例会部会
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【第253回例会 報告】

KP 田邉 克文 : 2月号

【データ】
開催日: 2019年12月20日(金) 19:00~20:30
テーマ: 「傅役サービスによるPM人材育成」
 ~コーチング&メンタリングによる実践力強化~
講師: 中田 昭哉 氏/富士通(株)
プロフェッショナルサービス本部 知見サービス統括部 主席部長

富士通では2015年から既存の研修メニューやOJTを中心とした教育とは別に、SE部門のシニア幹部社員が集結しプロジェクトマネージャー(PM)がより実践的な能力を身に着けられることを目的としたPM強化のための取り組みが行われています。具体的には、「傳役(もりやく)」というPM育成コンセプトを作成し、2016年度よりPM実践教育を行っています。講演では、「傳役」の教育内容の紹介とその効果についてお話しいただきました。
(「傳役」の本来の意味は、殿様の跡継ぎを育てる役目を担う家臣。)

~講演の主な内容~
○傳役のコンセプトによる『PM実践教育』
○若手社員メンタリング活動
○シニア育成支援

~傳役のコンセプトによる『PM実践教育』について~
PM育成のため、プロジェクト経験豊富なシニア幹部社員が傳役として後進の育成を行っている。主なポイントは以下の通り。
傳役はSE部門出身のシニア幹部社員であり、現場で活かせるプロマネの実践力を養成
座学研修に加え、メンタリングをセットにした育成と合わせて実施
傳役がケースメソッドの学習方法により、現実のプロジェクト状況を共有しながら討議形式を重視することで研修生自身の気付きを高めるように工夫している
傳役は自説を述べるのではなく、討議のきっかけを与えるファシリテーター役となる
育成フォロー(現場メンタリング)では、傳役が必ず2名1組(3~6か月)で現場指導にあたる(2名としている理由は複数の観点による気付きを与えたいため)
研修後のフォローアップ期間を長くすることにより、おのずと研修生との信頼関係を築くことができ、研修修了後でも相談できるようになっている。
実践教育の効果は、本人、上司それぞれがスキルチェックシートで自己診断し、結果評価を3者(本人、上司、傳役)で行っている。なお、評価結果は人事評価とはつながっておらず、あくまで人材育成の一環で実施されている。

~若手社員メンタリング活動について~
PM育成の派生で若手(3~5年)定着の施策の1つとして私たちシニア幹部社員によるメンタリング活動を始めている。主なポイントは以下の通り。
若手の育成は本来職場の上司やリーダーの仕事だが、実務が忙しく、若手社員を適切に現場で指導・育成すること(所謂OJT)が難しくなってきている
シニア幹部社員がメンター役として若手社員のキャリア成長支援を行う
若手の相談に私たちのような世代が異なる元幹部社員ができるかどうか心配していたが、メンターになる前に傾聴実践を主としたコーチング研修を受けており、親身になって対応している(前述PM育成と異なり、守秘義務のため、1人に対して専任のメンターが見ている)
若手社員と相談して得た個人情報は絶対に公表しない。守秘義務を守る事で若手(メンティ)との信頼関係を築いている(メンターは聞いた内容を口外しない誓約書を書いているほど徹底している。)
活動の効果として、若手からは人生の大先輩に親身になって聞いてもらえたと評価してもらっている。仮にメンターが上司と同じような態度で接しては、上司が2人いるようだと言われてしまうので、その点には注意している

~シニア育成支援について~
役職離任後のシニアの成長支援についてキャリア支援と導入研修を行っている。
主なポイントは以下の通り。
役職離任後のキャリアを考えていない人が多いため、離任前からカウンセリングを開始し、役離後のキャリアを充実したものとするために自分らしい働き方を考えさせる
自己のキャリアを振り返ることによって「自己理解」を深め、自分らしい働き方を考える。ナラティブ・アプローチという方法で、入社から現在までのライフキャリアを文字やグラフでドキュメト化し、結果をカウンセラーが分析し強みをアドバイスする(例えば、人によって、自分の専門性を更に高めることができる仕事に挑戦するか、セカンドキャリアを見据えて現在と別の働き方を希望するかなど、違いがある)
シニア導入研修では、自己の専門性の発揮と後進の育成の役割に貢献できるためのライン幹部社員とは異なる意識の変化を促している。また、共通スキルの強化研修も行っている。具体的にはコーチングスキルやロジカルシンキング等である

~講師からのまとめ~
シニアの経験だけだと、若い人に伝えるのは難しく、また、回数も一回では伝わらないため、繰り返し伝える場が必要となる。シニアが継続して現役の場にいればできそうではあるが、実は、本人にも、周囲の人のためにも別の場所で活躍した方がむしろよい。その場合シニアは知らない場所で不安はあるが、そこにも同じような仲間がいることで、お互いに助け合うことができる。 傳役の活動はまだ道半ばではあるが、自分達の意思でやりたいことをやらせてもらっており、ラインの現場で働いていた時よりも充実して働くことができる。周りの仲間を敬って活動していくことで、シニアにもやりがいがあり、チャンスがある。その様な姿勢で若手に接しないと、口うるさい上司が増えたようにしか思われない。

~レポート筆者 所感~
PMの育成は難しく、多くの会社の人材育成担当者を悩ませている課題の一つだと認識しています。そんな中で今回ご講演いただいた取り組みは、大変興味深いものでした。
通常の集合教育や、資格を前提とした教育では知識は身についても実践的な現場への対応力を磨くのは難しいです。今回お聞きした、同じ現場を経験してきた先輩社員から直接研修を受けられて、さらに手厚い育成フォローを受けられることはおのずと成果に結びつくように思えました。将来育成の立場で関わるような仕事に就いたら是非参考としたいです。

 最後に、我々と共に部会運営メンバーとなるKP(キーパーソン)を募集しています。参加ご希望の方は、日本プロジェクトマネジメント協会までご連絡下さい。
以上

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