関西例会部会
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秋のスペシャル関西例会2019 レポート
(講演1)

PMAJ関西KP 小田 久弥 : 2月号

開催日時: 2019年11月30日(土) 13:00~14:15
開催場所: 竹中工務店 大阪本店 1階「いちょうホール」
テーマ: プログラムマネジメント×スペキュラティブデザインが描く共創価値と未来
講師: 佐藤 達男 氏/広島修道大学
参加者数: 40名 (スタッフ+講師9名含む)

1.はじめに
 近年の社会システムは、テクノロジーの急速な進化を背景に、加速度的に拡大してきた。反面、環境・格差・人権・人口問題などの深刻な社会問題に直面している。これらの重大な課題に対して、あるべき姿を描き、それを実践していくために、スペキュラティブデザインなどのデザイン方法論とプログラムマネジメントの考え方を組み合わせた新たなP2Mのフレームワークをわかりやすく楽しくご講演いただいた。
佐藤 達男氏

2.概要
2-1 マネジメントと経営戦略
 20世紀にマネジメントという概念が誕生し、経営戦略という考え方が確立した。経営戦略は企業の目的・目標を達成するために、現状の目標とのギャップを埋める総合的な方策であり、P2Mのプロファイルマネジメントとも似た考え方である。戦略と戦術はもともと軍事に起源した言葉である。戦略は方針的、包括的であるのに対して、戦術は目標達成するための実務的・具体的な戦力の運用方法である。

2-2 近代マネジネントの流れ
 1900年初頭に、テイラーが科学的に計測して管理する「科学的管理法」を提唱する。それを受けて、フォードが大量生産システムを導入する。次いで、バーナードの「組織的思考」や、メイヨーの「人間関係論」が出てきた。これらをまとめ、1950年代にドラッカーがマネジメントという概念を確立した。
 ドラッカー後、1980年代にポーターが「競争戦略」を提唱した。また、バーニーの「リソースベーストビュー」、ハメル&プラハードの「コアコンピタンス経営」が出てきた。
 これらの流れと並行してモダンプロジェクトマネジメントの流れが生まれる。1969年にアメリカでPMI®が設立され、1996年にPMBOK®初版が発刊され、全世界に拡大した。
 モダンプロジェクトマネジメントは、経営戦略とは別物と考えられている。いわば、経営戦略の下位概念、目標を達成するための戦術という位置づけであった。

2-3 21世紀初頭の日本におけるプロジェクトの状況
 21世紀初頭のプロジェクトでは、成功率はわずか25%程度であった。このような時代に、モダンプロジェクトマネジメントが広がり、プロジェクトの成功率は向上した。しかし、近年のプロジェクトでは、短納期、低コストが当たり前になり、技術動向が激変する中、半数近くのプロジェクトが失敗している。時代が複雑になり、要件定義が難しくなっているという現実もある。

2-4 21世紀の経営戦略とプロジェクトマネジメント
 21世紀に入り、インターネット/Web以前と以降で経営戦略とビジネスのメインプレイヤーが大きく変わる。「破壊的イノベーション」が提唱され、それ以降、GAFAが台頭してくる。4社に共通するのは、プラットフォーマーであるという点。プラットフォームを牛耳ることによってすべてを制するという「プラットフォーム・リーダーシップ」という新しい戦略が出てきた。また、「オープンイノベーション」「ブルーオーシャン戦略」などの新しい考え方も出てきた。さらに、スマホとクラウドの登場によって、市場変化の激しさとビジネスのスピードは加速する。「反復/漸進型アプローチ」による顧客価値の創出が行われるようになった。「顧客開発」(ブランク)も、反復/漸進型であり、リーンスタートアップ(リース)につながる。また、この時代2007年前後に、アジャイル開発が広まってきた。それとほぼ同時期に、UXデザイン/人間中心デザインが浸透してきた。更に「持つ意味」を深堀するデザイン・ドリブン・イノベーションが現れ、デザイン経営/デザインマネジメントへの発展がなされてきた。
 変化とスピードの時代に出てきたこれらの戦略は、すべて「繰り返し」行うような概念である。素早く市場に出して、フィードバックをもらい、改善する、この繰り返しで進めていく、このような時代になってきている。
 このような変化とスピードの時代は、組織も変化が起こっている。従来の上意下達型の組織ではなく、サーバントリーダシップが適している。メンバーが働きやすい環境を整え、それを組織的に整えるのが経営者の役割である。ただ、全ての場合にサーバントリーダシップが適しているとは限らない。上意下達が適した場合もある。昔を継承しつつ、新しいものもあると考えるのが良い。

