PMプロの知恵コーナー
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ゼネラルなプロ (109) (実践力)

向後 忠明 [プロフィール] :11月号

 今月からは契約の話になります。
 契約は顧客と請負企業との間で締結するもの、さらに請負企業とその下で協力する下請け企業との間のものがあります。
 今回は主に請負企業を中心とした各種契約について説明します。
 契約は提案段階において顧客や協力会社とのやり取りの結果の集大成です。
 プロジェクトが大きくなればなるほど、関係するステークホルダーの数も多くなり、同時にその数だけ各種の契約関係が発生してきます。
 そして、プロジェクトを導く立場にいるものは、どのようなプロジェクトでも、どのような時に、どのような契約をすればよいのか知っていなければなりません。
 一般的には顧客と請負企業の契約形態もその下請けとなる協力会社との契約形態も上位の形態に準ずることが一般的です。

 しかし、例外もあります。それは顧客と請負企業との間での契約の場合です。
 顧客要件が不確実でプロジェクト要件や条件を顧客が示すことができないケースとそうでないケースがあります。

 前者の場合は要件や条件が明確になるまでの間はかかったコストを顧客と請負企業がお互いに実費にて精算する方法をとります。
 後者は与えられた要件と条件を示した引合書に従いて応札書を出し、先月号で話をしたような手順で契約するものです。
 このように契約の方法としては2種類あり、前者は単金をベースとした実費精算契約やコストプラス契約と言います。コンサルタント契約などもこのケースです。

 後者は最も一般的な方法であり、条件が設定されれば契約以降は特別な問題がない限り決められたコストとスケジュールで最後までプロジェクトを完遂する一括契約(ランプサム契約)であり、多くの契約がこのケースです。

 しかし、昨今の変革期における「新たな価値創造」 「イノベーションによる既存ビジネスの存続の脅威」といった状況では、具体的プロジェクト要件や条件を決めることが困難な状況となっている。
 特にAIやIoTといった新しい技術を利用した新システムの導入が業界に関係なく普及している状況では上記に示した現象が多く、これまでの一括請負契約の形が取れなくなってきている。
 そのため、これまでとは異なった手法で技術開発をするための手法としてアジャイル方式といったものが推奨されてきています。
 これは契約ではなく手法であり契約的には実費精算契約(またはコストプラス契約)ということになります。

 ここでこのアジャイル方式での契約について少し著者の私見を述べたいと思います。

 一番の問題は「アジャイル開発なら、これまでの長い開発期間を短縮させるだけでなく、開発途中でも仕様の変更や追加が可能です。」と読者諸氏も思っているし、文献でもそのように言われていることです。

 筆者も石油化学プラント建設や金融システム開発に関するプロジェクトでアジャイル方式にてプロジェクトを実際に経験しました。
 この場合でも顧客の要件や条件が明確でなくかなりファージーな要求であり、戸惑いましたが、双方お互いに条件や要件を徹底的に洗い出し、顧客側の速い判断と決断にも助けられました。その結果、具体的要件や条件を滞りなく設定することができました。
 この場合でも、顧客の納得する要件や条件になるまで単金契約で作業は進められ、それらが固まった時点で一括契約に切り替え、プロジェクトはスムーズに進めることができました。
 この時、一番問題として考えたのは顧客との密なコミュニケーションとお互いの信頼でした。特に仕様を決める時の判断や決断の迅速性であり、顧客側の請負会社に対する信頼感が重要な要素となったと思っています。

 最近、「共創」という言葉が使われるが、このようなプロジェクトでは顧客との信頼関係が重要であり、それがなければ、顧客は請負会社に仕事をまかせることはできません。
 それだけにプロジェクトをリードするPMの顧客に対する誠意ある対応や密なコミュニケーションといったものが重要な要素となります。

 アジャイル方式での初期の基本要件設定での作業は多くのリソースを投入しないで、責任ある少人数のスタッフで、顧客と密なコミュニケーションにて共創作業を行い、少人数での作業で進めることができます。
 逆に、基本要件や条件が決まった後の実行段階に入ると、多くのステークホルダーやそれに伴い関係する業務量も膨大になります。
 そのため、多くのリソースがこの段階で必要となり、決め事や調整に時間がかかるばかりではなくコストもかかることになります。
 その結果は請負企業も顧客もそして協力会社も複雑なマネジメントが強いられることや膨大なマンパワーを要することになり、大きな問題となります。よって、このような状況を防ぐために、基本仕様や条件が明確になった時点で顧客及び請負企業は双方合意の下で一括契約に変えることが重要となります。

 以上が筆者が考えているアジャイル方式のプロジェクトの進め方です。

 なお、上記の他にアジャイル方式において、顧客側も請負企業側も不確定な条件の環境において具体的なプロジェクト要件を設定していく初期の段階では、これまでとは異なった思考方法が必要となってきます。
 良くデザイン思考とか論理的思考と言われていますが、いわゆるプロジェクトの上流工程といったプロジェクトの具体的様態を発想や創造力など感性とそれが論理的に正しいということを証明することが大事であり、その結果を見識ある洞察力によって判断、決断するといった能力も必要となってきています。
 この部分が日本人のPMの最も欠如した部分であり、外国に比較し日本のAIやIoTなどでの技術的開発が遅れているゆえんであると思っています。
 このように考えるとこれからのプロジェクトをリードする人材の育成にはこれまでとは異なった教育及び指導が必要だと筆者は感じています。

