PMプロの知恵コーナー
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ゼネラルなプロ (108) (実践力)

向後 忠明 [プロフィール] :10月号

 先月号ではプロポーザルの構成には商業的条件と技術に関する2つの条件から構成されるという話をしました。

 プロポーザル作成の基本は顧客のRFP(Request For Proposal)の要求に沿って記述されるのが一般的です。
 また、プロポーザルはプロジェクトの種類や業態によって異なることもありますが一般的に以下に示す内容で示されることが多いようです。

 まず、商業的条件について説明します。

 まずはRFPに示される顧客の求める要件を精査し、そこに示される項目内容に従い確認を行い、各条項に示される内容が応札者の思いやプロポーザル作成上での条件に適応するかまたは適応外であるかの意思証明を行いリスト(Compliance List)を作成する。
 この方法は顧客要求条件との照合により、顧客側も入札側も明確、迅速に条件確認ができるメリットがある。
 その他、顧客要求条件の中にリスクファクターがあればそのリスク対応策をプロポーザルの中で、提案コストまたは技術条件の中でリスクの種類に応じて考慮することもこの時点で行います。
 また、プロジェクト開始後の顧客要求条件の変更、追加等が発生することもあるので契約条件の中でその対象を具体的に定義し、明確にしておく。
 このように商業的条件として提案コストも含めて考慮して置き、契約書の文言にも反映させる必要があります。

 次に技術条件ですが、ここでは技術に関する内容を記述することになります。技術についてはコスト見積もりに大きく影響するので、見積もり作業は当然競争相手を意識しながら作業を進めることになります。
 プロポーザルであることから顧客満足のいく技術内容や条件を提示することが必要であるが、この時いつもジレンマに陥るのは顧客満足を得るための過大な技術内容での提案は見積もりコストが高くなります。
 そのため、このバランスを常に技術サイドもコストのことを考えながら検討していく必要があります。

 この調整役であるプロジェクトマネジャまたは所属長の責任となるが、いずれにしても最終の提案金額は高レベルでの判断が求められることになります。
 しかし、何はともあれ提案金額が勝負となるので、見積もり作業は必ず原価コストを算出し、利益限界点を十分知ったうえで行う必要がある。

 この利益限界点を算出する作業はトップマネジメントの最終提案金額決定のための指針ともなり、非常に重要なステップでもあります。
 しかしプロジェクトリスクを考えすぎて、余裕を見た金額で提案すると失注になったり、赤字採算となったりするので、この時点では商業的条件も併せて慎重な対応が必要となります。
 ここでの失敗は大きくプロジェクトの採算に影響することになります。場合によっては責任問題にもなります。

 このようにプロポーザル作成は短期間に下請業者よりの見積もり取得やその提案内容の精査等、多くの関係者とのコミュニケーションを要することになります。
 より正確で迅速なコスト積算のためには、対象のプロジェクトに対応した技術のこともよく理解でき、そしてコスト積算のできるプロフェッショナル(コストエンジニア)の起用とそれをサポートする万全の体制を敷いておくことが必要となります。

 さてこのような作業を通してプロポーザルの顧客への提出となるのですが、プロポーザルの提出時には営業との調整を十分行ったうえで行う必要があります。
 何故なら、営業はプロポーザル作成中も顧客との接触を各段階で行っているので、営業情報は無視することはできません。
 特に競争相手の状況や情報収集の結果がプロポーザルに反映しているかどうかを確認しておく必要があります。
 何はともあれ、プロジェクトの規模によっては大きな金額がこのプロポーザル作成には必要となるので、作成チームは“絶対にこの競争には勝つ“といった気持で慎重かつ迅速に行わなければならない。

 プロポーザルが顧客に提出されると顧客側はこのプロポーザルを評価することになるが、その開封の仕方には2種類あります。

オープンビット(Open Bid)
クローズドビット(Closed Bid)

 オープンビット(Open Bid)の場合は入札指定日に各社のプロポーザルが提出されたのちに、各社の入札コストを発表し、応札者のコストがその場でわかるといった方式です。
 ただし、この時はあくまでも入札コストの結果だけの発表であり、その他の各種条件や技術内容は開示せず、これらはその後順次行われることになります。
 しかし、このケースの場合は一番提案コストが安い応札者に必ずしも優位に働くわけではありません。
 よってこの入札コストの結果にあまりこだわる必要はないのですが、それだけに、その他のプロポーザルに示される商業的・技術的条件が重要なこととなります。
 このことは、入札コスト開示後の各種条件に関する顧客との交渉が重要な作業となります。

