今月のひとこと
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 青梅の酒蔵 

オンライン編集長 深谷 靖純 [プロフィール] :11月号

 エリンギ工場が水害にあって、スーパーの店頭からエリンギが消えました。新鮮な野菜や果物を供給してくれていた千葉県も大変なことになっています。秋だというのに夏の毒キノコが大量に発生し、金木犀の香りが漂うようになったのは10月も中頃になってからなど、季節が大きくズレていることも気になります。とはいうものの、道行く人の服装は着実に冬に向かっています。

 10月26日(土)、例年より1ヶ月近く遅くなった富士山の初冠雪を電車の窓に見ながら、中央線、青梅線と乗り継いで沢井という駅に降り立ちました。恒例の「澤乃井蔵開き」が開催されるこの日は、1年で一度だけ沢井駅が混雑する日だそうです。ICカードが使える改札が1ヶ所しかなく、4両編成の車両から降りた乗客が全員改札を抜けるのに20分以上かかっていました。
 「澤乃井蔵開き」は、銘酒「澤乃井」の蔵元小澤酒造を中心に軍畑駅から沢井駅、御嶽駅に又がる地域のお祭りです。残念ながら台風19号の影響で玉堂美術館など一部の施設が閉鎖となっていましたが、晴天に恵まれ2千人余の酒好きがあつまり、酒蔵見学や点在する屋台村等で終日お酒や食事を楽しみました。飲み続けでは身体によくないとJAZZバンド演奏や琴・尺八の演奏も企画されており、堪能しました。こうしたイベントではそれこそ「素人に毛の生えた程度の」演奏を聴かされることが多いのですが、ここでは演奏者のレベルが高く徳をした気分です。酒蔵見学では、幾種類もの試飲ができるのですが、数か所で仕込み水を飲めるようになっており、泥酔することのないような配慮がされていました。(お酒を呑む時、同量の水を飲むと悪酔いし難いと言われています。)屋台村でもスタッフが水を入れた大きな薬缶を持って巡回しており、水をたくさん飲むように促していました。無料の巡回バスが用意されているので移動も楽で、お酒のイベントにも拘らず小さなお子さんも多数参加しておでんや焼き鳥を頬張っていました。
 地域おこしの施策としてイベントを行なっても、その効果は限定的だといわれることがあります。「澤乃井蔵開き」はどうでしょうか。
 主催する蔵元にとって「澤乃井」という銘柄のイメージアップ効果は大きいのではないかと思います。東京都内にも拘らず山里の雰囲気が残っている青梅市の、清涼な多摩川の傍で醸される日本酒に悪い印象を抱く人はいないでしょう。清々しい空気の中で、呑むお酒が不味いはずはありません。地酒ブーム、吟醸酒ブームなどを経て、おいしい日本酒を好む人が増えていますが、かつての「澤乃井」のブランドイメージは今一つという感じでした(おいしいお酒を造っているのに「知る人ぞ知る」といった感じで知名度が高くなかった)。しかしながら、地道に丁寧な酒造りを続けるとともに、酒蔵に酒好きを集めることによる好感度アップ効果もあり、じわりじわりと人気が高くなっているように思います。
 青梅市にとって、物産や櫛かんざし美術館等を宣伝する機会になったとは思いますが、一日だけの催しなので他の日への波及効果が欲しいところです。今回、各会場で接客していたのはボランティアの方だそうです。お酒のイベントのボランティアなのでお酒好きなのだと推理するのですが、泥酔防止の水分補給などお酒を楽しむうえでの気配りがしっかり行われているとの印象でした。参加者は青梅市にいい印象を持って帰ったはずですので、即効性はないかもしれませんが、近い将来、お酒のイベントが無くても青梅周辺を訪れることを期待できるのではないでしょうか。
以上

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