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本から学ぶ力

井上 多恵子 [プロフィール] :9月号

 先月号では「映画から学ぶ力」について書いた。今回のテーマは、「本から学ぶ力」だ。取り上げる本は、”A Collection of Essays About the Power of Work Is Love Made Visible”だ。タイトルを日本語訳するとすれば、「愛を目に見える形にした仕事が持つ力についてのエッセー集」となるだろうか。7月にアメリカに出張に行った際、「コーチングの神様」と言われるマーシャル・ゴールドスミス氏からサイン入りでプレゼントされた。
 この本から下記の3つのことを学んだ。
1. 共通の問いに対する答えを皆で考えることの面白さ
2. 簡潔さで得ることができるインパクト
3. わかりやすくすることで得ることができるインパクト

1.共通の問いに対する答えを皆で考えることの面白さ
 この本は、”What is it you see when you look out that window that is visible but not yet seen by others?”(窓の外を見た時に、他の人には見えていないものであなたに見えるものは何か)という問いに対する答えを著名な人々がエッセーとして書いたものを集めている。企業の経営者や世銀の元総裁やコーチ、リーダーシップ開発に携わる人々など様々な領域の専門家が多用な視点から書いており、読者の視野を広げる効果がある。ピーター・ドラッカーの”I never predict. I just look out the window and see what’s visible-but not yet seen.”(私は予測は決してしない。窓の外を見ると、他の人には見えていないものが単に見えるのだ)という発言にインスピレーションを得た世界で最も著名な女性リーダーの一人と言われているFrances Hesselbein(フランシス・ヘッセルバイン)が考えた問いだ。
 共通の問いに対する答えを皆で出し合うことをプロジェクトマネジメントの領域でも活用するのはどうだろう。例えば、「P2Mを学んでいない人には見えていないものであなたには見える、P2Mを活用する価値は何か」や、「P2Mを活用して創造できる社会の変革は何か」など。ジャーナルでもテーマを設定して投稿を募集しているが、もっと気軽に、より多くの人が同じテーマについて語れる場があると、皆の関心が高まり、多くの気づきを得ることができるのではないか。

2.簡潔さで得ることができるインパクト
 この本には、シンプル イズ ベストを表すことがいくつかあった。Work Is Love Made Visibleもそうだ。仕事をシンプルに定義している。物事の本質を捉えきっていないと、いろいろな情報を付加しないと伝わらないのではないか、と思う気持ちが働いてしまい、説明が長くなることが多い。
 フランシス・ヘッセルバインはエッセーの中で、”Leadership is a matter of how to be, not how to do.”( リーダーシップはどういう存在であるのかということであり、どうやるのか、ではない)と記述している。彼女がアメリカのガールスカウトのCEOだった時、困難な熟考をへて、自分自身の言葉で定義したもので、リーダーに求められる資質、信念、価値観といったものに裏付けされ、日々の行動や態度に現れる人間性についてシンプルに伝えている。
 マーシャル・ゴールドスミスから投げかけられた問いで、人生を変えた人がいる。“Do you think you are a good CEO?”(あなたは自分がいいCEOだと思うか?)と聞かれて、平均的なCEOだと答えたら、”So why do you spend your professional life doing something you are only average at?”(では、なぜ、平均的にしかできないことであなたの職業人生を費やしているのか?)と聞かれたのだという。それを聞いた彼は、それはとても明らかで合理的で真実で力強く予期しないもので、痛みを伴ったと書いている。マーシャルが彼の仕事ぶりをじっくり観察して感じたことを、直球で伝えることで彼に気づきを与え、その後、彼がより自分自身を活かすことができる道を選択する後押しをしたのだ。勇気がないと、婉曲的ではないこんな質問はできない。相手がその瞬間に必要とする質問を投げかけることができるコーチになれたら、と思う。
 マーシャルが開発したコーチングの方法もわかりやすい。拍子抜けするほどシンプルなステップだ。だからこそ、社内人材による企業内での展開も可能になっている。P2Mもその良さや本質やステップをもっとシンプルでわかりやすい言葉で伝える工夫をしたら、より広まっていくのではないか?そういうことを目指す研究部会が立ち上がっても面白いと思う。

3.わかりやすくすることで得ることができるインパクト
 コーチングの際に効果的な質問は数多くある。たくさんありすぎてどれを聴けばいいのかわからず、悩む人は多い。そういった人々に対して、ある人はこうアドバイスしている。”And what else?”(そして、他には?)と聞けばいい、と。これはコーチとして何かアドバイスをしたくなる衝動を抑えるためにも役立つ。判断することをちょっと待ってこの質問を投げかけることで、最初には聞き出せなかったことが聞けるかもしれない。コーチングが一気にわかりやすくなる。

 今回は、特にP2Mの発展も意識しながら、本から学んだ3つのことを共有した。皆さんは、P2Mをどのように発展させようと思われているだろうか。

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