例会部会
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「第252回例会」報告

PMAJ例会部会 原 宣男 : 1月号

【データ】
開催日: 2019年11月22日(金) 19:00~20:30
テーマ: デジタル時代のプロジェクト・マネジャー
 ~生き残るための変革アプローチ~
講師: 佐藤 義男 (さとう よしお) 氏
株式会社ピーエム・アラインメント
講師略歴及び講演概要: こちらのリンク先の例会案内をご覧ください。

【はじめに】
ビジネスのデジタル化が急激に進む中、従来型マネジメント・プロセス(計画と実行)だけでは、ビジネス・イノベーションに対応できません。本講演では、プロジェクト・マネジャーが行うべき適応型マネジメント・アプローチや、プロジェクト・マネジャーの役割、資質等について解説頂きました。その概要を以下に記載致します。

【講演概要】
1. 今日伝えたいこと
世界最大のPMイベントであるPMI北米大会2017には、ビジネスのデジタル化のテーマや人間系のテーマが多く、スキルを重視している。以前の講演と比較して言えることは、プロジェクトマネジメント領域は発展的に変化していることが鮮明であること、変化にスピード重視のアジャイル開発アプローチ対応が急務であること、PMプロフェッショナルは、変革し進化しなければ生き残れないということである。
2. 従来型プロジェクトは半分になる
従来型のプロジェクトは半分になると思われる。その理由は以下の通り。
現在、ユーザ企業でビジネスのデジタル化に取り組む企業は、半数を大きく超えている。
政府はデジタル化による経営の効率化を求める「デジタル経営の指針」を作る予定
2020年7月から実施のPMP®新試験内容の概要によれば、試験の50%は「予測型プロジェクトマネジメント・アプローチ」であり、残りの50%はアジャイル型またはハイブリッド型アプローチ(PMI)である。
すなわち、今までの計画管理型のプロジェクトマネジメントだけではダメである。
3. 今、デジタル化への対応が急務
今、ビジネスのデジタル化が急速に進展している。ビジネスのデジタル化に取り組む企業は半数を大きく超え、特にプロセスのデジタル化の取組みが進展している。その内訳は、商品サービスのデジタル化(売上高1兆円以上の企業で53.1%が実施中)とプロセスのデジタル化(売上高1兆円以上の企業の75.5%が実施中)である。
4. トヨタ自動車の危機感
自動車産業のCASE(つながる車、自動運転、シェアリング、電動化)の大波が、部品メーカーに変動をもたらしている。自動運転の分野では、膨大なソフトウェアと電子部品が必要であり、電気自動車では、既存の部品メーカーの一部は淘汰される。また系列の再編で、自動車産業のあり方が根底から変わろうとしている。
トヨタの社長は「デジタル対応で先行できなければ生き残れない」と言っている。
5. 迅速型プロジェクトへの取り組み
企業の情報システムにはSoRとSoEの2種類がある。
SoR(System of Record)は従来からある確実性、安定性を重視するシステム。製造業であれば生産管理システム、銀行であれば勘定系や情報系など、基幹系のシステムで、データをためて、それを使いこなすシステムである。システム設計では「どのようなデータを集めるか」が焦点となる。
一方、SoE(System of Engagement)はスピードや使いやすさを重視するシステム。
顧客との間をいったりきたりしながら開発することで、今注目されている。その骨子はアジャイル型開発のアプローチ。システム設計では「どのようなユーザ経験を提供するのか」が焦点となる。
ジェフェリームーアがSoEのプロジェクトについて論文を書いて注目されたが、このSoEのプロジェクトに対してPMプロフェッショナルがどう対応するかが問われている。
SoRとSoEの違い
6. 適応型マネジメント・アプローチとは