 話は少し変わりますが、昨今インフラ事業に傾注する企業が増えていることを考え、この事業の契約関係について話をしてみたいと思います。

 この種の事業は顧客が公共体である場合がほとんどであり、契約の面から考えると多くの種類の契約手続きが必要であり、その上、経営管理及び高度なプロジェクトマネジメントが求められます。
 この場合はプロジェクトというよりも事業としての各種契約形態ということになります。公共事業にかかわる各種の契約を例に話をすることによって、その中で扱われる必要な契約形態や方式を知ることができるので、以下に公共事業を例に説明していきたいと思います。

 公共事業はこれまで顧客が公共体で請負側がゼネコンといった構成が一般的なものであり、この契約は競争入札で一括請負の形をとるのが当たり前のように思われていました。
 最近では公共体も公民連携を重視するようになり、例えば地方創生事業などが最近の例であり、海外では水道、電気通信、港湾、空港、鉄道などがあり、かなり規模も大きく、複雑なプロジェクトも多くみられるようになってきています。
 この種のプロジェクトも具体的要件や条件が不確定なものが多いのです。また、関連する分野の技術も多岐にわたり、かなり多様性に富んだ案件となっています。
 これまでの公共事業は初期の段階では公共体が事前に請負会社などからの情報や自分の持っている前例からの資料を基に原価積み上げ方式で大枠のプロジェクトの企画をまとめ、これをプロジェクトとして具体化させていました。
 その上、決まった仕様の中でかぎられた工夫しか要求されない事業環境下での過保護な仕事の進め方では国際競争力も通用しない企業を育てることになります。もう一方は公共側も民間の力や知恵を入れて仕事を任せることで業務の効率化を図るといった狙いもあるようです。
 そのため、昨今では公共事業も民間に事業そのものを任せるといった形態のプロジェクトが発生するようになってきました。
 以前も第3セクター方式を採用した事例がありますが、この失敗を反省し、それとは異なった事業形態であるPFI(Project Finance Initiative)やPPP(Public Private Initiative)と言われた方式のものが出てきています。

 この方式の事業には多くの契約形態が混在し、また経営にかかわる内容のものも含まれています。よって、このようなプロジェクトをマネジメントするリーダになるにはこれまでと比べものにならない能力が求められることになります。

 この公民連携のプロジェクトも最初の段階ではその目的や具体的目標設定のために必要な段取り作業すなわち企画といった作業が出てきます。
 公共事業を民間に任せる場合の企画として行う最初の段階の作業は基本的な技術仕様や条件、目標(スケジュール)、リスク分析、経済性を含めたFS(Feasibility Study)などがあり、この場合は公共側がコンサルタントに依頼する場合と、応募する請負会社自身がこの作業を行う場合と2種類あります。
 海外の場合ではJICAがこのコンサルをコンサル会社に依頼して上記に示すFSを行い、その結果を国際協力銀行が受けて競争入札で発注する形をとるようなケースもあります。
 しかし、PFIやPPPといった形態のインフラプロジェクトは民間の請負会社がプロジェクトの規模にもよるがコンソーシアムまたはジョイントベンチャーを形成して対応することが多いです。

 いずれにしてもこの種の仕事の初期にはFSといった作業があり、何らかの形でコンサルタント的な業務が出てきます。
 事業会社がコンサルタントを雇う場合もあるので、ここで、まずコンサルタントとのコンサル契約について説明します。

 最初にコンサル契約の基本的な原則を示しておくと、コンサルタントの過失に基づく業務実行結果の損害に対する賠償責任はコンサル会社は取らないといった(Legally Not Liable)が慣例となっているということです。この契約は純粋にいわゆるプロジェクトの構想や企画といった上流段階のみの仕事が対象であり、特別な条件が示してない限り、以降の実行段階でこの企画内容に不備があっても一切責任の無い契約となります。
 よって、発注者側もはっきりとした自分の意見もって、最終判断は自分自身であるといった信念でコンサルタントに対応していく必要がある。
 すなわち、コンサルタントを利用する場合は、盲目的に信頼せず、若干批判的な目で利用し、最終判断は自分がするという意識で利用することが大事です。

 特に、企業トップが決め切れない案件についてコンサル契約により第三者の意見を聞くためコンサルタントを雇うケースがあります。この場合でも人任せ(コンサル任せ)な利用方法は行わないようにすることが肝要です。

 以上がコンサル契約のポイントです。

 ところで、PFIやPPPといった形態のインフラプロジェクトは自社においてそのプロジェクトに参加するにあたっては先にも説明しましたが一社では抱えきれない規模の事業であればコンソーシアムやジョイントベンチャーといった数社が一緒になって事業会社を設立し、この事業に参加することになるケースが多いです。
 この事業会社が設立されることが前提で発注側の公共体とこの事業会社との間でコンセッション契約というものを締結します。

 次回はこのコンセッション契約と企業合弁の形態について話をします。

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