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「日本再生“アベノミクス”を成功させるために何が必要か」 (69)
高齢化社会の地域コミュニティを考えよう (45)

東京P2M研究会 渡辺 貢成: 12月号

Z.  今月は12月号で年末である。
 日本再生“アベノミックス”を成功させるために何が必要かは3月で終了させるが、ひとまずある結論を出しておきたい。そのため10月号、11月号の結論をまとめて示す。だが、グローバリゼーションに対する国や、経営者のありかたが見えてこない点が気になる。これが第一の課題である。第二の課題は国債(国民の貯蓄:国民は債権者である)を国が使いながら、その返済を消費増税という国民全員に責任をとらせる財務省の在り方への追及である。第三の課題はプロジェクト・マネジメント(含むプログラム)という世界中で最も優れたシステム・エンジニアリングという科学的手法がありながら、【日本的ムラ社会人脈優先方式】で意思決定が経験的な手法が今も身近な形で使われる。そのためにワンランク上の課題としてPMを有効に活用すること、人間には状況に応じて表も裏も使える人材としての道が求められている。
( 1 )10月号の内容
1 ) 日本と欧米の企業の組織形態の相違
欧米: ジョブ型組織(機能優先組織)で三層構造(上級職員、下級職員、現場労働者階層)構成され、下級階層、現場労働階層の賃金はその社会でほぼ同一金額となっている。上級階層は企画、設計等を実施するが、彼らは自己のアイデアを提示し、採用された暁には、彼が約束した成果に見合う報酬を獲得できる仕組みとなっている。言い換えると提案は未来に向かった価値ある新提案であるが、時代の推移にマッチした提案でないと報酬が得られないリスクがある。
日本: 終身雇用メンバーシップ型(人脈優先組織):ある種の専門分野はあるが組織の長の指示で、命じられた業務を遂行する。ジョブ型のような明確な専門者の集まりではなく、終身雇用のため、過去の経験を頼りに業務を実施する。メンバーシップ型の社員は引き続き同じ仕事をしても、年功で賃金があがる仕組みになっている。そのため無理して新規業務に飛び込まないという欠点がある。
☆通称を【日本的ムラ社会人脈優先方式】と命名した。この方式がこれからの「日本の運命をつくれるか?」という検討が最も重要である。
2 ) 組織の成果:戦後から1990年までの製造業
日本企業は戦後の貧しさからの出発であったが、朝鮮戦争勃発のため、日本の製造業への製品・部品依頼が起こり、経済力の向上に著しく貢献し、製造業の発展に大きく寄与したことは、貧しさからの離脱を早め、その豊かさは大型家電、次に自動車産業の発展につながった。自動車産業はその後オイルショックがあり、ガソリンの高騰で、小型車を買う米国人が増えてきたこと、トヨタの車を使ってみるとほぼ故障のないことに気が付き、世界一の生産量を上げることに成功した。大量生産システムのメイン工場と多品種の部品製造工場とのコラボレーションの緊密さでさらに大きな勝利が得られた。
3 ) 1990年以降の家電製造に関して
日本企業は好景気に気をよくし、韓国や台湾、更に中国へ、日本の技術支援を行った。サムスンは韓国の財閥で国家予算の30%を占める巨大さであり、半導体生産では韓国内の生産量と、全世界規模で予想される生産量を把握し、巨大数量がコストダウンに貢献し、競争力をました。これに比し日本は役所の指令で10社に配分したため、コスト差で半導体産業が没落した。また、家電製品は世界的にみて高級製品であったため、アジア向けには高価で需要が伸びなかった。これに対しサムスンは新興国向けに、素晴らしい戦略を展開した。まず、製品を売る前に韓国の文化を売るという政策を考えた。アジア地域には各国1人以上の文化大使を派遣し、韓流という文化(歌・踊り・テレビ作品)を提供し続けた。現地に文化が行きわたると現地人は韓国の製品に親しみを感じ、彼らが望む要求を提供してくれるようになった。そのため新興国では日本というブランドが人々の頭の中から消された。その結果、韓流製品は現地で独占的に普及した。
反省:日本製品は常に日本人向けのものだけを造り、発展してきた。携帯電話に関してはNTTが先行し、日本向け規格の製品をつくり、官は国内企業に日本向け規格以外つくらせない方式をとり、海外からの製品導入を未然に防いだ。この国内優先の思想は現在も続いている。
グローバリゼーション時代になっても、日本の官は世界制覇をねらう基本的戦略発想がない。この問題は3月号までに皆さん方に考えてもらいたいテーマの一つである。
4 ) 1991年 ソ連の崩壊で冷戦の終了
米国は冷戦終了に伴い、競争相手の消滅で、グローバル時代の到来と判断し、緊急時の通信に強いインターネットという通信手段を市場に公開した。このインターネットは想像しない速さで世界に普及した。
このインターネットは人間の移動と異なり、通関を通すことなく自由に世界中に伝達が可能になった。この緊急時対策の通信機能の提供は超大国米国にグローバリゼーションという新しい国家戦略をもたらした。
戦争でも事業でも最も重要なことは情報の取得である。1秒先に得た情報で膨大な金儲けができるという武器である。
5 ) 2000年以降の米国企業は経営のデジタル化達成
グローバリゼーションへ向けた米国の大きな戦略はデジタル・ビジネス・デザイン(DBD)達成の勝利である。大企業すべてが争ってデジタル化を行い成功した。
DBD移行への5つの課題(経営課題の大きな転換)
自分の組織が現在直面している最も重要な「事業課題」は何か。
その事業課題に対応しうる最も賢明なビジネス・デザインの選択肢は何か
主要な事業活動のうちアトムの管理を伴うもの、ビットの管理を伴うものは何か
どうすればアトム(アナログ式)をビット(デジタル式)に置き換えられるか
どうすればビット・エンジンを生み出し、ビットを電子的に管理できるか
詳細は「デジタル・ビジネスデザイン戦略」初版2001.11.15.日本版
著者:エイドリアン・スライウォキー、デイビッド・モリソン

