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「エンタテイメント論」(143)

川勝 良昭 Yoshiaki Kawakatsu [プロフィール] :2月号

エンタテイメント論


第 2 部 エンタテイメント論の本質

6 創造
●筆者への「個人的相談」
B-2 中小企業に勤務する人物からの個人的相談

 自分は中小企業に勤める管理職社員である。定年はかなり先である。管理者としてやるべき事以上の事をやっていると自負している。会社はいろいろな深刻な問題を抱え、「今のまま」では「近い将来」は「ヤバイ」と「冷静且つ深刻に認識」している。今、何を考え、如何に行動すべきか? 教えて欲しい。

出典:専門相談
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●筆者のアドバイス
 筆者に相談に来た今回の中小企業の管理職社員は、会うなり、堰を切った様に多くの事を話し出した。しかしその話の本筋は、結局上記の記述内容に集約された。

 筆者は「隣の芝は茶色い。転職など考えず、一刻も早くB列車に乗り、自社を強くし、自分を変えなさい」と結論を先に述べた。「キョトン」とした表情をした。当然であろう。そしてこの結論内容をかみ砕いて説明していった。以下の通りである。

●隣の芝生は青い
 「隣の芝は茶色い」と云う「諺」は、日本にも外国にもない。在るのは英語の「諺」の「The grass is always greener on the other side of the fence」と日本の「諺」の「隣の花は赤い」である。

 筆者は、この諺を2つの観点から勝手に解釈している。1つは本当に青い「実像説(Real)」と、もう1つは青く見えるだけの「虚像説(Fake)」である。

  出典:隣の芝は青い The+grass+is+always+greener+on+the+other+side+of+the+fence
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 実像説では、隣の芝生は雑草駆除や芝刈りなどの手入れが適時、適切に且つ十分になされ、スクスクと成長している。そのため本当に青い。

 しかし虚像説では、隣の芝生は雑草駆除や芝刈りなどの手入れが適時、適切になされず、不十分なため徐々に衰弱している。しかし遠くから見ているため青く見える。

●青い企業か? 青く見える企業か?
 この「諺」の「隣の芝生」を現在の多くの日本の「企業」に当て嵌めてみた。

 自分の会社や他の会社は、本当に青い実像の会社か? 青く見えるだけの虚像の会社か?である。自社や他社に働く社員は、実像か? 虚像か? 表に見える顔は本物か? 裏にある顔は何か? それらを観察し、見抜く事は、自社のためにも、自分のためにもなる。

  出典 実像と虚像 https://tigerspike.com 出典 実像と虚像
https://tigerspike.com

 ある会社は、社内外の問題を適時、適切に解決し、そこで働く企業人への管理も適時、適切に行っている。経営者は既存事業の改善だけでなく、新規事業の実現に「本心、本気、本音」で挑戦し、「不安心、不安全、不安定」と思われる事業を先取りし、果敢に決断し、実行し、両事業共に成功させている。その結果、却って「安心、安全、安定」した経営を実現させ、将来への展望を開いている。この様な企業は本当に青い企業である。またそこで働く社員も青い社員である。

 しかしある会社は、社内外の問題を適時、適切に解決せず、そこで働く企業人への管理も適時、適切に行われていない。経営者は既存事業の改善も、新規事業の実現も「本心、本気、本音」で挑戦せず、「不安心、不安全、不安定」と思われる事業には決断を避け、「安心、安全、安定」と思われる事業だけを決断し、実行する。そのため他社や市場の成功の後追いで、激しく、早く変化する外部環境に対応できていない。競争に後れ、蚊帳の外に置き去りにされ、却って「不安心、不安全、不安定」な経営をする結果になり、将来への展望を閉じている。

 しかしこの様な青くない会社や青くない社員に限って、AI技術を核とするIT最先端技術の効果ばかりに着目し、その技術の導入・活用に派手な動きをする。そのためこの様な企業は外から見ると青く見える。

●新しい技術による激速・激変の凄さ
 筆者は相談に来た今回の人物に「有名な写真」を見せ、意見を聞いた。それはニューヨークのマンハッタンの五番街の通りを走る馬車と自動車の写真である。

出典:馬車から自動車へ https://markezine.jp/article/detail/28030
出典:馬車から自動車へ https://markezine.jp/article/detail/28030

 彼は、ヘンリー・フォードの「自動車大量連続組立方式(オートメーション)」による安価な大衆車の普及が齎した写真であると答えた。

 筆者は「その通り。しかし最も注目する点は、今から100年以上前の1900年、その時から僅か10年ほどで馬車から自動車に激速・激変(筆者の変な造語)した事、また激速・激変が従来の事物(コトやモノ)の全てを瞬く間に陳腐化させた」と答えた。またも「キョトン」とした表情を示した。

