PMプロの知恵コーナー
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ゼネラルなプロ (107) (実践力)

向後 忠明 [プロフィール] :9月号

 「ゼネラルなプロ」はどのような異例な仕事でも、それに対応する知識が必要であり対応することができなければなりません。
 これまで「ゼネラルなプロ」としてのPMが持っていなければならない実践力といった人間的側面について話をしてきました。

 今回からは請負企業が顧客からプロジェクトを受注し、契約を行い、ステークホルダー間のコミュニケーションを取り決め、そして問題が発生した時どのように対処するのか等について話をしていきたいと思います。

 最初は請負企業がプロジェクトを受注するまでの話です。

 請負企業は顧客からプロジェクトを受注するためには多額のコストや人を必要とし、そして関係者も巻き込むことになるので、受注が絶対条件となります。
 そのためあらゆる手段を取りますが基本はやはり、最初の活動は営業に頼らなければなりません。この時点では営業のとってきた情報の確実性を見ながら、プロジェクト側も顧客との接触を測れるような算段を行い、いつでも顧客から引合書が出されたら、すぐにでも動かせる体制を整えておく必要があります。
 プロジェクトの種類や内容にもよりますが引合書を受けてから応札書提出までの期間は1~3か月ぐらい必要となります。

 このようなことから今月号は「業者への引き合い」ということから話を進めます。

 引き合いとは発注者が請負業者(応札者)に仕事を出す場合に行う行為であり、顧客と請負業者の間の最初のやり取りに必要なものです。

 ここではまず発注者の立場について説明します。

 発注に必要な行為はまず引合書(Bid Document , Tender Document)またはRFP(Request for Proposal)というものの提示であり、発注者にとって最も有利な条件(価格、納期、品質、及びその他の条件)で契約するため、複数社に同一入札条件の下で競争させ、商務的かつ技術的両面から審査し、請負業者を決定するものである。

 一般的に下記に示される項目が示される。

Instruction to Bidder(入札者への一般的注意事項及び勧告)
Form Agreement(契約時の様式)
General Terms and Conditions(一般的には発注者側にて用意される)
Bid Form and Price Schedule(プロポーザルに示す項目やコストを示す様式)
Basis Quotation (見積もりの基本的な商務/技術的な前提の基本を示す)

 なお、Basis Quotationに示す内容は多岐にわたり、発注者から引き合いが来たらそこに示される要求要件及び内容を吟味し、プロポーザル作成に入らなければなりません。

 この場合、この入札が一般競争入札かまたは指名入札かによってプロポーザル作成上の作戦が必要となります。

①一般競争入札
 この入札は公的なプロジェクトに採用されることが多く、新聞や刊行物によって公示されるものである。
 しかし、全くこれまで仕事上での付き合いのない請負業者(入札者)も多数参加してくるので、審査する方も大変な労力と人が必要になってくる。
 よって、このケースの場合は入札者に対する事前資格審査により簡便な資格審査書類を出させ、それに通った入札者に対して正式な入札書を出し、プロポーザルを要求する。

②指名入札
 この場合は入札してくる業者と発注者の関係が明らかなケースや売り込みなどで情報をつかみやってくる比較的信用のおける業者などを対象にある程度事前に複数選定し、指名された業者間で競争させる方式であり、民間のプロジェクトではこの方式をとります。
 なお、規模の大きいプロジェクトで多くの応札者が出た場合は一般競争入札と同じ事前審査をして業者を絞り、公平な審査をする必要も出てくる。

 入札は上記に示したプロセスを通して入札者に発送し、応札者はプロポーザルの作成に入ることになります。
 応札者は入札書を受け取ると短期間でプロポーザルを作成し指定された期限と提出場所に送る必要があります。
 そのためには、組織的かつ効率よく作業を行うと同時に、競争相手を常に意識して、全精力をこの作業に注ぎ込む必要があります。

 この期間は引き合い内容にもよりますが約1~3か月を要します。この期間での作業は自費にて行い、プロポーザル作成期間が長ければ長いほどコストのかかる作業であることから、失注すればこれにかかったコストはすべて応札者の負担となります。
 そのため、入札は必ず成功しなければなりません。

 なお発注者は多くのプロポーザル書類を審査する必要があります。
 そのため、提案するシステムまたは製品に関する技術的説明やプロジェクト遂行にかかわる内容は発注者の引合書に示される書式に従って記述していくのが一般的です。

 ここで入札が始まる前に応札者としてやっておかなければならないことを説明します。
 一般的には、入札に関する情報はすでに説明したように応札者側の営業による情報活動の結果で入ってくるか、または懇意にしている発注者側からの連絡によるケース等があります。
 少しでも早く入手するのが営業の役割ですが、実作業をするプロポーザル作成側の方も引合書を入手次第その内容及びプロジェクト規模を判断し、万全の対応を図ることが必要となり、早めに体制を決めておく必要があります。
 場合によっては、自社の能力不足の部分を補うため他の企業とアライアンスによってプロポーザル作成作業を進める必要がある場合もあります。
 その場合は、関係各社とも具体的にプロポーザル作成作業をするにあたって必要な合意書及び役務分担を規定し、入札作業に入る体制を整えておく必要があります。
 このように競争相手より少しでも優位になるように先手を打った活動を行えるように応札体制と人選を行うことが入札に成功する重要なステップとなります。

 このように体制と人選が完了したらすぐに引合書の読み込みをおこない、下記のような内容を示した見積もり方針をプロポーザルチームの代表が示し、関係者に周知します。

受注方針
役務分担
見積もり組織
見積もり方針
外部委託の方策及び範囲
現地調査の要否及び必要なリソース
見積もり方法
見積もり工程
プロジェクト遂行方針
設計計画
調達計画
金融計画
  等々
応札書作成方針
引合書への対応
プロジェクト総合線表
引合書に対する修正または代替案
技術内容作成グレード、方法
契約やコマーシャル条件
リスク分析
応札書の構成

 なお、引合書に発注者がプロポーザルに記述する項目や内容を指示してきた場合はプロポーザルの構成はそれに従う必要があります。
 また、引合書やプロポーザルの内容は業界によってそれぞれ作成内容も作成期間も異なります。
 これまで説明してきた内容はプラント業界、建設業界そして公共機関による入札対応が主なものでIT業界は発注者側の能力にもよりますが見積もり要件が明確でなく、期間も短いのが通常です。
 また昨今の新しいIT技術の現れにより発注者側も明確な引合書の作成ができないようなことも発生し、発注者も応札者も混乱することが発生しているようです。

 このように応札書作成方針が明確になったところでプロポーザル作成チームのリーダは関係各部の担当キーパーソンを招集し、本プロポーザル作成方針を説明し、周知徹底を図ります。
 これをキックオフミーティングと言いますが、この開催時点までには関係各部の長には前もって必要書類を配布し、各部関係担当者には内容がキックオフミーティングまでには十分把握させておく必要があります。
 このキックオフミーティングは作業の意識の統一という観点から見ても非常に需要なものです。ここでのプロポーザル方針や注意事項に基づき、各担当は実質作業に入ることとなります。

 このように十分な段取りの後にプロポーザルの作成に入ることになりますが、その構成は一般的には商業的条件と技術に関する条件の2つの部分から構成されます。

 次からは商業条件と技術的条件に何を書くべきかからその評価方法の例そして契約までの話をします。

今月はここまで

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