理事長コーナー
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電子メール

PMAJ 理事長 加藤 亨 [プロフィール] :8月号

 「まだ、発売されないの?」 「すみません、少し遅れているようで・・・。」
 1992年当時、電子メールソフトウェアを販売していたL社の日本法人のYさんと、私との会話は、毎回、このような内容が繰り返されていました。
 1990年代の初め、私の所属していた企業では、全社のパソコンをネットワークにつなぎ、利用方法を拡大していました。そのひとつに、まだ日本ではなじみのなかった、cc:Mailという電子メールのソフトウェアがありました。日本語版が発売されていなかったため、英語版をテスト的に導入して、一部の利用者で利用を始めていました。海外の業務が多い企業であり、海外の顧客や出張者と連絡を取る際に、プリントアウトしてFAXで送るのではなく、机上のパソコンから直接送ることが出来、相手から連絡があれば、パソコンの画面上に通報してくれる、という利便性から、少しずつ利用者の広がりを見せていました。ただ、日常の連絡をすべて英語で行うのには無理があり、日本語版の発売を心待ちにしていた私の想いが、冒頭の会話になったという訳です。
 その当時、私は欧米の事情をよく知るコンサルタントのSさんの指導を受けていました。Sさんからは、「cc:Mailが米国企業の権限移譲を促進し、ホワイトカラーの生産性を大きく向上しました。それがそのままネーミングに表れているんです。」と説明を受けていました。「電子メールを送る際に、CC(カーボンコピー)を上司に送れば、メールを受けた相手は、発信者が上司から権限移譲を受けていることが分かり、安心して業務を進めることが出来るので、余計なコミュニケーションが必要なく、生産性が上がる。」というのがその理由でした。
 あれから20年以上が経過し、最近のビジネスの現場では、電子メールアドレスの入っていない名刺を見ることも殆どなく、電子メールによるコミュニケーションが当たり前の世界になっています。おそらく今では「CCが誰に入っているか」を気にする人も少なく、「CCで送られてきたメールは開かない。」と公言しているビジネスマンも少なからず見受けられます。もはや、CCが権限移譲の仕組みという認識は誰にもないように思います。
 ただ、組織運営において、「権限移譲の仕組み」の重要性が無くなったという訳ではないと思っています。そして、日本における権限移譲のルールとしての「ホウレンソウ」の重要性も。
 私は、組織運営を行う場合は、事業計画を策定したうえで、かならず行動規範として、「ホウレンソウの徹底」を設定するようにしています。具体的には、「計画に対する経過・結果の報告を欠かさない。計画に影響を及ぼす非常事態やトラブルが発生した場合はすぐに連絡する。計画に変更が必要な場合は事前に相談する。」という内容です。
 このルールを徹底することで、組織は事業計画を中心として自律的に動くことが可能となります。マネジメントが全ての活動をチェックし、その都度指示を出していたら、100人の組織であっても一人のパフォーマンスしか出すことはできません。
 プロジェクトマネジメントにおいても同様に、いや、「独自性」、「有期性」が特徴であるプロジェクトでは、さらにその重要性が高いというべきかもしれません。
 「加藤君、あの件どうなった。」「メールしておきました。」「?????」
 こんな会話が交わされていたら、プロジェクト運営の危機が迫っているかもしれませんよ。

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