今月のひとこと
先号   次号

 プログラムマネジメントのトリセツ 

オンライン編集長 深谷 靖純 [プロフィール] :10月号

 凄まじい威力の台風でした。気候変動の影響だとの公式見解が出ないのは、16歳の少女に「温暖化対策を何もやっていない」からだと叱られるからでしょうか。

 プロジェクトマネジメント(PM)の専門家ではないような著名な評論家やTVのコメンテーターがコメントの中でPMに言及すると妙にうれしくなります。最近は、PMの上位概念としてプログラムマネジメント(PgM)にまで言及する例も見かけるようになりました。にも拘らず、PgMの活用が進んでいるとまでは言えないようです。昨年のPgM意識調査でもPgMの認知度は6割を超えていますが、実施されているのはその半分以下という結果が出ています。
 PgM導入が進まない企業の様子をコント風に表現してみましょう。
ある日、社長が「PgMは重要だ。我が社も導入しよう。」と宣言。
それを聞いた役員が総務部長に「社長命令だ。PgMを買ってきなさい。」と指示。
部長に指示された総務部員が「WEBで検索するとPMAJにあるようです。」
 PMAJにたどり着いた総務部員は、この後どうなるのでしょうか。P2M標準ガイドブックを購入し、PgMについて勉強して、PMS資格試験にも挑戦、半年か1年後にようやく総務部長に訊ねます。「PgMはマスターしました。それで私は何をするのですか」。質問が社長に届くのに、また日数がかかって「なんでもいいからPgMを使いなさい。でないと世間から遅れる。」という回答。困りましたね。
 PgMが重要らしいということは認識できて、部下にPMS資格者がいるようになってもPgMを導入して何をしていいか分からないのです。どうしてでしょうか。
 昨年、理不尽な妻との付き合い方を解説した「妻のトリセツ」(黒川伊保子著、講談社+α新書)が評判になりました。それまで、女性の心理を解説した本はたくさんありましたが、それを読んで女性との付き合い方が改善できたという話は聞いた事がありません。ところが「妻のトリセツ」のおかげで夫婦仲が改善したとか夫のストレスが減ったという反響は多いそうです。この書は妻の心理の解説本でもありますが、どのように対処すればよいかの取扱説明書になっていました。
 プロジェクトの場合は、PMの取扱説明書がなくてもプロジェクトマネジャーさえ指名すれば、社長の役割は終わりです。日本のミドルはプロジェクトの目標設定、採算見積、スケジュール等全部を企画運営してくれます。ところが、プログラムとなるとさすがにミドルには荷が重すぎるようです。スーパーミドルが頑張って事業戦略をプログラムに展開するケースがないわけではありませんが、誰かをプログラムマネジャーに指名しただけで何もできずに終わるケースも多いのではないでしょうか。プログラムのオーナーである社長あるいは役員向けにPgMの取扱説明書があれば、様子が変わってくるかもしれません。
 PgMのスキルを修得するには、P2M標準ガイドブックを始めとするPgMの解説書を勉強するだけでなく、プロジェクトの現場等で実践を重ねなければなりません。もしも社長あるいは役員がPgM のスキルを身に付けて先頭に立てばプログラムはうまくいくかもしれませんが、そんな時間を割くことができるでしょうか。そうやって育った人材や実績のある外部の人材を使ってPgMを実行させる方が得策です。PgM取扱説明書があれば、自ら勉強するよりも早くPgMを実行させることが可能になります。「何をすればいいんですか」という質問には「まず、○○部門の事業戦略から、プログラム目標を設定して欲しい。そのために必要な体制や進め方について○日までに提言してください。」などと回答することができるかもしれません。
 PgMを解説した書籍はかなり出ているようですが、どのように扱えばいいかの取扱説明書(トリセツ)は残念ながら、まだ出ていません。どなたか手掛けていただけないでしょうか。
以上

ページトップに戻る