2-5 デザインとマネジメント
 デザインは創発性であり、マネジメントは計画性と言える。また、デザインは不確実性を歓迎するものであるが、マネジメントは不確実性を排除する。このように、デザインとマネジメントは一見別物であるように思える。
 ただし、デザインとは全体を総合的に計画・設計することであり、P2Mに通じるところがある。デザインとマネジメントを結び付けることは、全体(グランドデザイン)を描き、実行することである。
 近年のデザイン方法論は、技術、機能中心デザインから、人間中心デザインへシフトしている。人間中心デザイン(ノーマン)やユーザー参加型のデザインなどがある。市場に商品やサービスを早く出してユーザーの反応を知り、取り入れていくことを繰り返して進めることが必要になる。

2-6 20世紀のデザインとマネジメントが置き去りにしてきたもの
 20世紀の工業化社会を経て人々のニーズはほぼ充足されたが、近年は様々な社会問題が健在化している。デザインの概念は20世紀は、「機能・性能」「安全性・健康性・利便性」「事物」であったが、21世紀は「意味・価値」「快適性・持続可能性」「関係」というふうに変わってきている。

2-7 スペキュラティブデザイン
 20世紀はユーザーの課題解決を行い続けてきた結果、社会問題も多くある。これからは課題解決でなく、本当に必要な問題を提起することが重要である。ここで出てくるのがスペキュラティブデザインという考え方である。未来は「どうなるのか」ではなく、「どうしたいのか」というシナリオを示すために、問題を解決するのではなく、本当に必要な問題を提起するという考え方である。As is/To beを描き進めるやり方であり、P2Mと通じるところがある。

2-8 ユーザーとは誰か
 20世紀の製品・サービスは、高齢者、障がい者、その他の社会的弱者を「一般大衆」向けのデザインの対象から排除してきた。これからは、これまで排除してきたユーザーを含めたすべてのユーザーを巻き込んでいく考え方が必要になってくる。このような考え方のインクルーシブデザインが出てきた。1970年にバリアフリーデザイン、その後、ユニバーサルデザイン、そして、インクルーシブデザインの流れになる。マイノリティ向けとされてきたニッチ市場ではなく、新たなユーザー獲得による新たな市場とビジネスチャンスを創出する。

2-9 共創価値の創出による持続可能な社会の実現
 共創価値とは、社会的課題と経済的価値の両立によって全体目標と個々の課題解決の調和(共創価値の創出)を図ることで、最近クローズアップされている。Society5.0や、Collective Impactなどが提唱され、この先にSDGsの実現がある。ただし、ESG (Environment、Social、Governance)という観点で見ると、アジアも日本もまだ低い。

3.まとめ:プログラムマネジメント×スペキュラティブデザインが描く共創価値と未来
 経営戦略は、21世紀の時代の流れに対応して大きく変化し、さらに変化を続けている。プロジェクトマネジメントにおいても、変化がみられる。戦略と戦術の距離感が縮まり、入れ子構造になってきたり、スコープが可変になってきたり、単一プロジェクトで全体の目標を達成することは難しくなってきた。経営戦略からブレークダウンされた大きな全体目標と個別プロジェクトの創発性とのハブとなる機能が重要になってくる。このハブの役割となりうるのが、P2Mである。デザインとマネジメントを融合し、共創価値の創出を目指して新たな共創のプラットフォームや多様なプレーヤー間のハブとしてP2Mに期待される役割はさらに高まってくると考えられる。
 プログラムマネジメントとスペキュラティブデザインの連携が共創価値を創出し、BRM(Benefits Realization Management)として機能することによって、新たな時代のマネジメント潮流として認識されることになるだろう。

4.感想
 戦略やマネジメントやデザインについて、概要は知っているつもりでしたが、佐藤様の講演で、それらの関係や時代背景、目指すものを説明いただき、すごく整理できました。更に、P2Mが今、そして未来の社会に対して、どういう役割を果たせるかについても自分の中で腹落ちできました。目指すべきところは「共創価値の創出」だと思いました。複雑で、スピーディな時代ですが、P2Mを実践すれば、役に立つことがたくさんあることを、今日の講演で再認識できました。

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