関西例会部会
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第151回関西例会

関西例会KP 小田 久弥 : 3月号

「超大規模レガシーモダナイゼーションの実践手法」
~デジタル変革を実現する共創型ハイブリッド・アジャイルモデル~
講演者: 松村 俊哉氏 富士通株式会社
         第一流通システム事業本部 シニアマネージャー
開催日時: 2020年2月14日(金) 19:00~20:30

<はじめに>
 DXの推進が注目され、新しいデジタル技術の活用により新たな付加価値を創出し、競争上の優位性を確立するために俊敏な対応が求められている。一方、「2025年の崖」と言われているように、従来の企業経営基盤であったレガシーシステムが足かせとなり、デジタル変革ができない危機が目前に迫る。
 本講演では、総工数1万人月超、総資産600万ステップの超大規模基幹業務システムのレガシーモダナイに取り組み、一足早く2025年の崖を克服したプロジェクトの成功事例を満員の参加者の中、わかりやすく紹介いただいた。
松村 俊哉氏

<講演概要>
1. はじめに
 近年、DX(デジタルトランスフォーメーション)が注目されている。富士通も「IT企業からDX企業へ」という方向で進んでいる。一方で、8割の企業では、レガシーシステムを抱え、その7割がレガシーシステムが足かせになっており、“2025年の崖”と呼ばれている現状がある。

2.プロジェクトの背景
 今回は、実際の新基幹業務システムモダナイゼーションプロジェクトでの取り組みを紹介する。構築から20年以上経過、対象業務は基幹業務全般、総工数1万人月超、開発体制(ピーク時)500名超、開発期間約5年、対象資産規模6.2Mstep、このような超大規模システムをモダナイゼーションするプロジェクトであった。
 肥大化、複雑化したソースと最新化されていない設計書、基幹業務なので開発期間中に業務変更があり仕様凍結できない状況、更に、データ結合度が高い膨大なデータベーステーブルがあるなどの制約条件を持つ難易度の高いプロジェクトであった。
 当初は、計画策定、PoC、プロトを経て4段階のSTEPでプロジェクトを推進した。しかし、STEP1は順調に進むが、STEP2に入った段階で大きな課題が発生し、プロジェクトの方針転換を行わなければいけなくなった。
 方針転換にあたって、まず課題を整理して、取り組む仮説を立案した。次のような内容である。
①ウォーターフォールで開発していたが、課題が出た。ウォーターフォール開発の一部に従来型にはない手法を取り入れることで、レガシーモダナイゼーションに適合する新しい開発手法ができるのではないかという仮説を立てた。
②当初は4つのステップに分けてプロジェクトを行ったがうまくいかなかった。大きすぎる開発規模を最適化することで、現行仕様凍結期間を確保し、かつ、マネジメントを変革できないかという仮説を立てた。
③超特大プロジェクトであるため、リーダーひとり一人が自律して新しい価値を共創する必要があることから、従来型に縛られない発想で、恐れずに決断し、挑戦することで「崖」を克服することができるのではないかという仮説を立てた。

3.プロジェクトの取り組み
 仮説をもとに立てた対策を守・破・離の3つの段階に分けて取り組んだ。
3-1.守:開発プロセスの再定義
 肥大化・複雑化した現行ソースから現行踏襲することが必要という課題に対して、開発プロセスの再定義を行った。具体的にはウォーターフォールのV字モデルの前に、「現行ソース解析」工程を加え「N字モデル」として、開発プロセスの再定義を行った。更に、「V字モデル」の開発からテストに移行する間に、「現新コンペア」工程を加えた。「現新コンペア」工程」とは、お客様と富士通で現行システムと新システムの比較を準委任契約の共創体制で行う内容である。
3-2.破:小ロット化と漸進型リリースモデル
 大きすぎるプロジェクトを、開発規模やスケジュールの基準を設けて細かく分割した。更に、お客様も入った体制による「共創体制による小ロット開発モデル」を策定した。
 策定したモデルにより、開発計画を立案した。結果、超巨大レガシーシステムのモダナイゼーションプロジェクトは、82のロットに分割され、漸進型(インクリメンタル)のリリース計画を策定出来た。ポイントは次のとおりである。
最初は多重度を小さく、段階的に上げていく計画とする。
チームが同じ事業領域のロットを繰り返し開発する反復型開発(イタレーティブ)を行うことで、習熟度を向上させ、生産性品質向上を図る。
全体の多重度の上限を決めておく(WIP制限)。
コンティンジェンシーとして、リリース後2カ月の並行稼働期間を設け万が一の場合に備える。
更に、半年毎に実績を振り返り、仮説を検証し、ファクトを積上げていく活動も行った。
3-3.離:自律型マネジメントへの変革
 超大規模プロジェクトでは、統制型マネジメントでは限界があり、メンバのモチベーションの低下にもつながる。それを解決するために「統制型からWA(和)の自律型マネジメント体制への変革」を行った。具体的には、Qfinity活動(職場を変える富士通の品質改善活動)でメンバ及び組織のカイゼンマインドの醸成を行った。
 また、リーダーの自主性を醸成する仕組みも導入した。具体的には次のような内容である。
リーダーが自主運営する会議体を設置する。
マネジメントは基本的には見守る。
その会議体で、リーダー主体で「実践知の共有」と、「振り返り」を行った。
 更に、マネジメントはリーダーに任せきるのではなく、プロジェクトマネジメントに関与し、チーム一丸となる働きかけを行った。結果、リーダーは責任感を持ち、マネジメントは責任を取る体制が出来上がった。

4.適用による効果
 この仕組みを考案し、プロジェクトで実践することによって、目的、品質、コスト、納期全ての面において目標を上回る成果が出た。難易度の高い超大規模モダナイゼーションプロジェクトを無事成功させることができ「2025年の崖」を克服することが出来た。
 この成果によって、お客様満足度(CS)が向上した。同時に、従業員満足度(ES)も向上させることが出来た。大規模システムでは、CSは上がるが、内部メンバは疲れ果ててモチベーションが低いケースは良く見られるが、今回のプロジェクトでは、CSもESも両方上がるWinWinを実現することが出来た。
 更に、保守引継を考慮し、ロットの一部をお客様で開発する取組も行っている。「漸進型リリースモデル」から、「共創型リリースモデル」へ進化している。

<おわりに>
 松村様は、今回の経験とモデルを活用して、発表された事例とは別の様々なレガシーシステムのモダナイゼーションにチャレンジされています。
また、今回得た経験より、チェンジリーダーに必要な条件を次のようにまとめられています。
使命感 : 必ず成し遂げるという強い意志・ブレない信念・アツい思い
信頼 : どんなときでも仲間を信じ・お客様の期待を裏切らない
共創の場づくり : 目標に向かって共に立ち向かう関係性
チャレンジ精神 : とにかくやってみよう
チームづくり : 個を活かす・個性を活かす・個を育てる・声を聴く
目的志向 : どうしたら良い方向に向かうかを考え、ビジョンを示す
経験者だから言える、力強い内容だと思います。
 講演中は、松村様の熱気が参加者も伝わり、非常に良い雰囲気でした。質疑の時間も足りないほど、質問も出ました。アンケートの結果も非常に良く、素晴らしい講演でした。
松村様ありがとうございました。

第151回関西例会の様子

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