 この100年以上前の激速・激変の事実を現在のAIを核とするDX時代を経て訪れる「第4次産業革命」に当て嵌めてみた。

 100年以上前の世界でも、僅か10年で激速・激変する事実がある。「第4次産業革命」が本格化するのは10年から20年先だと「のんびり」と考えている企業や企業人は、日本だけでなく、世界から「蚊帳の外」に置き去りされる。筆者は、過去の激速・激変の事実から演繹して、この革命は、10年以内に本格化すると考えている。

 この激速・激変は、その「凄さ」だけではない。国、企業、個人が関わる従来の全ての事物(コトやモノ)を瞬く間に「陳腐化」させることである。従って日本の国力、企業力、個人能力の陳腐化を一刻も早く防ぎ、磨き直し、新たな力(パワー)を創り出すと云う「自己改革(一種の革命)」が決断し、実行せねばならない。

●IT最先端技術の導入・活用
 AI技術に代表される「IT最先端技術」を日本の国も、企業も、個人も盛んに導入し、活用している。しかし実際には思う様な成果を上げていない。何故だろうか?
 
 AI技術は、日本の戦国時代に渡来した「鉄砲」に譬える人物が日本に意外に多い。この鉄砲を最も活用した武将は織田信長と言われている。

出典:左:火縄銃の戦闘写真 google.co.jp/imgresFrekijin.com%2Fwp-content%2Fupload=8 出典:右:戦闘の画 blog.livedoor.jp/nifu_senkin-daily/archives/78105853.html
出典:左:火縄銃の戦闘写真 google.co.jp/imgresFrekijin.com%2Fwp-content%2Fupload=8
出典:右:戦闘の画 blog.livedoor.jp/nifu_senkin-daily/archives/78105853.html

 戦国時代の戦争では、鉄砲も大きい役割をした。しかしそれ以上に長い槍、空から飛ばす弓矢や石(投石)などが大きい役割を果たした。更に兵隊、馬、武器、水、食料などの供給体制の準備と運営は鉄砲の役割より遥かに重要な役割を果たした。また戦争全体とそれを構成する個々の戦闘を適時、適切に指揮命令する仕組みと運営を構築し、戦争局面に応じた決断が最も重要な役割を果たした。

 この戦国時代の「銃と戦争の関係」を現在の「AI技術と経営」に当て嵌めてみた。

 AI技術は「鉄砲」の様に多くの分野で重要な役割を果たす。しかし「AI技術」だけで経営は出来ない。経営は社長の指揮の下で組織、人事、教育(訓練)、生産、販売、物流など多くの機能に支えられている。今、特に求められることは、世の中が求める「優れた価値」を発想し、計画化し、実現させることである。その事を実現させるためには、多くの機能が適時、適切に発揮されることである。

 この機能の発揮をする活動と「優れた発想」による「優れた価値」を創造する活動こそが「ビジネス・イノベーション(経営改革)」である。この改革を決断し、実行する過程でAI技術を核とする「IT最先端技術」を導入し、活用する。この「逆」はない。

 最近、IT最先端技術の活用に膨大な投資をしたがあまり効果を出していない企業や失敗した企業がかなり多い。その理由は、そもそも「逆」の事をしており、しかも機能発揮と価値創造を徹底的の実行し、成功させていない。織田信長は鉄砲だけで戦いを勝利した訳ではない。

●転職よりもB列車
 現在の日本の製造業界、流通業界、銀行業界、証券業界、保険業界、運輸業界、鉄道業界、航空業界、TV業界、メディア業界など殆どの業界とそれに属する企業は、どこも、ここも深刻な内外の問題を抱えている。「今のまま」では将来への展望が開かれず、苦悩している。更にそこで働く多くの企業人は、もっと「ヤバイ」のである。隣の業界、隣の企業、隣の企業人は、殆どが青くなく、茶色いのである。青いと思って「転職」しても、転職先が茶色い企業では大失敗になる。

 ジャズのスタンダード・ナンバーの1つでDuke Ellingtonの「Take The A Train(A列車に乗ろう)」と云う有名な曲がある。しかし「B列車」の曲はない。これは、筆者が作った「人生の列車(ABCDEX列車)」の中の1つである(参照:エンターテインメント論141号/112519)。

出典:Duke Ellington,
出典:Duke Ellington, "Take the A Train" youtube.com/watch?v=cb2w2m1JmCY

 国、企業、企業人の全てが「ヤバイ」と云う様な事は、バブル経済崩壊時を除けば、今まで無かった現象である。筆者が昔から主張してきた「構造的危機説」を越える深刻な危機が実相を帯びて次々に現出している。加えてAI技術を核とするDX時代の到来は、殆ど全ての業界の企業と企業人に「自己改革(一種の革命)」を迫っている。しかも自己改革は一刻を争う。

 「隣の芝は茶色い」のである。ならば実態を知らない「他社」の「芝生の青さ」など気にせず、実態を知る「自社」の芝生を手入れし、発展させる事こそが「B列車」である。自己改革を決意し、自分を磨き、実力を付け、自社を発展させることが最も「安心、安全、安定」な仕事上の選択である。「自分を青く、自社を青く」して欲しいと彼に助言し、個人相談を終えた。

つづく

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