に活躍しており、彼らが持つ仕事の経験を十分に生かして働いています。ある意味では「日本的ムラ社会的発想」(終身雇用・年功序列・幹部の経験に従う組織形態)で活躍した住人です。現状を維持するのには最適な有能人です。残念ながら「人の意見から想定して新しいことを作り出す能力に欠けています」。そして“アベノミクス”が求める未来型の意見提案者は「行政側の発想と正反対な意見の持ち主です。したがって提案は簡単に切り捨てられています。
 町行政の担当官は自分が実施している仕事に対する提案が出されるので、採用可能か否かすぐ判断できます。私が「日本的ムラ社会的発想」と決めつけているのは、現状の破壊ではなく、現状維持に近い発想者です。言葉を変えると再生協議会が求めているのは、破壊ではなく、一輪の花が咲く提案です。官や市町村の行政を担当する人々は規制することに意義を感じています。公園で子供が遊んで怪我をすると、親から苦情が出ます。そこで規制をかけます。万事うまくいきます。行政の勝ちです。その結果、この日本の公園は静かな雰囲気が漂い、周囲の住民もうるさい子供の声がなくなったと喜びます。周りが老人の集団ですから収まるところへ、収まったことになります。
Z. 彼らは従来からのやり方の常識論者かもしれないな。
I. ところが私が疑問に思っていたことは、なぜ、町が掲げた基本戦略策定者である都市開発専門業者に企画書だけ作らせ、実施に参加させなかったか理由がわからなかったのですが、よく考えてみると国の発想(“アベノミクス”)と小さな町の発想が同じでいいはずがないという考え方もあります。
 「彼らのホンネは国と違って町の改革の最大テーマは人口減を防ぐことです。しかし、最近の老人は健康管理がうまく、長生きする方向が見えている。人口減少は短期のテーマでなく、長期のテーマだ。“アベノミクス”に便乗するより、一輪の花が咲けば、再生協議会は成功だと勝利宣言ができる」。これを具体的にまとめてみると、
 『再生協議会の作業の出発点は基本戦略である。戦略論としては満点である。しかし、よく考えてみると、町という公の組織の運用に対し、1個人が提案し、その提案の査定をするのは公の組織だ。すでに流れは決まっている。公の組織はニーズの大きさで採用の可否を判断すればよい。想定事例として、提案者から「公園を四季別の花で素晴らしく着飾り、遊び用設備を備えると、公社の遊休アパートに入居したいと考える人が増えるかもしれないという」未来志向、肯定論で提案が出るが、「町は大筋で賛成するが現実論として内容の縮小で予算内におさまる提案に修正し、関係者の賛成で提案を可決する」ことで、町は現状を保てたと安堵する』という成果に再生協議会も満足するという発想です。
Z. 小さな町で、小さな予算をやりくりする現状がありながら、国と同じレベルで発想せよということに問題があるのかもしれないな。
I. もし、町が企画した基本戦略を活かしたいならば、「価値創造方式」しかありません。
 これまでの再生協議会は1つの案件に対し、一つの担当部門が参加し、結論を出していました。「価値創造方式」は複数の担当部門が参加し、従来やられていなかったが、新しい価値が出る方式を、規制緩和も含めて検討するという発想の転換が必要です。
Z. 規制を外すことは難しいのと違うかね。
I. その通りです。「価値創出」とは、できるかできないか、わからないことに挑戦します。しかしその案がいいか、悪いかを判断する前に、これをヒントに前進できるかを進めるためのものです。何かいいアイデアがないかと常に探し求めている人材を集めると、不可能が可能になります。しかし、この場合の課題はアイデア発掘より、アイデア発掘能力のある人材を探すことにネックがあります。
Z. アイデア発掘能力の高い人はある意味で天才的なところがある。これは発掘が難しい。しかし、人々は秀才型で口の達者な人材を採用する傾向にある。一方天才は一風変わった人間で、普通人は彼の提案をみると、その提案採用に恐れを感じるな。
I. その通りです。ここで一つの提案があります。まず、昨年1月に出版された北野唯我著【天才を殺す凡人】があります。要約すれば「天才は将来に対する優れた勘が働き、素晴らしい未来案を提案する。しかし、日本の組織はメンバーシップ型経験優先の人脈構造で構成されている。この秀才は過去の経験から自己の発想を練り上げているため将来予測者を嫌っており、抹殺してしまう」という内容です。日本の組織は「学歴と高偏差値」人材の発想でコトが進む形になっています。ここで余談を差し込んでよろしいでしょうか?
