ロウソクの科学 ファラデー著(文庫版)
(マイケル・ファラデー著、竹内敬人訳、(株)岩波書店、2019年10月25日発行、第12版、250ページ、1,900円+税)
デニマルさん : 1月号
今回紹介する本は、2019年のノーベル化学賞を受賞した吉野彰さんが記者インタビューで話されて話題となった。その話は「小学生の時に先生が1冊の本を薦めてくれた。それがファラデーの「ロウソクの科学」だった。その内容が、子ども心に化学はおもしろそうだなと思った。そこから化学に関心を持って、どんどん得意になったんです。」と語っている。以来この本に注目が集まり、出版社は増版に増版を重ね、たちまちベストセラーとなった。筆者も読んでみたが、身近な事を非常に分かり易く丁寧に書かれてあり、子どもから大人までロウソクの原理だけでなく、科学に関するアプローチや考え方を教えてくれた本である。特に感動したのは、この本が1861年に書かれた点だ。今から158年前、日本は江戸時代末期で明治維新の直前である。その時代に、イギリスではロウソクの科学が講演され、講義内容が纏められ出版された。それが今現在に至って読んでも全く内容が陳腐化してない。しかも現在のノーベル賞受賞者が、その本の内容を推薦している現実がある。名著は歴史を超えても存続し続け、現代のべストセラー本になるという奇跡である。さて、著者であるファラデーについて触れてみたい。1791年、ロンドンの貧しい鍛冶屋の次男として生まれた。幼い頃から製本所の徒弟として働く中で科学に興味を抱き、独学で実験などを行う。22歳で王立研究所の助手として研究を始め、後に同研究所の所長になっている。王立研究所は、1799年に科学教育、科学研究の機関で、技術的な知識の交換のための教育的広報活動、講演会、出版等の継続的な活動を通じて、新技術、装置、機械の応用などを目的に設立。ここで年少者向けのクリスマス・レクチャーの講義が行われた事でよく知られていて、それが今回紹介の本となっている。さて、ファラデーは、ベンゼンの発見、電磁誘導の発見、電解物質における“ファラデーの法則”の発見、塩素の液化法の発見、復氷の発見、特殊鋼の研究、金のコロイドの発見など数多くの輝かしい功績がある。特に、ファラデーの(電磁誘導)法則だが、専門的で難しいが「コイルなどに磁石を近づけたり、遠ざけたりするとコイルを切る磁束が変化する。そこで電磁誘導により発生する起電力は、コイルの巻き数と磁束の変化の傾きを積算したものがコイルに生じる誘導起電力の大きさとなる」とある。現在の変圧器の誕生の基である。そして1867年、75歳で逝去された。この講義の記録者はウィリアム・クルックス卿(陰極管(真空管)を発明)で、本書の序文の最後に「人類は知識を豊かにする為に身を捧げる人も出て来るでしょう。科学の灯火は燃え続けなければならない。“すべては燃える”」と書いている。
ロウソクの科学(第一講) ――ロウソクの仕組み――
この第一回目の講義は、1860年12月に「ロウソク、災とそのもと―構造-動きやすさ-明るさ」として行われた。実は、このクリスマス講義が1827年から数年毎に開催され、ロウソクの科学は2回目で、それを本に纏めている。この講義に6本ものロウソクを持参して話をした。1本目は木綿糸をぐるぐる巻にして牛脂に浸した「ひたしロウソク」。これでロウソクの構造を説明。2本目は沈没した軍艦から見つかったロウソクで、これは塩水に浸されたにもかかわらず、火をつけると燃える。これはスエット(牛脂)が燃えるためで、スエットの話からステアリン酸を製造したゲイ=リュサックの功績を紹介している。3本目のロウソクは、クジラの油で作られた「鯨油ロウソク」。4本目は黄色の蜜蝋のロウソク、5本目は精製した白蝋のロウソクで、このロウソクからはパラフィン物質の謎を暗示した。6本目は日本から取り寄せた和ロウソクだ。この和ロウソクから東洋の神秘を伝えた。このようにロウソクを何本も見せながら、「ロウソクが燃える」とはいったいどういう科学現象なのかということを説明し化学や物理のことばかりでなく、ロウソクの最も美しい姿は「ロウソクの有用性が完璧をめざしたときに生まれる美しさです」と美の観点も語っている。
ロウソクの科学(第三講) ――燃焼による生成物――
この講義の中間に当る第三講は「生成物、燃焼によって生じる水―燃焼に必要な空気-水の生成」を話している。ロウソクの燃焼で、見える火の災、煙からススである木炭が出るが、見えない空気中に「水」があることを実験で見せる。ロウソクで水を熱すると水蒸気から気体となり、それを冷やすとまた「水」に戻る。その水の温度を下げると凝固して氷になる。その水に亜鉛のかけらを加え、更に薄い酸を加えて出来た気体を取り出すと、軽い可燃性の気体が得られる。これが水から生成された水素であると説明する。そこで水素を石鹸水から生じたシャボン玉が、水滴を含んで天井高く上っていくのを確認する。こうしてロウソクの燃焼で生成された水から水素を分け、水素が空気より軽いことを証明した。
ロウソクの科学(第六講) ――燃焼と呼吸の関係――
最後の講義は、1861年1月に「炭素つまり木炭―石炭ガス-呼吸-呼吸とロウソクの燃焼との類似」(結論)である。今までの実験でロウソクが燃えるには空気(酸素)が必要で、燃焼した結果、空気と化合して二酸化炭素(炭酸ガス)が生じることを実験で確認した。この空気(酸素)を吸って炭酸ガスを出すプロセスは、我々人間が呼吸をしている事と同じである。この空気と炭酸ガスは、植物の炭酸同化作用で炭酸ガスから酸素に浄化される。地球上の大自然の中で動物と植物の共生が営まれていると話す。最後に、「皆さんは、ロウソクの様に光り輝いて貰いたい。そして全ての行動において正しく有益であり、ロウソクの様に世界を照らして下さい」と結び、ファラデーが亡くなる6年前の69歳の講義だった。
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