PMプロの知恵コーナー
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ゼネラルなプロ (110) (実践力)

向後 忠明 [プロフィール] :12月号

 今月からコンセッション契約と関連する業務について説明します。

 今回はこれまで話をしたプロジェクト創生からプロジェクトの完了、そしてその後のサービスまでを含むインフラプロジェクトについて話を進めていきたいと思います。
 先月号ではインフラプロジェクトには鉄道、電気通信、電力供給、高速道路、上下水道、廃棄物発電、空港などがあると説明しました。
 しかし、昨今ではIoTを主体とした自治体(農業、畜産)など地方創生にかかわるプロジェクトまで対象となっています。
 そのため、地方自治体では官民連携でプロジェクトを創生しようとする動きも出ています。
 この官民連携事業ですが国内、海外を問わずこれからこの種のプロジェクトをマネジメントできる人材が必要となってきています。
 また、このような人材を持つ企業はインフラ関連プロジェクトに限らず、企業における新ビジネスや技術を含む価値創造を求めるプロジェクトでも自在に活動することが可能となります。
 すなわち、P2Mでのスキームモデル、システムモデルそしてサービスモデルまでの全ステージでの活動が必要になってきているということです。

 今回は特にプロジェクト完了後のサービスすなわち運用までも関係するコンセッションビジネスについて話をしていきます。

 コンセッションビジネスとは施設の所有権を移転せず、民間事業者にインフラの事業運営に関する権利を長期間にわたって付与する方式のビジネスのことです。日本では遅まきながら2011年5月の改正PFI法で「公共施設等運営権」として規定されたものです。

 このビジネスはサービスを前提としている性能発注方式であり、これまでのプロジェクトのライフサイクルとは異なり、施工完了で終わりということではありません。すなわち、プロジェクトというより事業であり、この事業をマネジメントしていくにあたって施設または設備建設のプロジェクトのマネジメントに限らず事業運営のノウハウも必要となってきます。

 このように、事業運営ということになると民間側も何らかの投資が必要となり、そのためには対象となるプロジェクトの採算性についても考慮する必要のある事業ということになります。
 このことは事業を受けるにあたって、その投資に対する効果を見極める必要もあり、FS(Feasibility Study)を前提として、参入の可否を判定する必要があります。

 このような事業はPFI(Project Finance Initiative)またはPPP(Public Private Partnership)と言われています。

 海外では比較的早い時期にこの種の事業は行われているが、日本では規模は比較的小さく各公共部門では下記事例に示すようなものを実行しています。

 観光事業、浄水/廃水処理、廃棄物発電、学校給食センター、港湾設備、賃貸住宅、

 いずれにしてもまだ規模としては小規模ですが、残念ながら前記した大型の施設を対象としたPFI方式の事業を扱うことのできる企業は日本では少ないです。
 その理由は公共部門も民間企業も未だこの種の事業になれていないことと、これをマネージする人材が育っていないことにあります。
 それでも、外国の例えばフランス企業が各種規制の中で日本での水ビジネスに参入し、実行してきたりしています。これは運営権も含んだPFI事業です。
 筆者は海外の事例ですが、電気通信でのPFI事業を実践してきています。
 一般的にこの種の事業は通常のプロジェクトと異なり、住民も含め多くのステークホルダーも関係してくるので、各関連組織との関係構築や地方自治体との調整なども含め、事業運営、ファイナンス、法的知識等々が必要となります。

 いずれにしても、この種の事業はプロジェクトマネジメント業務を民間の専門業者に委託し、基本的な要求性能を満たす入札書類、契約書類の作成、入札管理、民間事業者の評価とその後の契約の業務をゆだねるものです。

 ここで、官と事業体との契約、すなわちコンセッション契約について話をします。

 契約の本質はすでに前月号でも説明したようにプロジェクト遂行に必要と思われる技術的・商務的条件を記述することであり、これを発注者・受注者双方が後々の仕事において、誤解やトラブルを生じないように、必要で十分な条件を設定することである。
 PFI事業も同じであり全コンセッション期間の中で、初期の契約に関する件が最も重要な行為となります。
 すなわち段取り八分、実行二分の例えのように後続の仕事をスムーズに展開させることが重要です。
 そのため、この時点でデューデリジェンス(事業参加のための本格的調査:Due Diligence)といった徹底的な調査を行いあらゆるリスクを洗い出し、その回避や軽減策を考え、契約までの下記に示すような活動を行う必要があります。

公共部門(または顧客)より提示される件に従った条件提示
譲歩不可能な事項(Dead Break Issue)を特定し、交渉方針の設定を行い交渉に臨む。
交渉の結果①での提示条件に追加、変更があれば、これを考慮し、文書化し、契約書にまとめる。