Z. 何か面白そうだな。どんな提案をしたの?
I. 提案ではなく、日本型組織の仮説です。
日本の一般的な組織は20%:60%:20%の法則にしたがいます。
 組織の上位20%はA管理職 :60%はまじめなB作業従事者:残り20%C1変わり者、C2落ちこぼれ、病弱者 です。
 天才1%以下、秀才5%以下(高偏差値型と高感性型、高度胸型)
 組織の長は平和時に秀才型から選ばれる。緊急時に高感性型、高度胸型が選ばれます。
Z. 何かの本で読んだが、下位20%の人材だけを集めて組織をつくっても、結果はIさんの提案と同じになるようだ。この場合変わり者の中から指導者が生まれる法則だ。
I. 私はこの町で基本戦略3を中心に提案しました。私はPM資格者です。将来を見据えた提案をした。提案は将来的側面と、現在的な側面も網羅しました。
私の提案:
1 ) この町で求められているのは、町の人口増加です。そこで考えました。
 この町には県の住宅供給公社がアパートの運営をしています。この町は過去に3回住宅開発を実施し、人口増加に貢献してきました。最初の開発が1965年(S40年)です。住み心地がよいためか、親は死ぬまで住み着くと頑張っていますが、東京から70キロも離れた町から東京、横浜地区に通勤はごめんだと子供たちは考え、子どもが町から去っていきます。
 そのために公社提供のアパートが28棟ありますが、50%が空き家になっています。
 そこで私は提案しました。共稼ぎの夫婦で、子育て願望者の募集です。
Z. 共稼ぎ・子育て願望の母親の就職は難しいのではないかな?
I. その通りです。私の隠し玉はP2Mのプログラム・マネジメントとプラット・フォームマネジメントを活用しています。提案は
公社が遊休住居のリフォームを行い、入居率を高める(メリット)
共稼ぎ子育て願望家族の入居歓迎、シングルマザーもOK
子供をケアできる老人を老人会から募集:保育園への送り迎えと帰宅後のケアのため団地内に子供部屋を提供してもらう。
時に要求に応じて駅までの送り迎えを実施する
老人の買い物支援
これらの活動はNPOに含めて検討する
さらに幼稚園児、小学生にまで対象を広げると大きな展開が起こるようになる。
Z. 公社が何というかな?
I. 公社は私の提案後、独身者用棟のリフォーム、家族用棟のリフォームを独自に実施し始めました。私の提案は公社の協力をふくめておこなうものです。
Z. この提案を無視することもできないな。関係性を複雑にすると従来の規制をNPOに振り替えられるとなると可能性が出てくるかもしれないな。
I. 私の提案は町からの初期提案に含まれておらず、勝手に公社の権限範囲にかかわるところがあり、そこで事項に触れるため、再生協議会は即座に提案の没を宣言しました。
 私が残念に思ったことは日本の社会にPMが活躍しており、年1回のPMシンポジウムに2000人以上が参加する世界第二のPM協会があります。
 残念なことはPMという世界が日本でも存在し、誰でもが使え、有効に活躍すれば企画通りの成功が得られるが、日本の組織は世界で類を見ない古典的な構造のため、緊急時でも採用されません。これが私の最大の願いです。
Z. 解説ありがとう。P2Mの提案事項を理解できた。提案者側の案件はいずれまな板に乗る内容であるが、時期が悪い、ここで一応取りやめることに同意する。

以上

ページトップに戻る