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ゼネラルなプロ (112) (実践力)

向後 忠明 [プロフィール] :2月号

 これまで、公民連携、PFI、コンセション、インフラプロジェクト、コンソーシアムといった用語やその役割について話をしてきました。
 特に、公民連携でのコンセションビジネスで比較的規模の大きいプロジェクト、例えばインフラプロジェクト等がここに示す用語を含む代表格と言えます。
 そして、この種の公民連携プロジェクトの代表格がPFIというものであり、前月号で事例紹介するといった「電気通信インフラプロジェクト」もその対象となるものです。

 事例のプロジェクトは日本プロジェクトマネジメント協会のP2Mに示されるスキームモデル、システムモデル、サービスモデルの全領域を含むものです。

 このプロジェクトはインドネシアの電気通信の回線増設目標を達成し民間セクターに建設から運用、そして保守まで行わせるもので、まさにスキーム、システム、サービスの各モデルを含むものです。
 このプロジェクトはインドネシア電気通信公社が中心となり公民連携でインドネシア国のエリアを5分割し、それぞれの民間事業者に割り当てるといったものです。
 どのエリアを選定するかは自由であり、それぞれの民間企業がそれぞれパートナーを選びコンソーシアムを組んで応札するものです。

 当初は筆者の所属する会社(N社)はパートナーとしてインドネシアの最大華僑であり政界に多くのコネクションを持つS社を選び、このプロジェクトに応札しました。
 そして、電気通信の雄である日本のN社とインドネシアの有力華僑とのコンソーシアムでの応札であり、絶対に勝てるといった自信もあり悠長に構えていました。

 ところがこの事前資格審査が不合格となりました。

 N社はかなり長くインドネシアの通信にかかわる相談や専門家の派遣を行い、通信公社に対しても大きく貢献しているといった自負がありました。
 この結果を聞いたN社幹部の頭の中は????で真っ白の状態となったようです。

 そのため、コンソーシアムリーダである華僑と当社は今後の対応策について、急遽話し合いを持つことになりました。この華僑側の責任者は当時のインドネシア大統領の後継候補であり、この人の力で何とか挽回しようと検討しました。
 しかし、この不合格になるといったことは誰もが予想もしなかったことで、この時点になってからでは特にこれといった解決策もなく、答えが誰からも得られませんでした。
 結果として、インドネシア政府からも良い感触を得ることもできませんでした。

 N社としてもこのままでは引き下がれないとの思いから、N社単独でトップレベルの交渉が不可欠と判断し、郵政大臣、開発庁長官、副大統領といったインドネシア側の要人達に会い、何故当社が不合格になったのかインドネシア側の考えを聴取しました。
 その結果、華僑排斥といったインドネシアの事情から華僑を表に出して事前資格審査にN社が参加したことが不合格の主な原因だったようでした。
 しかし、N社側もこれまでのODA等の貢献を引き合いに出したり、日本大使館も動かしたりしました。当然、その他のあらゆる手を打ったが、結局はこれといった良い結果は得られませんでした。
 何はともあれ、この問題の発端は華僑とのコンソーシアムが原因となったことから彼らとの合弁は取りやめとする以外に手段はないということがわかり、華僑との話し合いとなりました。
 彼らもこれまでのインドネシア政府との話などから、「我々が手を引かない限り審査は通らない」との思いから、これ以上はN社に迷惑がかかると考え、自らこのプロジェクトから降りるとの連絡をしてきました。

 それでもN社としても何らかの手立てをとる必要があると思い、今度はこのプロジェクトの中心人物である郵政大臣に直接、接触を図ることにしました。
 そして、郵政大臣とはことあるごとに粘り強く接触を図り、また郵政大臣に対してもN社を推薦する各所からの働きもありました。
 その結果、資格審査に合格したグループのどれかにN社が入ることを条件として郵政大臣から承諾を得ることができました。
 しかし、その後もまだいろいろな障壁もありました。
 問題はどのコンソーシアムグループに入るかということでした。
 そこで、今度はどこのコンソーシアムに入るかといった検討に入ることになりました。そして、N社としては投資に当たってまた仕事のやりやすさや規模を考えながら、複数のコンソーシアムと接触を図りました。
 その結果、中部ジャワまたはスマトラをプロジェクト対象地域とするグループに入ることになりました。
 しかし、この段階でも、N社が勝手にこのグループに入りたいからと言っても、このグループの賛同を得なければなりません。
 案の定、このグループの主要メンバーであるインドネシアの国際通信を担っている会社(I社)の社長がN社のメンバーとしての参入に反対してきました。その理由は、当初、この会社がN社と一緒にこのプロジェクトに参加することで声をかけた時、N社が断ってきた経緯があったということでした。
 その理由は、N社はすでに説明してきたインドネシア最大の華僑と一緒にこのプロジェクトに参加することを決めていたことでした。
 N社に無下に断られたことに対して、メンツをつぶされたという意識がI社の社長には強くあり、インドネシア人のプライドをひどく傷つけられたということが理由のようでした。
 しかし、最終的にはN社のインドネシアの友人の仲介により、最終的には何とかI社の社長を説得してもらい、問題解決が図られ、このグループに正式に入ることが認められました。

