理事長コーナー
先号   次号

One Team

PMAJ 理事長 加藤 亨 [プロフィール] :11月号

 ラグビーのワールドカップが終わろうとしています。この原稿を書いている時点では、3位決定戦と決勝戦を残すのみとなっています。
 大会自体は、当初の心配とはうらはらに、素晴らしい盛り上がりを見せ、海外のメディアからも非常に高い評価を得ていると聞いています。
 何よりも、日本代表の戦士たちによる、史上初の決勝リーグ進出という快挙に、まさに日本中が湧きたち、にわかラグビーファンになった方も多いのではないでしょうか。私もその一人ですが・・・。
 決勝トーナメント初戦の行われた10月20日に、NHKが日本代表に500日間密着取材したというドキュメンタリーが放送されていました。ジェイミー・ジョセフ氏をヘッドコーチとして招いて以降の500日間の戦いが様々な観点から記録されていました。単にフィールドでの練習だけではなく、毎晩行われていたミーティングなど、前回ワールドカップの反省を踏まえて、様々な対策の検討や強化練習が行われたことが紹介されており、ラグビーってこんなにも戦略的だったのかと(失礼)改めて感動しました。
 例えば、体重差のある強豪国を相手に、体重で劣る日本が逆に押す返すため、スクラムのメンバーが足の位置を1cm単位で調整して、その結果を夜のミーティングで全員で共有するシーンとか、タックルされて倒れながらも味方にパスをする“オフロードパス”で繋ぐ力を鍛え上げるとか、キックを使い攻撃のバリエーションを増やすとか、持久力を鍛えるための240日間の合宿トレーニングとか・・・・。
 ただ、私にとって非常に印象的だったのが、表題に掲げた、”One Team”を形成するための取り組みの数々でした。一番驚いたのは、リーチ主将がスライドを使って、外国から来た選手たちに日本の歴史(ちょうど黒船来航の話しをしていましたが、)を講義していた姿でした。ラグビーをするのに歴史を知る必要があるのかとも思いますが、その後に続いた、ジェイミー・ジョセフ ヘッドコーチの「私たちは全員が日本人ではないが日本のために戦う。そのためには互いの価値を認め合うべきだ。」という言葉に、深く感動しました。
 このような取り組みが、NHKの放送以外でも様々なメディアで紹介されています。選手全員で君が代を歌う練習をしたり、トレーニングの掛け声を各国選手の出身国のことばで掛け合ったり、全員が一緒に歌えるように“カントリーロード”の替え歌を作り、その歌い方のビデオを作ったり・・・。
 これらの活動が、フィールドという戦場の中で、たとえばアイルランド戦ではキックを使わずボールを保持する作戦を取り、サモア戦ではキックを多用し相手を疲れさせる作戦を取るという変幻自在な作戦変更や、リスクの高いオフロードパスを確実につなげながらトライを果たすという成果につながっていたのだと思いました。
 今の時点では決勝で南アフリカとイングランドのどちらのチームが勝つかは分かりませんが、改めて日本選手の活躍に大きな拍手を送るとともに、深く信頼し合う”One Team”を形成するためには、お互いがお互いの価値を認め、文化や歴史を理解し、積極的に意識を共有し、常にコミュニケーションを取るという、チーム活動の基本を再認識させてくれたワールドカップラグビーに、そしてすべての参加国、参加選手の皆さんに心から拍手と感謝を送りたいと思います。

ページトップに戻る