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映画から学ぶ力

井上 多恵子 [プロフィール] :8月号

 コーチングについて2回に分けて書くと前回書いたが、今、伝えたい別のことがでてきたので、ホットなうちに、こちらを先に共有したい。「映画から学ぶ力」だ。
 7月上旬にアメリカに出張に行く機会があった。最新の映画は行きの飛行機の中で鑑賞することができたので、帰りの飛行機の中では、一年前に鑑賞して感動した映画The Greatest Showman(『グレイテスト・ショーマン』)をもう一度視ることにした。19世紀に活躍した興行師、P・T・バーナムの成功を描くミュージカルで、2017年にアメリカで製作された。小人症の男、大男、髭の濃い女など、世間から隠れるようにして生きていた様々な人達を集め、見世物小屋のサーカスを始めたことが、後の成功につながる。最初に鑑賞した一年後のこのタイミングでまた視たいと思った理由は3つある。ここ一年半程、「多様な人々が生き生きと働くことができる職場づくり」を推進する部署で働いてきて、LBGTQも含めた話題に触れることが多くなってきていたこと。LBGTQの当事者であるとカミングアウトしている方と、初めて身近に接するようになったこと。ニューヨークで、LBGTQをごく自然な形で受け入れる文化を体感したこと、マンハッタンのとある高級マンションで開催されたパーティーに招かれたのだが、皆で自己紹介をした際、二組いたゲイのカップルが、結婚していることをごくごく自然な形で披露していた。それを聞いていた人達の表情にも、一見してわかる変化は無かった。三つ目は、イノベーションを職場で促進するために必要なことを考えるワークショップに出張中に参加したことで、私自身の創造性が刺激させられたことがあった。その続きとして、創造性溢れる世界にどっぷりつかりたかった。The Greatest Showmanは、それにはうってつけの映画だった。
 ニューヨークから羽田までの10時間以上にも及ぶ長時間のフライトで、何回も繰り返し、The Greatest Showmanを視た。メッセージ性のある名曲の数々を自分でも歌えるようになりたいと思い、場面、歌詞、リズムをしっかり身につけようと思ったこと、主要な人物一人ひとりの心の動きを各人の表情と共に脳裏に焼き付けたいと思ったこと、主演のヒュー・ジャックマンの素敵な笑顔をまた見たいと思ったことが、何回も視ることになった理由だ。
 この映画で改めて学んだこと、心に残ったことは3つある。一つ目は、適切な場を提供することで、人は力を取り戻せる、という点だ。バーナムは、世間から隠れるようにして生きていた人達が輝ける場を提供したことで、心の拠り所となる”家庭“”家族”を彼ら一人ひとりが得て、自信を持てるようにした。彼の活動に批判的だった映画評論家が、こう言う場面がある。「他の映画評論家だったら、君の活動を"celebration of humanity"と評したかもしれないね」"celebration of humanity"は、人類の祝祭とでも訳すのだろうか。プロジェクトマネジメントにも多様な人々が関わる。その一人ひとりの違いを認め、輝ける場を自分自身が提供できているか、というと程遠いと言わざるを得ない。「なぜ、あの人は納期通りに仕事をしないのか?」「優先順位を下げて仕事をしているなんておかしい!」とあら探しをしている自分がいる。
 二つ目は、想像することの楽しさを思い出させてくれた点だ。映画の中で、少年時代と成人してからのバーナムが繰り返し、一緒にその瞬間を共有している人達と歌う歌がある。A Million Dreams(何百万もの夢)だ。歌詞の一つひとつが素敵だけれど、その中でも想像力という観点から特に好きなのは、We can live in a world that we design(僕たちは自分で想い描く世界に生きることができる)I think of what the world could be. (僕は「こんな風になれる世界」を考える)A vision of the one I see.(僕には見える世界を)A million dreams is all it’s gonna take(何百万もの夢さえあれば、実現できる)A million dreams for the world we’re gonna make.(僕たちがつくりあげていく世界のための何百万もの夢)プログラムマネジメントであるべき姿を描く際に、こんな風に楽しく想像力を働かせられたら、どんな風にそのプロセスと結果の質が良くなることだろう。
 三つ目は、大事なことから目をそらさないという点だ。映画の後半で、一度成功した後、身勝手な行動等により全てを失った主演のヒュー・ジャックマンが、サーカスの団員たちの言葉で、自分が何のために名声や成功を追い求めていたのかを思い出し力強く歌うのが、From Now On(これからは)だ。From now on(これからは)These eyes will not be blinded by the lights (私の目は光に惑わされない)From now on(これからは)What’s waited till tomorrow starts tonight(明日まで待っていたものは今夜始まる)Tonight(今夜)Let this promise in me start (自分の中の約束をスタートさせよう)Like an anthem in my heart (自分のハートの頌歌のように)I remember who all this was for (誰のためにこれらをやってきたのかを思い出した)何のためにプログラムやプロジェクトをやっているのか、軸をぶらさないために、私の頭の中で繰り返し流れて指針をくれているこの歌は役立ちそうだ。

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