理事長コーナー
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笑顔の効果

PMAJ 理事長 加藤 亨 [プロフィール] :9月号

 その瞬間、彼女は左手に持ったパターを高々と突き上げた。そして、彼女のトレードマークとなった笑顔がはじけた。
 渋野 日向子選手の全英女子オープン優勝の場面は、日本時間の午前3時という時間帯でありながら、多くのファンがテレビの前で応援し、そして18番ホールのカップにボールが落ちた瞬間に、絶叫していたのではないでしょうか。(私もその一人ですが。)
 樋口久子さんが1977年全米女子プロを制して以来、日本の選手がメジャーを制覇したのは42年ぶりの快挙であり、その後の”シブコフィーバー“は当然の如く、大きな盛り上がりを見せています。
 ただ、今回の盛り上がりについては、渋野選手のキャラクターによるところも大きいような気がします。メジャーの優勝が懸かったあの場面で、ギャラリーとハイタッチを繰り返し、コーチと笑顔で談笑し、テレビに向かってお菓子を頬張って見せる。日本だけでなく、海外のメディアもその笑顔を高く評価し、“スマイル・シンデレラ”という素晴らしい称号を贈ってくれました。
 ところで、その姿からは想像できないことですが、高校時代までの渋野選手は、喜怒哀楽を所構わず見せて、うまくいかないときは不貞腐れたりしていたようです。そんな時にお父さんから「あんまり見ていて気持ちよくない、笑っている方が良いよ。」と言われた言葉が渋野選手の心に刺さり、また、「感情をあらわにするとスコアを落とす傾向があり、気をつけていたら、笑顔でプレーができるようになった。」という実戦の経験を通して、笑顔のプレーを習慣化してきた成果が、今回の結果につながったということのようです。
 「笑う門には福来る」ということわざがあるように、笑顔の効果は古くから知られています。最近では、人間の感情と、脳やホルモンの関係などの研究が進み、笑顔のさまざまな効果が科学的に実証されています。インターネットで調べてみると、
笑顔によって免疫細胞であるNK細胞(ナチュラルキラー細胞)などが増加して免疫力がアップする。
笑顔になることで、セロトニンというホルモンが多く分泌され、ストレスが解消する。
笑顔は、副交感神経を優位にして心をリラックスさせ、自律神経を安定させる。
 などが代表的ですが、美容効果や人間関係の改善効果など、数え上げればきりがないほどです。
 それだけ分かっているなら、みんなが笑顔になれば良いと思うのですが、実践するとなると意外と難しいようです。理由は様々でしょうが、「世の中のこれまでの常識」「他人の目」というのが大きいような気がします。
 重要な会議の場でみんなが真剣な顔している時位、一人でニコニコしていると「不謹慎だ」「まじめに考えてないんじゃないか」などと怒られるケースもあるでしょう。プロジェクトが火を噴いているときに、お客さんの前でニコニコしていたらそれこそ反感を買うかもしれません。
 しかし、プロジェクトにしても、プログラムにしても、「人間が行う」というのが大前提です。だとすれば、人間が最もパフォーマンス高く活動できる状態が最も優先されるべきではないでしょうか。その意味からすれば、どんな時でも笑顔で対応することは、プロジェクトの成功にとっては非常に有効な手段であり、もっと強調されても良いことなのかもしれません。
 PMAJとしても、これからのP2Mガイドブックの改定にあたっては、人間に対する科学的な研究の成果を取り入れたガイドを提供していく必要があるのかもしれません。
 たとえば、「PMは常に笑顔で行動し、特にプロジェクトが火を噴いているときは、メンバー全員が笑顔でいるようにリーダシップを発揮する必要がある。なぜなら、その方がチームのパフォーマンスが高くなるからである。」とか。
 でも、どんなにプロジェクトが火を噴いても、メンバー全員が笑顔で活動しているプロジェクトチームって、それはそれで、ちょっと不気味かもしれませんが・・・・。

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