 これが契約までに行う作業であるが、この間においての作業は①~③の繰り返しとなり、同時に多くの検討事項が入り、契約書としてまとめていかなければならないので多くの時間及び人材の投入が必要となる。

 この中で最も重要なのは公共部門または顧客がどのような事業形態を望んでいるかを確認することです。
 コンセッション契約には大きく分けて以下の3つの種類があります。

BOT(Built Operation Transfer)
  本契約は投資家が自己の資金にて設備を建設し、その設備を自分のものとし、契約で決められた移行期間(設備関係では15年~20年)にて設備を運営して、そこから得られる収益を契約条件に従って得ることになる。
 そしてこの期間内に建設及び事業運営に要したコストを回収する。その後、その設備及び事業運営管理そして責任を契約相手の公共部門または顧客に譲り渡す。
BTO(Built Transfer Operation)
 上記BOTとの違いはOperationと Transferが逆になっていることです。
 すなわち、設備建設後その設備及び事業運営管理そして責任を契約相手の公共部門または顧客に譲渡するが、設備の使用権は留保し、決められた期間その設備から得られた利益にて建設費にかかったコストを回収する。
BCC(Built Cooperation Contract)
 公共部門があたかも投資したかのように事業運営を公共部門または顧客が行い、直接事業を管理する契約形態です。しかし契約期間中は設備の所有権は投資家の物であり、契約期間満了時には公共または顧客に譲渡する。

 上記をそれぞれを比較すると①のケースが設備運用の自由度がありより良い契約形態と考えられ、多くのPFIで採用されているようです。しかし、①、②双方とも投資家グループの中に設備運用経験を持つ企業が参加している必要がある。
 (筆者の経験での電気通信では投資家にはNTT、オーストラリア電気通信会社、そしてローカル電気通信公社などの投資家グループ:これらをスポンサーと呼ぶ))
 ③についてはマーケッティングの責任もなく販売面でのノルマもないことから①②に比較し、好条件と言われるが、収益・利益は相手次第となり問題があるようです。
 その他、リースを利用した一種のコンセション契約があります。官公庁の場合一般的には単年度予算を採用しているので大きなプロジェクトを生成することがでません。
 その為、設備やシステムをリース方式にて、数年にまたがる支払いとし、請負会社はリース会社より一括でプロジェクトコストを回収する方法です。これをBTL(Built Transfer Lease)と称しています。

 さて、ここまででPF及びPPPにおけるコンセッション契約の話をしてきましたが、PFI事業などで基本となる公共部門または民間企業との最も重要な契約ができれば弁護士などを入れて契約の文書化が始まります。
 例えば株式の売買については「株式買い取り契約書」そして合弁会社(本件は後日説明)における権利・義務は全株主間で「株主間契約書」などを締結する。
 ただし、自社一社で合弁なしに公共部門と行う場合は一般の契約でよいが、収益分配に関する詳細な契約書は必要となります。
 なお、上記の契約はPM権限からは場違いのような感がありますが、このような契約が企業間であるということはPMとしても知っておく必要があります。(ただし、合弁会社のCEOやCFOになった場合は無視できません)このような契約の後に、スポンサーや金融機関との間で重要な契約行為が行われることになります。
 その一つであるスポンサー間においても合弁契約が締結されるが、実際はこの契約はコンセション契約と同時並行的に、スポンサー間で行われます。
 すなわち、複数のスポンサーが共同事業体方式で事業運営する場合に必要となるコンソーシアムまたはジョイント契約と称される契約が公共部門または顧客と合弁事業契約をにらみながら締結されます。この結果としてされる合弁会社をSPC(Special Purpose Company)と称します。

 以下にその関係図を示します。

スポンサーとの融資契約関係図
 上に示す図はスポンサーとの融資契約関係図ですが、この図に示すように合弁事業契約やローン契約をそれぞれの専門家、例えば弁護士またはファイナンシャルアドバイザーの力を借りる必要があります。
 なお、ここで出てくるローン契約は設備建設や事業運営に必要な資金を借りるための金融機関との融資に関する契約です。

 以上の説明でも分かったようにここに示す作業はかなり高度な経営判断も入るので、PMがこのSPCのCEOの立場であればかなり高度な契約や経営マネジメント能力が求められることになります。
 勿論、PMのみの能力にも限界があり、このような事業を行うにはそれなりの専門家と共に仕事を進めていかなければなりません。
 一方、出資を求められ、かつ運用も含めた事業であっても共同事業体を作らない場合もあります。この場合はコンソーシアムの一社の責任でこの事業を行うことになります。
 いずれにしても事業の形態や規模によってさまざまな形態をとることになるが、この時点での活動には十分かつ慎重な行動が必要となります。

 次月号は前述でも述べた共同事業体契約そしてPFI事業の基本的体制について説明します。

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