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「日本再生“アベノミクス”を成功させるために何が必要か」 (66)
高齢化社会の地域コミュニティを考えよう (42)

東京P2M研究会 渡辺 貢成: 9月号

Z. 先月号で、Iさんは当該町の再生協議会の方針に関し、クレームをつけていたが、このようなクレームは全国的な問題であることもわかり、再生協議会の機能は現存する【日本的ムラ社会】そのものであり、日本の国際競争力が低下している要因でもある。そこでIさんは、日本が誇ってきた【日本的ムラ社会】が何故危機を招くようになったか検討し、現在の日本の危機とは何かを、まず取り上げてくれるという。しかし単に取り上げることではなく、再生に向かって何をすることが効果的かも検討したいといっている。

I. 私は再生協議会問題は非難の対象ではなく、海外では100万人以上のPM資格保持者がいるのに、日本では地域再生にPM専門家が参加していないことに気がついた。相手を非難するより、PMAJの研究部隊がそのきっかけをつくって欲しいと考えた。ここでPMを使う価値をまとめてみた。
PMが採用される理由は最初にビジョンがある。ビジョンとは将来を見据えることだ。
ビジョンをベースに企画・計画が進めると、大切なものが見えてくる。それはリスクの存在だ。
従来はリスクがあると、危険なプロジェクトとして採用が阻害された。
しかし、地域再生の開発とは何かと考えても、再生の糸口が見えてこない。危険を糸口として企画してみると、漠然とした問題点が見えてくる。
多くの日本人はモノづくりが好きで、モノづくりの企画を始めるが、モノをつくったから、何かが成功するとは限らない。答えのないとき、リスクが存在するというとそのリスクの発生は現実的な課題となる。「リスクというコト」の探索は発想の起点となることが多い。
また、地域再生協議会に求められているのは、町行政の発想では実現できなかった内容の案件を、住民等の創意工夫で規制の緩和を図り、「新しい価値創出」の出るコトが求められている。「モノ」ではなく「コト」を追求すると正解が見えてくる気がする。
そのためPM協会ではPMの新しい手法としてプログラム・マネジメントを提案し、コンソーシアムを組んで規制に触れない方法を考えるとか、新たな別案を提案することができる。複数の利害関係者が集まって、それぞれの分野で少しずつの工夫をすることで、容易に規制を排除できる場合がある。
そこで「コトづくり」を考える。
これが私の提案である。
地域再生では「コト」の開発とは規制の削除という発想を提案したい。
理由は日本の役所の権威を高めている中に規制がある。例えば新しい子供公園をつくる。子どもはよろこび黄色い声をあげて、楽しんでいる。すると近所の老人からクレームがつく。町は厳しい規制を行う。その結果子供が遊びに来なくなるが、老人の要求は守られ、当面の課題は解決した。しかし、それは本当の解決といえるでしょうか。子供たちのいない子供公園が寂しく存在し、雑草取り、落ち葉清掃の仕事がむなしく残るだけだ。
町はそれでも「コト」の開発方式を望まない。それならば雑草取り、落ち葉掃除の大部分を住民に課せば、一件の落着だからだ。
でもここから出発したらと思う。

Ⅰ.過去からの教訓探し
1 ) 日本は1990年で製造業世界一の地位を得た。
2 ) その後10年間の低迷がある。日本人は低迷の理由を深く考えていない。
3 ) 2000~2012までの期間に世界の動きはグローバリゼーションへと移っていった。グローバリゼーションとは他国の富を自国にもたらすことだ。世界はその方向に進んでいるが、日本は国債の発行を増やし、タコが自分の足をたべている暮らしになった。
4 ) “アベノミックス”時代が10年も続いているが、どのような成果が出たのか。日本は何を世界に発信しているのか?

ここでは私の専門であるPM(P2M)の視点で気が付いた問題を掘り下げてみたいと考えた。
Z. 了解した。

I. 終戦(1945年)から1990年までの簡単な経済発展の歴史と成果
終戦後の感想:終戦を迎え、戦時中の鬼畜米英が上陸すると、「見ると聞くとは大違いで日本人の鬼畜米英観は反転し、ある意味で歓迎的ムードになっていった。
食糧事情の改善:戦時中よりの食料不足が進み米国からの食糧支援で救済された。
GHQによる①財閥解体、②労働組合の成立③農地解放は新しい経済の発展に貢献した。
朝鮮戦争がもたらしたもの:1950年からの朝鮮戦争の勃発は日本に大きな幸運を与えた。
また、米国はGHQの占領政策を実施し、日本人の能力の高さを大きく評価した。そのため朝鮮戦争後は米国が日本を味方につける方向で動き出した。

1.日本の製造業:終戦から製造業世界一となるまで
1.1 戦後の産業の展開
戦後の企業は朝鮮戦争のおかげで戦時需要が伸び、高学歴帰還兵への募集、農地解放で小作労働力の対象であった農家の2、3男坊が工業地帯の労働力として大きく貢献した。その後教育改革で新制中学、高校、大学となる。
企業は戦争で不足した人材を確保するため、新制中・高・大卒業生を4月に一斉入社させ、企業独自の社内教育制度のもとで、実践的なローテーション教育を実施した。
終身雇用制の採用:企業はこれら教育した人材が他社に転職するのを防ぐため終身雇用制を採用した。
その結果として、日本的企業の三層構造は「大企業型」、「地元型」、「残余型」と企業の持つ特徴が三層構造を構築した。
これに対し、欧米の三層構造は一つの企業の中に「上級職員」、「下級職員」、「現場労働者」で構成された。
日本の大企業は大学卒業者の採用に際し、名門校(旧帝大、早大、慶大、一橋大、東工大)をエリート学歴校として採用する。しかし彼らの専門性にこだわらない方式をとり、幹部社員は社内組織のローテーション教育を受け、自社の重要な機能を把握させる方式を採用した。その理由は入社してから社内の各部門を経験し、彼らの努力による業績の拡大を競わせた。ただ、この方式は幹部社員が持つ能力を若いうちに決めるのではなく、幹部社員の持つ個性が高く評価される部署への配属を可能にした。
日本の大企業への就職者は4月採用者がノーマルとなったため、特殊のケースを除いて中途採用はあり得なくなった。まして中小企業からの転職は皆無である。