●事例集:内容省略
デル・コンピュータ
セメックス
「10倍の生産性向上」
シスコ・システムズ
GE
IBM
DBDに移行するドット・コム企業

6 ) 日本企業の経営のデジタル化の現状
日本企業の経営のデジタル化を調べたのは2011年である。IT経営の利用者協会の図書館で調査した。経営者はITの勉強をしたが、その内容が皆目わからなかった。そこで海外のIT経営を促進している企業から、その内容を聞き、素晴らしい内容のスライドに感激し、経営者は自社のIT化を外部に依頼した。このような形で多くの日本の大企業は米国流IT経営を求めた。しかし米国のIT企業が求めるIT経営のビジョンとは何か情報の収集ができず、経営者は自らのビジョンを自社のIT部門に全面委託した。一方IT部門は会社がどのようなIT化を望んでいるかわからないが、経営者から聞くわけにいかず、独自のIT化をした。しかし結局は米国企業が実施したIT経営ソフトを購入し、IT経営を完成させた。
さて、経営者がITモデルを使って経営に臨んだが、外資系企業、商社、航空会社等以前から情報の交換をしていた企業はグローバルレベルのIT経営を導入できたが、日本流の経営をしていた企業は購入した米国流IT経営ソフトを使うことができなかった。
参考図書:谷島宜之著「ソフトを他人に作らせる日本、自分で作る米国:前書き
欧米の手法や技術を丸呑みすると食あたりを起こす。時折この比喩を用いたが、ある時「適応異常」という言葉を知った。欧米から何かを取り入れ、適応できたつもりでいても、実際には異常をきたしている。これが適応異常で、食当たりと違い自覚症状がない場合が多いから厄介だ。
7 ) 日本式IT経営の出直し:そこで多くの日本企業は業者に依頼し、従来のアナログ方式に全面改築したという笑えぬ現実があった。日本企業の経営は発展性をもとめた米国式IT方式を廃棄し、日本流の経営に戻した。これに驚いた経産省は傘下のIPA(情報処理推進機構)に指令し、ITソフト作成に関しては、経営者が必ず経営のビジョンを部下のIT部門に提供させることの約束を取り付けた。だが経営のビジョンが何か多くの経営者は理解できなかったため、IT部門にお任せのIT経営を策定した。それはIPAが要求した経営ビジョンが何か見当がつかなかったからだと思う。IT経営ユーザー協会に集まったCIO部会の会合にオブザーバとして出席したが、優れたCIOの存在はもとより、経験のないCIOが多く参加しており、これではビジョンが出せないのも当然と感じた。私はIPAが要求していた経営者のビジョンとは上記に示した「DBD移行への5つの課題」だと思っている。
残念ながら経営の意思決定が稟議制で行われている企業はIT経営をするには必須の基本的データの作成が必要である。しかしユーザーのIT部門は経営の本質を知らないため米国のIT技術を導入すれば、IT経営ができると思い込んで、IT部門に丸投げした。IT部門は経営そのものに興味がないため米国企業のIT経営ソフトを購入、その経営ソフトの内容を効果的に図式化して経営者に示した。経営者は自信満々でIT経営を進めたが、先に示す基本的データがつくられていないため使えないことが判明した。検討の結果、現状の経営システムを改善することは簡単でなく、改良することに時間がかかり、その余裕がないと判断し、従来のアナログ経営に戻した。
日本のITコーディネターテキストブックではその部分を「ビジネス・モデル」としてブラックボックスで示していた。企業は米国式ソフトの購入とそのソフトをアナログに戻す作業に多くの費用をかけた。これが多くの日本企業のIT経営の実態である。しかし、【日本的ムラ社会】には便利な法則があり、未だに建前上はIT経営を行っており、ホンネでは従来のアナログ経営が実態である。だが、多くの日本人は習慣上自分をだますか、忘れることが得意である。
最近のひどい事例をあげると、東日本大震災時の専門家による津波予測を覆した日本的論法がある。専門家が検討した津波の高さを認めると、大変大きな作業になる。地震予測に使う数値は安全サイドに見ているから、その数値そのものを絶対と思う必要はないという発想だと思う。このような場面では会議のなかに人脈論的に場を押さえる人材がいれば、日本人の責任ある産・学・官全員で決めたことだから、最終的にこれが正しいという発想が優先され、その決定に対する反論は出さないという人脈決定論優先論が存在する。ここでは国と電力会社が住民に対する説得が住民を賛成に導いたにも関わらず、住民の被害より、上級国民の発言を優先する動きが出ている。

