PMプロの知恵コーナー
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ゼネラルなプロ (113) (事例PFI 事業)

向後 忠明 [プロフィール] :3月号

 今回例示したコンセッションビジネスの体制は下図に示す通りです。
 構成員はインドネシア、オーストラリアそして日本の3か国からなる多国籍で運営する事業です。
 この事業を進めるには各コンソーシアムメンバーが一体となって進める必要があります。そのため、スポンサーとなった各社が本事業の中心であるコアーとなる特別目的会社(SPC)を作ることになります。
 そして、各スポンサーはこのSPCの中心となってこの事業を経営する人材と体制つくりをすることが必要となります。
 このビジネスはPFI事業であり、最も重要なのは期限内に設備を完成し、なるべく早く運用を開始することです。そのために最も大事なことは期限内に設備を遅れなく作り上げることです。その理由はこのビジネスは15年間限定のBOT型のビジネスのため早めに収益を出し、その期間内に求められる収益を上げる必要があります。
 一方、本事業は中部ジャワ全域を対象としたもので、設備を設置または建設する現場は広範囲であり、ほとんどがジャングルです。
 またインフラプロジェクトの特報として住民、既存インフラ、地方政府、そして現地業者の技術レベル等をも勘案しなければならない。
 インフラプロジェクトはこのように多くのリスク要素を含むため通常のプロジェクトとは難易度の面ではかなり異なります。
 その一方、このビジネスは多国籍の陣容を含むSPCであり、これまで全く関係しない人達から構成される企業体であり、通常のプロジェクト組織とは全く異なります。
 その為、このような状況下にある事業を安全にマネージすることのできる人材であることが組織編成を行う上でも最も求められるものです。
 当然、各社の意向や考えを聞きながら話し合いにより何処の会社がどの部門を持ちそこにどのような人材を入れるかを議論する必要があり、その結果、下図に示すような各社の役割をそれぞれの意見を反映しながら決めました。

今回例示したコンセッションビジネスの体制

 例えば、建設後の設備運用部門、そして一般的な会社機能としての財務、総務・そして顧客開拓や需要調査や営業の部門なども必要となります。
 その他、設備建設中の他のコンソーシアムや顧客(公共部門組織)やインドネシア政府との対応や調整、そして将来を見据えた企業戦略などの部門も必要となります。

 各部門の役割が上記のように決まったのちには、当然各部門の担当者の人選とその配置を考えなければなりません。
 この場合も、各スポンサーの縄張り争いあり、その中でも最も重要である建設部門内部の人員の配置であり、その詳細が決まるまでは多くの時間を要しました。
 特に建設部門は中部ジャワ全域がプロジェクトの対象エリアであり、既存回線の修復と新設、線路システム、光伝送回線システム、交換局の新設、無線システムの新設、そして総合コントロールシステムの新設など多様な技術からなる大型プロジェクトです。
 すでに説明したように本事業はBOT型の事業であり、建設の遅れはこの事業の採算に大きく影響します。
 この部門の働きがこの事業のカギとなることから、今回はこの建設部門を中心に話をしていきます。
 この部門は以下に示すような組織体制とし、各部署についてもそれぞれの得意とする人材を各スポンサー会社から出してもらい、以下に示す組織体制としました

建設事業部の組織体制

請負業者群
交換機:米国、ドイツ
伝送(2000Km)、無線:日本、インドネシア
WLL(極地):日本、欧州
電話回線(線路)インドネシア、豪州
交換局(15か所):インドネシア