1.2 欧米企業の三層構造と日本企業の三層構造の差
ⅰ)世界の企業の仕組みと日本企業の仕組みの比較

 1A「欧州・米国・日本以外の企業」
欧米の企業は三層構造(上級職員、下級職員、現場労働者)をなしている。
上級職員は「目標を立てて命令する仕事」
下級職員は「命じられた通りに事務をする仕事」
現場労働者は「命じられた通りに体を動かす仕事」をする。
欧米では昇格は各階層の中でおこなわれるが、階層を越えた昇格はない。言葉を換えると、同一会社内では別の階層には移れない。同一階層で昇格を狙い、当該会社が認めない場合は、個人が所属する職業組合を通じて、他社への就職活動をする。
ここでは個人はその職務に忠実であっても、会社を愛しているわけではない。
しかし、企業横断的な職務の専門能力や、大学院の学位が報酬の対象となるという誇りと実収入の高さを誇りにすることができる。
欧米では社会的資格や学位が評価の対象となるが、日本では学位は評価の対象とならない。
【日本的ムラ社会】では素晴らしい成果を上げても、多くの場合評価の対象にならないという虚しさがある。

 1B 「日本の企業の型」
企業の型:「大企業型26%」、「地元型36%」、「残余型38%」で構成
大企業の実績的な雇用の在り方:
就職四季報の人気上位100社が2000年代通じ、毎年2万人採用、
従業員1000人以上の企業が年平均 12万人弱採用。
幹部候補者として旧帝大と早大・慶大・一橋、東工大で年間4万人。
2001年以降の大学卒は55万人。
大企業型:大学を出て大企業に雇われ、「正社員・終身雇用」の人生を過ごす人たちで構成されている。
大企業の採用基準は学歴重視(どの大学出身者であるか)で、職務は重視していない。4月に新入社員を採用、社内教育で職務を補充している。
終身雇用であるため幹部社員は4月入社組で、有名校出身者が多い。
最近新規業種への参入のため中途採用者が増えているが、幹部は4月入社社員が有利になっている。しかし、中小企業からの中途採用者は皆無である。
女性と外国人は不利な条件のもとで働いている。
官庁型身分制度:官庁は今でも明確な三層構造である。
最上層に「キャリア」と通称される上級職員がいる。おおむね2年ごとに様々な部署を異動しながら昇進する。
下級職員「ノンキャリア」:彼らは本庁採用であるが、限定された範囲で移動し、その範囲の実務を習熟する。実務能力ではキャリアより優れているが、キャリアを補佐して働き、昇進は限定されている。
地方職員:現場労働を担う職員がいる。彼らは本庁でなく地方支分局で採用される。
地元型(中小企業):地元から離れない生き方である。地元の中学、高校を卒業後、職場に就く。農業、自営業、地方公務員、建設業、地場産業など、地方にある企業に就職する。
残余型:現代日本社会のより深刻な問題は、長期雇用はされていないが、地域に足場があるわけでもない「残余型」人々の増加である。都市部の非正規労働者がその対象者になるが、所得は低く、地域とのつながりもなく、高齢者となっても持ち家や、年金も少ない種類の人々の存在である。

〝典型的な米企業と典型的な日本企業の組織形態の相違図″

米国企業体の内容
人材育成は個人の資格取得で、報酬が評価される。
企業は社会的なスタンダードを採用し、新規採用者も入社後すぐ作業ができる体制が確立している。
資格保持者はその能力が生かされる形で企業に貢献している。
社会変化が速いときに、対応がはやく競争有利な体制となっている。
個人は専門分野のユニオンに所属し、自己の能力で企業に貢献している。しかしこの企業の社員ではない。仕事が減ると解雇され、ユニオンに戻り、次の就職が決まるまで失業手当で生活する。
企業は社会的に有名なスタンダードで仕事をする方式をとっているため、新規雇用者も即日作業をすることができる。
基本的に正規社員でないため、忠誠心に乏しい。気に入らなければ転職が容易である。

日米組織の相違点

典型的な日本企業の内容
個人は企業の正規社員であり、人材育成は企業のカリキュラムを卒業している。
企業のスタンダードは企業が採用したもの、あるいは開発したものである。
社員は社内の多くの部門を歩き、最終的にはどこのポジションでも成果を出すことができる。
労組への加盟は個人が決めるが、決めなくとも支障はない。
社会変化の速い仕事をする企業では独自の勉強をしないと成績がさがる。
全従業員が社員であるから仲間内の気遣いが出世に貢献する。そのため組織は【日本的ムラ社会】化し、最盛時は活気にあふれていたが、今は衰退をみるケースが増えている。しかし、逆に団結した時は大きな力を発揮する。

以上

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