(なお、注意することは正式な引合書もない入札の場合は、コストだけで決まってしまうこともあり、この場合はすでに受注先が決まっていたり、形式的な入札であったりして、当て馬としての入札であったりするケースもあるので、営業の働きが重要な役割となります。)

 次はクローズドビット(Closed Bid)ですが、これは顧客内部の限られた人々により提出されたプロポーザルを評価する方法です。

 しかし、この場合でも応札者は漫然と評価結果を待っているわけではなく営業の役割が大きく影響してきます。
 そして、自社に有利な情報を入手し、提案書や自社の優位性を示す情報を顧客とのコネクションを利用して、できうる限り顧客側の情報を応札者担当にインプットし、そのフォローアップを行うことが重要と考えています。

 ところで、顧客による評価ですが、顧客にもよりますが、必ずしも評価基準もなく、その都度対応しているケースが多いようです。よって、会社やプロジェクトの種類によってまちまちであるが、いずれにしても顧客側としての評価基準というものを作っておくことが必要と考えます。もしそういうものがないと、第3者から後ろ指をさされることになると思います。
 しかし、この評価の過程でも、意外と多くの外乱が入ってきます。例えば、顧客がひいきにする応札者への便宜を図ったり、はたまた落選した応札者よりクレームが出たり、また、評価する側の顧客担当の中でも意見の食い違いが出たりして問題が出ることもあります。そのため、評価の公平性と透明性を高めるため評価基準というものはプロジェクト毎でも良いから作成しておくことが必要です。

 なお、どちらの場合も、顧客による評価による書類審査が終わると次は面談による契約内容や金額を構成する内容や詳細に対する交渉が開始されます。なぜなら、評価は顧客内部だけでの評価基準に沿ったものであり、単純に応札者の順位づけをすることが目的であり、その後顧客と応札者との交渉により、応札者の数を絞るといった作業をするためです。
 決して一社に絞るというわけではありません。ここからいよいよ顧客と応札者のホットな交渉が始まるのです。
 この交渉は机上の顧客の評価では測れない内容のものもあるので、お互いにプロポーザルに示されている内容や各種提案条件などを面談により確認・調整を行うことです。そして、技術条件や商業的条件などを確認したのちに最後は交渉結果を反映した金額の交渉となります。
 この顧客と応札者との交渉は基本的にはWin-Winの関係で進めることになりますが、やはり交渉は勝たなければならないので、結果は必ずしもそうでないケースもあります。
 なお、この交渉が長引く場合は、プロジェクト全体スケジュールを考えて、顧客はある程度の契約上の諸条件が了解点に達したところで仮発注する場合もあります。
 そのような場合の顧客の対処として、発注したいという意思として条件を付けた内示書(Letter of Intent)というものを提出し、作業に対してGoをかけ、その後、残りの条件に関する交渉を進めることもあります。

 このようにプロポーザル提出から顧客の評価を得て、交渉事も無事終えることによって、契約といった行為に入ることになります。
 これまでのプロセスから見ても、基本的にはプロポーザル作成から契約交渉に携わる担当者はプロジェクトマネジャ及び法務担当そして数人のプロジェクトチーム員から構成され、対象プロジェクトに最適と思われる契約に必要な知識や契約文言の趣旨に関する理解力を持った人たちで構成されます。
 しかし、プロジェクトマネジャは法務担当者が横にいないと交渉やプロジェクト遂行に支障がきたすことがあるようではだめです。
 法務担当はあくまでもアドバイザーまたは契約文言作成担当と位置づけ、実際に即した文言は、プロジェクトの内容・特性をよく知ったプロジェクトマネジャが最終的な責任をもって顧客と交渉を行い、その過程で契約文言の修正や追加を行うことができなければならない。
 そのためには、プロジェクトマネジャはそれなりに契約に関する知識やプロジェクト要求の変化に対応した契約に関する応用能力を持っていなければなりません。
 このように契約交渉も無事完了し、相手方との合意がなされ、双方の会社の代表者による調印が行われることになり、ここからプロジェクトの実行開始となります。

 次月は契約についてその種類や形態についての話となります。

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