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コーチングする力

井上 多恵子 [プロフィール] :7月号

 今、ものすごい勢いで学んでいる。大学受験の際にやっていた「やらされ感」満載の学びではなく、「能動的に知りたい!」と思って、貪欲に吸収している。仕事でもそれ以外でもいろいろと学んでいる中で、ここ半年間一番比重が大きかったのが、コーチングだ。昨年末から今月までは、チームコーチングや影響力や動機づけなど、複数のトピックにコーチングで対応する方法を学んだ。ハーバード大学を卒業した頭脳明晰な人が体系的にまとめており、彼が作成した資料を使ってワークショップを開催できる許諾も含まれている。私自身が教えることができる領域が一気に広がった。
 ここ一ヶ月間は上記に加えて、WBECSという団体が提供している大量のウエビナーを興味のおもむくままに聴いていた。WBECSは、彼らのホームページによると、The World’s Leading Learning Platform For Business & Executive Coaches(ビジネスとエグゼクティブコーチ用の世界トップレベルのプラットフォーム)であり、ホームページには、Together, we passionately believe, by empowering coaches through deeper learning, we can help change the world.(より深い学びにより、共にコーチに力を与えることで、世界を変えることをサポートできると熱く信じている。)と書かれている。WBECSは、世界中の優れたコーチによるサミットを毎年秋にバーチャルで提供しており、ここ一ヶ月間は、プレサミットという位置づけで、イントロ的なトークを行っていた。イントロ的と言っても、単体で十分成立する位内容が濃い。ケン・ブランチャードやマーシャル・ゴールドスミスなど、リーダーシップの世界での著名人も数多く参加しており、学びの深さに圧倒された。第一人者達によるコーチングをバーチャルにオブザーブすることができる機会は、特に貴重だった。20分間程度の短い時間の中で、コーチングを受けている人が気づきを得るプロセスを共に体感することができたからだ。本来はライブセッションを聴く形式だが、アメリカと大きな時差があるアジアにいる我々は、録音を聴けるように配慮してくれている。無料なので同僚にも紹介したかったが、ほとんどの人達は、英語のウエビナーは敬遠してしまう。こういう時には、英語が理解できることのメリットをつくづく感じる。吸収できる情報の鮮度と量に、大きな差が出てしまう。
 研修会社のアイディア社によると、世界最高峰の国際会議であるATD人材育成会議の今年のテーマは、「AI、人間力、そして、学びを実践につなげること」の3つだった。日経新聞にも『EQ2.0 「心の知能指数」を高める66のテクニック』という本の広告が「発売即4刷!!」という言葉と共に掲載されていた。人間力に注目が集まっている時代だからこそ、コーチングの重要性は増していると感じている。実際、人事の仕事をしている人と話すと、コーチングという言葉をよく耳にする。
 WBECSのプレサミットで浴びた情報のシャワーにより、視野の拡大、新たな視点の獲得、探索を促す質問の発見ができた。その中から、私のアンテナに引っかかったものを2回に分けて紹介したい。
 コーチングする相手だけでなく、相手の周りにいる人々にも思いを寄せることが大事、という話があった。例えば、こんな質問を投げかける。What would the people you serve want you to gain from this session? (あなたが価値を提供している人々は、このコーチングセッションを通じて、あなたが何を得ることを期待しているのでしょうか?)周りの人々の視点にまで想いを広げることで、影響力が増す。早速、この問いを私が企画している研修に取り入れてみることにした。これまでは、「あなたはこの研修から何を得ることができるか。得ることを最大化するためには、何をすれば良いか。」と聞いていた。最初の文を「あなたは、あなた自身と職場の人のために、この研修から何を得ることができるか。」と変えてみることで、昨年度と比べて答えがより広がるのか、検証が楽しみだ。
 私自身の在り方を反省させられる言葉も多かった。ケン・ブランチャードは次のように語っていた。Listen to find out rather than telling.(伝えるよりもむしろ、見つけるために、聞くこと)None of us is as smart as all of us.(誰も、我々全員より賢い人はいない)私は、ファシリテーターとして皆の前に立っている時は模範的な言動ができるが、普段は、黙って聞くというよりは、人が話しているうちに何かを思いついて、相手をさえぎって話している。今後注意したい。また、自分の意図に反することや自分だったらしないようなことを誰かがした際、一方的に非難するのではなく、Curiosity(好奇心)からスタートすることの大事さを語っていた人もいた。「なぜこの人はこういった行動をしたのだろう?」好奇心を持って探索していると、その行動のもとになった価値観を理解し行動を理解できるようになる。この話を聞いていたく感動したのに、家に戻って、夫と表面上の考え方の違いから言い争いをしてしまった。学びが活かされていない。行動を変えるためには、日々内省が欠かせない。
 ということで、また次回!

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