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プロジェクトは、かつての、社内のエリートが行った、特別扱いの事業ではなくなり、誰もが実施する可能性がある時代となっている。多くのプロジェクトマネジャーは、プロジェクトマネジャーとなるべく準備期間をかけて、あるいはステップを追って育成されておらず、90年代に米国で言われ続けたAccidental Project Manager(ある日突然任命されたプロジェクトマネジャー)的人材が多くなった。従って全活用分野平均では、プロジェクトマネジメント・スキルは落ちる一方で上がるはずがない。PMを成功裏に実践するには体系的知識、実地経験、プロジェクトマインドセットの3点セットが必要であるが、PMスタンダードで習得した知識のみが世界で増えて、残りの2要素は平均値が落ちる一方である。
プロジェクトにはミッションがある、ミッション完遂のためにはあらゆる手を尽くして頑張るというのがプロジェクトマインドセットであるが、働き方改革の時代には、通用しにくいであろう。筆者の個人的な体験でも、大学院で教えていて社会人を含めた学生のプロジェクトマインドセットは落ちる一方である(プロジェクトが纏まらない)。 |
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2017年に開催されたIPMA世界大会の筆者がモダレータを務めた基調パネル討議では、プロジェクトマネジメントの現場でコマンド&コントロールは最早30歳から20歳代のメンバーには通用しないということで意見が一致したし、2019年1月にウィーンで開催された学会ではIPMAの幹部と著名な教授から、Project Management という用語自体が若年層にビューロクラティックな響きがあると嫌われるので、Project Leadershipという言葉と置き換えているという発言があった。 |
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石油・天然ガスプラントに代表される設備投資プロジェクトでは、十数レベベルに及ぶWBSを使った極めて正確なスコープ計画・管理、専業のコントロールエンジニアと専業のコストエンジニアとによる精緻なスケジュール計画・管理と資源&コスト見積もりとコストマネジメントを実施して、数千億円規模のプロジェクトでも納期を守り、5%誤差内のコスト管理を行ってビジネスとして成り立っているが、この分野でスキルも場数経験もある専門職が減少しつつある。次項②に述べるプロジェクトの複雑性の増大と相俟って一番正確なプロジェクトマネジメントができると定評がある世界のプラントプロジェクト分野でも少しずつ歪みがでている。企業標準のWBSがなく、かなり緩いスケジュール計画、資源計画、コストマネジメントしか行わないプロジェクト分野では、プロジェクトが計画通り収まらないのは容易に想定できることである。また、ベンチマークが少ないのであれば、計画自体の精度にも問題があろう。 |
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世界平均で第三次産業(サービス産業)の寄与率は先進国では70%を超えているが、サービス産業では半数近くがプロジェクト型業務であると推定される。しかし、突然プロジェクトマネジャーになった人に適するPMガイドがなかった。彼らに言わせれば、PMスタンダードに書いてあることは、言語そのものが分からない、ということだ。 |
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プロジェクトマネジメントの理論を遡っていくと経済学のユーティリティ理論、エージェンシー理論、取引コスト理論などに辿りつく。各々、1)「プロジェクト投資効果(効用)をいかに上げるか」、2)「適正な利潤に見合って、最適なプロジェクトを実施してくれる遂行者(請負者)として誰にプロジェクトを任せるか」、3)「他者に任せてプロジェクト遂行を行う場合に、トータル・マージン(取引コスト)を最小にできるのは誰か」ということで表現できる。1)と2)は企業の競争力の問題であり、競争力が高い企業が勝者となるが、3)の問題は極めて複雑である。現在、世界のプラントプロジェクトに関わる研究機関(米国CII等)で、石油、天然ガスプラントなどのEPCプロジェクトのTransaction Costs(取引コスト)が上がりすぎて総投資コスト41%にまで達している、という議論が上がっている。つまり、プラントの原価が59%で、請負構造の多層化・複雑化で各層の請負業者のマージン総和が膨れ上がっているということである。これは、専門分野の細分化に伴う多層プロジェクト遂行体制や、リスク分散や人的資源の平準化のためのEPC元請企業間のジョイントベンチャー結成、VUCAと称される世界の不確実性の急激な進化にともなくリスクマネーの上昇などに起因していると推定されるが、一社では対処できない業界の問題である。 |
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プロジェクトマネジャーの時間の90%はコミュニケーションに使われているという多くの報告がある。筆者はかつて会社の先輩のプロジェクトマネジャー達と一緒に米国やヨーロッパ出張にでかけたが、成田からパリまで一晩中話をされて苦痛を感じたことが度々あった。SNS全盛の時代になったら、規律性の高いコミュニケーションが必要な本格的なプロジェクト現場は正確な維持が難しい。 |