一方PMAJで実施するP2Mの資格試験では、経営ビジョンとはそのプロジェクトの目的に合わせた経営者のビジョンを新規プロジェクトむけに構築することで、新しい感覚のビジネス・モデルの策定ということになる。例えば、単体のプロジェクトだけで処理できない場合でも、複数の企業のプロジェクトを統合する形で各ステークホルダーが協力しあえると、課題解決がうまれ、新しいプログラムで成果を上げることができる。(プログラム・マネジメントの採用)。米国の経営者に求められた「DBD移行への5つの課題」とは、IT的な課題ではなく、経営の効率化、複数のニーズを一括して処理することで生産性の向上等を検討し、正解が見つかれば、IT担当者はその方針に従ってIT化を進める方式ができる。
現在のIT利用者の協会はITコーディネータのビジネスモデル構築を、超上流における課題解決(ビジネス・モデル)の構築を図っていると聞いている。

8 )  国内地域再生協議会方式による組織の実態
   【日本的ムラ社会人脈優先型】的組織運営となっているが、
   新しい仕組みを考えること

現在は“アベノミックス”が地域再生の柱である。この“アベノミックス”は民活を基盤としている。ここでは難しい組み合わせがある。私が担当したのは小さな町である。再生計画は専門家を入れて、4つの基本目標を持ったスマートな計画を発表されていた。ところが町が提案した内容は国で取り上げられ、少ないが国の予算がついた。再生協議会はその他項目として追加案件の募集があった。
☆私は追加募集のテーマとして、基本目標3の「この町で最も必要とされる子育て環境の整備」を提案した。私のビジョンは以下であった。
新しいモノつくり案件は避ける。理由:国は建設までの予算しか準備しない。従って運用時になると管理費が増加し、町の予算に負担をかけることになる。サステイナビィティ(持続的維持管理可能に違反するから)である。

コトつくりに絞るが民間のコンソーシウム組織は新しい価値の提案ができる。
日本国は規制大国である。規制が官僚組織の権限の源である。このテーマで価値創造を図るには、行政だけが主役のテーマでは価値創造が実現できない。複数の組織でプラットフォームを組み、それぞれが得意分野を提供することで、全体として新しい価値を生み出せるプラットフォーム・マネジメントが必要である。
コンソーシウムは(A)県の住宅供給公社、(B)保育園、(C)幼稚園複数、
(D)老人クラブ(E)子育て願望共稼ぎ夫妻(F)シングルマザー(G)再生協議会
コンソーシウムの役割
( A ) 公社:今のアパートの空き家率50%をリフォームすることで子育て願望共稼ぎ、シングルマザーを募集する。
( B ) 保育園は予想される入居者数を公社と検討し、拡大規模を評価する。
( C ) 幼稚園育児に関する新しい教育方針の確立
( D ) 老人クラブ婦人会による保育園児の送り迎え、残業のため遅くなる母親代わり
( E ) 子育て願望共稼ぎ夫婦 企業が要請する残業を受け入れを老人会メンバーに委託する
( F ) シングルマザー:Eと同じ
( G ) 再生協議会コンソーシウム運営のマネジメント
再生協議会は子育て支援のNPOを立ち上げ、老人クラブの支援婦人とE、F.含めて支援の金額の正当な料金を確立し、3者間の調停をおこなう
このコンソーシウムは【日本的ムラ社会人脈優先方式】にならない努力をする。

この提案は再生協議会の幹部が一読し、質問することもなく、内容が大きすぎると判断し、取り上げる価値もないと判断した。再生協議会そのものが素人の集団でレベルの低さを露見されない方式で破棄にきまった。
最近出版された【天才は凡人に殺される】、【優れた発想はなぜゴミ箱に捨てられるのか?】が現実に起きている。

これ以降の課題提案
官が考える「国債の債務者」と預金者が考える「国債の債務者」の相違
平成時代の「経営者の責任感」
グローバリゼーション下で【日本的ムラ社会】が通用できるテリトリは何処か?

以上

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