図書紹介
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ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー
(プレイディみかこ著、(株)新潮社、2019年11月15日発行、第11刷、252ページ、1,350円+税)

デニマルさん : 2月号

今回紹介する本は、昨年の第2回 Yahoo!ニュース本屋大賞のノンフィクション本大賞を受賞して話題となった。話題のポイントは幾つかあるが、著者はイギリスに居住するライターであり、コラムニストであり、中学生のお子さんがある主婦でもある。その子の学校の事から身の周りの生活を書いたエッセーが評判となり大賞を受賞した。この著者の鋭く奥深い視点にも増して、子供の感性の豊かさに感動させられた本である。昨年、本屋大賞を受賞した「そして、バトンは渡された」(瀬尾まいこ著)を6月号に、ノンフィクション本大賞の「極夜行」(角幡唯介著)を3月号に取り上げた。筆者は、最近何故か本屋大賞で選ばれた本に関心が傾注している。この傾向は、書店の店員さんも同じ様な傾向であると言われている。一般的には、芥川・直木賞等の歴史ある大賞よりも内容が面白く、テンポが良く、深みもあり読み応えがある。だから評判となり人気が出て売れていると言う。さて今回のノンフィクション大賞が決定される以前に、筆者は候補作品(6冊)から2冊を読んでみた。第一回目の受賞傾向から、「安楽死を遂げた日本人」(宮下洋一著)と『牙、アフリカゾウの「密猟組織」を追って』(三浦英之著)を予想したのだが、外れてしまった。読者層をPMAJの会員諸氏に絞れば、或いは変わったかも知れない。特に、「安楽死を遂げた日本人」は、現在の高齢化社会の日本では安楽死は違法であるが、日本人がそれを実現するには、スイスに向かうしかない。それにはお金も時間もかかる。しかし、取材された彼女の強い思いは、海を越え、人々を動かしていった。患者、家族、そして著者の葛藤を含めてありのままに描き、日本人の死生観を揺さぶるドキュメントに纏めてある。未だかって経験のない事柄である。それだけに若者には重たい内容で、大賞には遠かったのかも知れない。もし機会があったら読んで頂きたい本である。残念ながら今現在は話題となっていないので、今回は表題のノンフィクション本大賞受賞の作品を紹介とする。この本には、現在のイギリスの政治・経済・社会でも学校教育の身近な問題を、普段の生活をベースに伸び伸びと分かり易く書いている。著者は、受賞記者会見で「普通、本を書いたときには「よっしゃー!」とか色々な感慨はあるんですけど、この本に関してはあまりに自分の近いところにある物事を書いているので、一体こんなものを人様が読んで面白いんだろうか。という気持ちしかなかったので、大賞は励みになります」と気さくな挨拶するコラムニストだ。この本で第73回毎日出版文化賞特別賞や第7回ブクログ大賞(エッセイ・ノンフィクション部門)等を受賞している。

ぼくはイエローでホワイト        ――イギリス生まれの日本人――
著者は地元福岡の学校を卒業後、音楽好きが高じて渡英を繰り返し、イギリスで保育士となり、アイルランド出身のダンプの運転手と結婚して20年以上経つ。二人の間には中学生のお子さんがいて、その彼が本書の主人公である。だからイエローでホワイトな日本人である。
著者の家族は、いわゆる「荒れている地域」に住んでいるのだが、ご主人の宗教上、カトリック系の小学校に通学した。一般的にカトリック系の学校は厳格で宿題も多く、市の学校ランキングで常にトップを走っている学校で、彼は生徒会長まで務める程の生徒だった。そして中学校に入ってから、イギリス社会のリアルなイジメや喧嘩や人種や格差もごちゃ混ぜ状態の中で、主人公の彼と学校の友人たちの生活をエッセーにした新英国生活事情である。

ぼくはホワイトな中学生         ――イギリスの元底辺中学校――
どこの国でも「荒れている地域」はあるもので、主人公の彼が住むブライトンの町にある中学校は、元底辺中学校と呼ばれている。荒れている地域の学校であるから、学業の方も疎かになり必然的に底辺の成績の学校となっていった。そこに新任の校長が赴任し来て、学校改革にチャレンジしたのか、生徒の学業成績が上がり元底辺中学校と呼ばれる様に変わったか。主人公の彼と母親は、中学校の学校見学会に出掛けた。そこでカトリック系の学校の形式ばった校長や生徒会長の挨拶に比べ、元底辺中学校では校長の簡単な挨拶が終わるとステージ一杯の生徒の伸び伸びとした楽しそうな演奏を見た。それもファンクミュージックで音も動きも多種多様であるが、何故か一丸となって纏まっていた。形式に拘らない自由な雰囲気の中に皆が音楽を楽しんでいた。結果的に主人公の彼は、父親の薦めるカトリック系の学校ではなく、元底辺中学校を自分から進んで選択した。この本の核心部分のスタートである。その後、著者は大賞受賞の記者インタビューで、『私は彼に「あの学校に行け」と言った覚えはない。いい歳をして反抗的でいい加減な私と違い、彼は10歳でも分別のあるしっかりとした人間だった。基本的に「いい子」なのだ』と親馬鹿ぶりの本音を語っていた。

ぼくはブルーなイギリス人        ――政治と生活が直結するイギリス――
先に「荒れている地域」の事が書かれてある。この地域には元公営住宅地があった為で、「元」が付くのは、サッチャー政権時代に公営住宅の殆んどが払い下げになった。この結果、不動産屋から購入できた人もいれば、相変わらず地方自治体に家賃を払いながら住んでいる人もいるという「まだら現象」となった。中には民間に払い下げようにも評判が悪すぎて売れなかったと噂される公営団地もあり、まだら地区に住む住人たちからも「ホワイト・トラッシュ(白い屑)」という差別用語で表現されてもいた。同じ「荒れた地域」でも複雑に入り組んだ構造になっている。主人公の彼が通う中学校は、そんな地域にあるので、同級生がレイシスト(差別)発言を繰り返して問題になる事が書かれてある。そんな問題にも冷静に対処している主人公の彼は、逞しく成長していく過程を書いている。尚、このタイトルは彼の日記の隅に書いたメモを、著者が気になり借用したとある。是非読んで頂きたい本である。

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