グローバルフォーラム
先号   次号

「グローバルPMへの窓」(第141回)
インド:マイホーム・アウェイ・ホーム

グローバルPMアナリスト  田中 弘 [プロフィール] :1月号

 ある国で、田中の取柄は何かと問われた。取柄は、愚直に取り組むので案件ごとに長続きすること、ライバル視されないのでホスト国の内側に入り込めること、世界の幅広いPM雑情報を持っているので情報の仲介者として重用されること、であろうと答えた。自己顕示欲が低く、マイペースで、テンションは中ぐらいに抑えるので相手が疲れない。自分で目視した、あるいは調査した事象に基づき本音を言う、一回の出講ごとに必ず勝つ工夫を行う、関係維持のために参加すべき海外イベントには自費でも参加する、自分のターゲットとする地域と国を絞る、出講にあたっては必ず更新したコンテンツを提供する、などを淡々と行ってきた。
 2019年には、16年間続いたSKEMA Business School、10年間の北陸先端科学技術大学院大学、9年間の慶應義塾大学大学院経営管理研究科、6年間の岡山県立大学大学院への出講が一斉に終結した。各々の大学院で教育方法、教育内容の幅と深さ、学生の反応が異なり、常にイノベーションと我慢が必要であった。心残りは、教育では世界的な水準に達する成果を得たものの、研究では真の研究者になれなかったことである。

 12月6日から12日まで9年ぶりでインドを訪れた。2000年代に筆者がゲスト常連であったGlobal Symposium (New Delhi) という国際PM大会がWorld Project Management Forum (WPMF)という新たなイニシアティブに衣替えをするに際してゲスト筆頭として再び呼び戻された。
 インドには、1992年から開催されているアジア最古のPM国際大会 Global Symposiumがある。この大会は2019年で27回を数えたが、プロジェクトマネジメント協会ではなく、Centre of Excellence for Project Management (CEPM)というNPO法人が主催している。CEPMの代表はかつてインドPM協会 (PMA, India) 会長と上部団体IPMAでアジア人初のプレジデント、チェアマンを務めたAdesh Jain氏である。Adesh氏とCEPMのCEOであるRuchira女史夫妻とは1995年に米国のPMI世界大会で出会って以来4半世紀の親交があり、過去12回にわたりPM振興期のインドにあって、毎年12月に開催される国際大会で、基調講演、招待講演、トラック議長、パネル、特別セミナーなどを繰り返したが、2010年を最後にヨーロッパでの教員活動を全うするために参加を辞退してきた。
 WPMFは、世界でプロジェクトマネジメントのパフォーマンスが低迷するなかで、筆者が常々唱えている、プロジェクト創造(Project Creation, Front-end Project Development)やニューエコノミーに対応したPMメソドロジーの提唱に焦点を当てた運動を起こそうという趣旨であること、2007年に筆者がチェアマンであった際に中断を決定したGlobal Project Management Forum (GPMF) の精神を引き継ぎ、新たな生命を吹き込んで世界のPMを変えようという運動であるので、Jain-Tanaka アライアンス復活となった。

大会首脳 左から政府代表、田中、大会総裁(前首相筆頭補佐官)、Jain組織委員長
大会首脳 左から政府代表、田中、大会総裁(前首相筆頭補佐官)、Jain組織委員長

 World Project Management Forum大会は、13か国からの代表とインド国内から400名(118政府省庁・国営営企業・民間企業)が参加してニューデリーのLe Meridian Hotel(5スター)を会場として盛大に開催され、新たなPMモデルの追求へのコミットメントを採択して終了した。
 スピーカーは、田中と前IPMA会長のVeikko Välilä氏が主催者指名で、あとはすべてCall for Paperによる応募であったが、海外勢はすべて名うてのスピーカーが選ばれた。筆者は開会式での主催者式辞のあとの開会演説(15分)、基調講演I Front-end Project Development - a Key to Project Success in 2020’sを担当したが、参加者評価は、大会組織委員長Jain氏、インド電力公社総裁の講演と並んで最高の4.1/5.0で、インド大会では最高の得点となった。大会の趣旨と照らすと講演のなかで光ったのは3件あった。他の講演もプロのスピーカーであるので迫力はあったが、フロントエンドのPMを語るには弱かった。
 2日間の大会の後、石油天然ガス省ハイドロカーボン総局長主催の特別セミナーをインドの石油天然ガス企業(国営、民営)幹部60名に向けて行い、大変感謝された。ここは筆者しかできない持ち場であり、活発な対話もできた。

 インド大会は、5星ホテルで開催するのでインドとしてはかなり高価な5万円相当の参加費(2回の昼食と大会ディナー1回込み)となっているが、大変な高級感がある。集客はJain氏が一人で1か月前から企業・団体に電話をかけまくり、400名から500名程度を確保する。
 Adesh Jain氏、Ruchira Jain夫人の組織力、運営力、講演力は全く衰えておらず、共に大会を引っ張った田中とVeikko Välilä元IPMA会長の4名の歳を合わせると289歳となる。スーパーシニア・パワーもなかなかやるものだ。
毎食のバラエティ豊かなベジェタリアン料理  いつもの通り、デリー訪問中Jain氏宅に泊めていただいたが、スパイス料理が大好きな筆者は、毎食のバラエティ豊かなベジェタリアン料理を堪能した。カリーと総称されるが、汁系、炒め物系、温野菜系、サラダ系、リゾット系と飽きない。辛いだけではなく、素晴らしいうま味もある。なんでも喜んで食べる筆者はご夫妻だけではなく、炊事を担当する家政婦さんに大変喜ばれる。
 帰路、デリーは12月には極めて稀な大豪雨が3時間ほど続き、午前1時15分発のANA機は90分の出発遅延があり、雷雲はデリー空港上空からヒマラヤ山脈上空にまで及んだが、これは名残の雷鳴だそうで来年(2020年)も必ず来るようにとの号砲とのこと。 ♥♥♥

ページトップに戻る