 初期の建設事業部の組織は上記のように設定されました。この陣容は基本的にプロジェクトの現場がインドネシアということと、多国籍の陣容なのでプロジェクトの遂行には強いリーダシップとプロジェクト実践経験や知識が必要であることを考慮して人材の編成を行った。
 特にPMは海外の同種のプロジェクト経験を持ち、多国籍人材をうまくまとめることができることを前提にプロジェクト実行現場における全権限を与え、PDは主に調達、設計、そしてPMの持つ権限以外である戦略企画を見るようにしました。
 PMはT社(オーストラリア)から選出し、PDはN社(日本)としたがこのプロジェクトの複雑さからそのモニター兼アドバイザーを日本側に置き万全の対応が取れるようにしました。
 APMにはそれぞれのエリアにおける現場の進捗や状況報告及び技術的問題の解決等に責任を持たせ、毎月その結果についてPMとSCに報告し、その結果をSCがまとめ進捗状況をPDに報告するようにしました。

 以上のような体制で本事業は開始されました。
 最初は業者選定となるが、その入札方式は競争入札とし、各社の思い入れを排除することを最大目的とし、公平な入札を心掛けました。
 公平を期するためには明確な指針とマニュアルを作り、偏りのない入札手順で業者の選定を行うように心がけました。
 入札は交換機、伝送、WLL 、交換局、線路の各システムごとにマルチプルコントラクト方式とサブシステムを一括受注するプライムコントラクト方式の2種類の入札方法による価格入札を実施しました。
 プライム方式はSPCとしては現場管理をすべて業者に依頼すれば楽であるが、全システムを一社に丸投げではあまりにもリスクがあり、技術的信頼度においても疑問がありました。
 結果としては、入札審査を通してマルチプルコントがコスト面での有利性やコスト分析の結果からもこちらが有利として採用となりました。
 なお、契約形態は設計から施工までを含むターンキー契約でランプサム契約としました。

 なお、各サブシステムの契約概要は下記のようにしました。

局舎設備及び付帯設備
 交換機設備の契約を含めて局舎建設をスコープに入れていたが、国際入札にふさわしくないとの判断から局舎建設はローカルの設計コンサルタント並びコントラクタと地域ごとに契約しました。
交換設備
 インドネシア政府および電話公社は交換機についてはメーカ指定(米国、日本、及びドイツ)がありこの3者から見積もりを取りました。
 その結果、英国及びドイツの2社としリーダを米国としました。
伝送設備
 米国、日本、ドイツの3者の競争入札としてコスト、技術力から日本のメーカとしました。なお、工事はインドネシアの業者とのコンソーシアムの形態をとりました。

線路設備
 本プロジェクトにおいて最も困難で仕事量の多い設備が線路設備であり、入札や契約交渉においても多くの問題があった。
 工事は中部ジャワ全域に広がり、多くの障害物や線路の設置においての住民や自治体との調整も必要となり、その上、工事量の把握もできないなど、リスクも多く工事業者にとってランプサム契約では引き受けることができないことを理由に入札辞退者が多く出てしまいました。
 それでも最終的には、ローカルコントラクターとオーストラリアのゼネコンによるコンソーシアムと契約をすることになりました。
WLL設備
 システム及び機器の評価選定段階ではフランス、スエーデン、日本の各社が選定されました。しかし、この技術は当時では新しい技術でありこの3社の実証テスト結果により最終選考を行いました。その結果、スエーデンと日本の会社のシステムをコンソーシアムの形態で契約することになりました。
 しかし、その後も多くの技術的な問題が発生し、電波の不感地帯が発生したりして、建設実施段階でWLL技術の完成度の低さが露見し建設計画に遅れをもたらす原因となりました。

 このように、このプロジェクトは多くの国の人達が関与するといった多様性に富んだものであり、プロジェクトマネジメント面においてもかなり難易度の高いものであり、それだけにPDやPMのリーダシップと調整力といったものが重要となります。

 ここまで本事業の体制、人材配置、役割分担、業者選定と話をしてきましたが、その経緯も必ずしも平たんでなく障害も多くあったが、各担当の徹夜作業などの苦労の結果、何とかまとまってきました。
 このように、この事業立ち上げには各社の利害が錯綜したが何とかプロジェクトとして前に進めることができました。

 来月号からはこのプロジェクトの顛末について話をしていきたいと思います。

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