図書紹介
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LIFE SHIFT (100年時代の人生戦略)
(リンダ・グラットン/アンドリュー・スコット、池村千秋訳、東洋経済新報社、 2018年1月5日発行、第12刷、399ページ、1,800円+税)

デニマルさん : 10月号

今回紹介する本は数年前から話題となっていたが、中々紹介出来ず今日に至ってしまった。その話題の一つは2017年流行語大賞にノミネートされていたことに遡る。そのキーワードが「人生100年時代」である。因みに、2017年の大賞受賞は「インスタ映え」と「忖度」だった。次に2018年6月に、政府は人生100年時代構想会議の中間報告として「人づくり革命、基本構想」を発表した。その後に「老後資金2000万円不足と2042年問題」が話題となり、人生100年時代の長寿社会では、老後に2000万円も蓄財が必要とされる話である。更に、2042年(令和24年)には、団塊世代と団塊世代ジュニア世代が65歳の高齢者となって、現在の年金制度が維持できるかという問題も含まれていた。この人生100年時代の問題を提起したのが、今回紹介の本である。この本は、2016年6月にイギリスで出版され、その年の11月に日本で翻訳された。この本の冒頭に日本語版への序文が書かれてある。そこには日本の現状の問題点を明確に指摘して、長寿世界の先進国である日本に向けて書いている。そう云えば40年近く前にアルビン・トフラーの「第三の波」が話題となった事を思い出した。その当時は、「第三の波」の期待と不安が底流となって、今日の情報化社会の先駆けであるパソコとネットワークの融合でインターネット社会が到来した。グローバリゼーションが世界中に拡散する中で、人生100年時代も確実に進んで来たことになる。そして高齢化問題にフォーカスして、次なる時代をどう生きるかの問題提起をしたのが、この本である。オビ文には、「今こそ、自分らしい人生を生きるチャンスがきた」と紹介されてある。著者のリンダ・グラットンは、ロンドン・ビジネススクール教授で人材論、組織論の世界的権威である。2011年には、経営学界のアカデミー賞とも称されるThinkers50ランキングのトップ12に選ばれている。そして仕事の未来を考えるグローバル企業の「働き方の未来コンソーシアム」を主宰している。日本では2013年ビジネス書大賞を受賞した『ワーク・シフト』を始め、多くの著作が20カ国語以上に翻訳されている。また共著者のアンドリュー・スコットはロンドン・ビジネススクール経済学教授で前副学長。オックスフォード大学で構成するオール・ソウルズカレッジのフェローであると紹介されている。二人とも世界的なビジネスと経済学の権威であり、ビジネス・アドバイザーでもある。この方々が「人生100年時代」の到来を書いている。ビジネスマンには必要な本で読んで頂きたい。

LIFE SHIFTとは           ――従来型人生の問題点――
LIFE SHIFTとは、高齢化社会での人生のあり方を根本的に考え直す必要があると指摘している。100歳まで生きるとして、定年後の経済的問題がどうなるか。その生活を維持するために個人的にも社会的にも働く事が可能な環境があるのか、自分の健康が維持されるのか。更に、家族やパートナーである配偶者がいる場合の状況はどうか等、多面的に考えなければならない事が多々ある。そこで著者は、従来型の人生パターンである定年まで、一つの企業で働き続けて、老後を年金だけで暮らすことは出来ないと考えるべきだという。そこで従来型の教育(22歳頃まで)、仕事(65歳位まで)、老後(85歳位までか)のパターンを根本的に見直して、100歳ベースにすべきだと、制度的な対処も含めて具体的に書いている。

人生100年時代の到来          ――人生戦略を見直す――
著者は、仕事の期間を65歳から80歳に延長して、80歳以降を老後とする人生戦略とすべきと提言している。そのベースは、世界的な寿命の伸びから考えている。世界保健機関(WHO)が公表した2019年版の「世界保健統計」では、2016年の世界の男女の平均寿命は72.0歳で、00年より5.5歳延びた。日本や欧米などの高所得国の平均寿命が80.8歳に達した一方、アフリカなどの低所得国は62.7歳で「国の豊かさによる格差がはっきり表れた」と指摘している。因みに、日本の平均寿命は、男性が81歳で女性が87歳である。世界的な長寿傾向は、「人生100年時代」の到来が目前にある。そこで人生戦略を老後に限定せず、現役で働いている仕事期間(22歳以降)から100歳までの「マルチステージ」を提言している。

100年ライフの生き方         ――新たな価値観を考える――
このマルチステージでは、従来の「老後は余生」の考え方を改めて、100歳まで生きるなら「何をどうするか」の新たな価値観が求められる。従来の右肩上がりの成長至上主義から「自分らしく生きる新たな方策」を見出す事が必要であるという。著者は金銭的な有形資産に加えて、家族や友人、技能や知識、健康を含めた「見えない資産」に対する投資や再創造することが欠かせないと書いている。具体的には、この「見えない資産」を①生産性資産と②活力資産と③変身資産に細分化して、それぞれを「よい人生」を送る為の価値から、有形資産を形成するものにすることが重要と指摘している。①生産性資産として「主に仕事に役立つ知識やスキルを磨くこと」。②活力資産として「健康や、良好な家族・友人関係を構築すること」。③変身資産として「変化に応じて自分を変えていく力を養うこと」である。特に目新しい指摘ではないが、無形資産を有形資産化する計画性が求められるが、100年スパンで生きる価値観こそが必要である。そこで仕事期間中に見直すべき具体的な3つのステージを書いている。「エクスプローラー」と「インデペンデント・プロデューサー」と「ポートフォリオ・ワーカー」ステージであるという。この詳細に関心のある方は、本書を手に取ってお読み下さい。巻末には「変革への課題」も書かれてあるが、日本語版への序文にも、「人生100年時代」に対する著者の示唆に富んだ指摘が参考になる本である。

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