ビジネス環境や技術動向の変化に柔軟に対応するプロジェクトマネジメントで、「アジャイル思考」でビジネス・イノベーションを実現するアプローチのことである。アジャイル型開発を新製品開発(ソフトウェアに限らない)に拡大し、顧客の納得するシステムや製品を提供することが狙いである。「計画・管理重視」ではなく、「自律・協調」型のマネジメントが必要である。
7. デジタル時代のプロジェクト・マネジャーとは
変化に適応し、変化を創り出す人で、自分を変え、変化を引き起こす(Change Maker)人である。また新事業を実現する適応型(アジャイル型)マネジメントアプローチをする人である。
プロジェクト・マネジャーは、PMプロフェッショナルとしてスキルを広げ、新しいことを学ぶ(先進デジタル技術の活用)。また、自発的に動き、チームと個人の成長を促す「思いやり型リーダーシップ」を身に着けている。プロジェクト成功を決定づける3つのスキルセット(技術的プロジェクトマネジメント、リーダーシップなどの人間系スキル、戦略およびビジネスマネジメント)をバランスよく持ち合わせている。(=PMIのタレントトライアングル)
8. 進化するプロジェクト・マネジャー
今必要とされるプロジェクト・マネジャーは、ビジネス・プロデューサーとスクラムマスターで、その資質とリーダシップ像、および必要なコンピテンシーは以下の通り。
①ビジネス・プロデューサー(ビジネス・イノベーション)
<資質>
強い「思い」や「夢」を持ち、成功に挑戦することで、目標を共有した個人の価値観により人が動く思いやり型リーダーの資質を持ち、それに共感するメンバーが主体的に行動して、新事業を創り出す人。
新しいアプローチを創出し、それを成功させるために計画から開発・運用まで一貫して統括できる人。
ビジネス・プロデューサーのリーダーシップ像
失敗に寛容で、自らも誤りを認める人。
グループ思考を駆使し、率直にアイデアや意見を出し合う、オープンなチーム作りが出来る人。
<コンピテンシー>
発想法(方法論の理解と活用)、チームをまとめる力、自己変革
感動付与・積極的人材育成、新しい成果へのチャレンジ、新しいアプローチの創出
新コンセプトの創出、将来予測、情報発信、ゼロからの最短プロセス立案
②スクラムマスター(アジャイル開発)
<資質>
ファシリテータ的役割を発揮し、自律したチームを支援する人。
マネジメントからリーダーシップ(サーバントリーダーシップ)を発揮。
監視コントロールから、自律性を促進。
現場監督から、創造性や改革の促進者。
迅速型SoEプロジェクト(スピードや使いやすさ重視のシステム化)に欠かせない。
スクラムマスターのリーダーシップ像
<コンピテンシー>
アジャイル開発の本質(リーン生産方式、スクラム)
アジャイル開発のマインドセット(4つの価値と12の原則)
アジャイル開発推進スキル(開発プロセス、開発プロダクト、開発プラクティス)
人間系スキル(継続的改善、勇気、リーダーシップ、チーム形成、顧客接点マネジメント、ファシリテーション)
柔軟性・適応性、対人感受性、人間関係・感情の調整、組織的リーダーシップの発揮
感動付与・積極的人材育成、方向性やゴールイメージの共有、混沌とした対象の解析
9. まとめ
デジタル時代のプロジェクト・マネジャーは、変化を創り出すために、自分を変えて新たな価値創造にチャレンジする必要がある。また自らビジネス・イノベーションを創出して競争優位を獲得する機会を生み出すことが重要である。デジタル時代を生き抜くためには、プロジェクト・マネジャーは進化すべきである。
【所感】
  従来型のプロジェクトでも、完璧にマネジメント出来たという経験がほとんどないというのに、新たなるプロジェクト形態のマネジメントを習得しなければならないという事実。人生100年時代、いつまでも現役でいるためには、何事も常に勉強していくことが必要なようです。皆さん、くれぐれも加速化するデジタル化の流れに取り残されないよう頑張りましょう。
今必要とされるプロジェクト・マネジャーの人物像をわかりやすく解説頂いた講師に感謝いたします。

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