 その他のメンバーとの関係はI社の了解が得られたことで問題もなく、このプロジェクトの体制つくりも順調に進み、結果的には、コンソーシアムメンバーの構成はN社(含む日本商社2社)、I社、現地投資家(W社)そしてオーストラリアの電気通信公社T社の4社となり、このメンバーにて合弁会社を作ることになりました。

 この後に各社が出資比率を決めていくわけですが、他のメンバーはN社の弱みに付け込み株式払込権利にプレミアム(割増金)を提示したりしてきました。
 しかし、何とか折り合いをつけ、それぞれ出資比率を決め、このプロジェクトを対象とした特別目的会社(SPC)を作ることができました。
 そして、経済発展の可能性や、ビジネスプランなどを作成し、キャッシュフロー予測を立て目標とするIRR(内部収益率)が維持できる範囲ということでスマトラ地区はやめて中部ジャワをプロジェクト地域と設定しました。
 勿論、IRRの維持は銀行団からの融費を得る前提ともなるので、現地調査や設計、投資コスト算出、運用コスト算出、そして各種リスクを勘案し算出されるものでなければなりません。
 結果的には全コンソーシアム立会いの元で他のコンソーシアムに比較し、我々の選んだ中部ジャワの結果が一番となり、この地域の権利を獲得することができました。

 このプロジェクトの成り立ちはここまでですが、すべてスムーズにいったわけではなく、実際はもっとどろどろとした話し合いがありましたが、その話はここでは割愛します。
 このようにして、コンソーシアム及び特別会社ができたわけですが、前月号以来、話をして来たPFI、コンセション、インフラプロジェクト、コンソーシアムといった用語やその意味が分かったと思います。

 以下にこのプロジェクトのケースについての組織構成を示します。

このプロジェクトのケースについての組織構成

 なお、ここに示すSPCは業務内容や規模によっては多様な人材の必要性やリスクヘッジの分散ということを考慮し、上記に示したスポンサーが共同事業体方式の契約を取り交わしました。

 また、ここでPFIを民間企業が事業として実施する場合の、事業の方式や事業上の特徴について話をしたいと思います。

BOT (Built Operation transfer の略)
SPCが施設を建設し、一定期間所有・運転した後、公共側に譲渡するもの
一般的には15~20年と言われている。

BOO (Built Operation Own の略)
SPCが施設を建設した後も公共側に譲渡することなく所有・運転するもの

BTO (Built transfer Operation の略)
施設の完成後、公共側に譲渡し、SPCは施設の所有権を得てその運営を行うもの

 以上が民間企業(SPC)が事業として実施する場合の、事業の方式や事業上の特徴です。なお、本プロジェクトの事業方式はBOT方式です。

 ここまでで体制や事業方式そしてそれぞれの株式の持ち合いが決まったところで、前回のキャッシュフロー予測をさらに正確にするためのFS(Feasibility Study)を行う必要があります。
 そのための現地調査や各種詳細検討により確定した投資コストの算出を行い、設備運用期間内でこの事業の投資対効果があることを検証する必要があります。
 その結果としてこのプロジェクトに必要な投資額の詳細な算出を行い、足りない部分は金融機関からの融資が必要となります。
 そのためには、銀行から融資に必要な正確なIRRの算出とその条件などをまとめ銀行との話し合いとなるわけです。
 PFI事業においてはこの部分が一番重要な作業であり、また大変な作業で、投資金額が多いほど一つの金融機関だけではリスクが大きいためいわゆる複数の銀行が組んで銀行団を形成します。このプロジェクトもその一つです。

 さてここまでで本プロジェクトの形が整ったところで今度はSPC内の各コンソーシアムメンバーの担当をそれぞれ決めていかなければなりません。

 来月号ではその辺の話から始めたいと思います。

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