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グローバルコミュニケーション力

井上 多恵子 [プロフィール] :6月号

 「つまらない物ですが、皆さんで召し上がってください。」と言いながら、子供の頃から米国で育った人に日本のお菓子をあげている人がいた。あげた人の感覚では、ごく普通の表現だったのだろう。日本の慣習では、「つまらない物」と言いながら贈り物をすることは普通だから。しかし、米国の文化が身に沁みついている相手の人は、一瞬驚いたような表情を見せた。アメリカ人が贈り物をする時には、聞かない表現だからだ。言葉を額面通りに受け取る傾向が強いアメリカ人は、「なぜ、つまらない物を自分にくれようとしているのか?」と不思議に思ってしまう。幸いこのケースでは、受け手が日本で数年間仕事をしたこともあったので、一瞬驚いた後、「日本的な表現」として理解してくれたようだった。このケースでは、アメリカでは、”This is a gift from us. We hope you like it.”「これは、私達からの贈り物です。気に入ってもらえると嬉しいです。」といったような言い方をする。
 「大きな問題も無く、会を終了することができて、感謝します。」という言い方は、どうだろう。これも実際、ある人が、会の運営を手伝ってくれた前述の米国で育った人に伝えたものだ。これも、一般的にポジティブな表現をするアメリカ人には、誤解されるリスクがある。「大きな問題が無かったということは、小さな問題は、いろいろあったのか?」と。トラブルが発生せず会を実施できたのなら、私だったらこう言う。”Thanks to you, we were able to have a great meeting.”「あなたのおかげで、素晴らしい会を持つことができました。」この方が、お互い、気分良く終えることができ、次もまた頑張ろう!という気になることができる。
 最近、グローバルコミュニケーション初心者の方々と身近で接する機会が多い。その中で痛感しているのが、「グローバルコミュニケーション力を高めるためには、英語力も必要だが、それと同時に、グローバルでコミュニケーションする際のマインドセットが重要」という点だ。その意識でキャッチした関連する情報を共有したい。
 あるメルマガで、書籍『世界で損ばかりしている日本人』(ディスカヴァー選書)が紹介されていた。国際機関で働いている著者関口氏は、世界で損をしないために、外国人と話す際には、以下の3点に気をつけるのがいいという。(1)わかりきったことでも言語化する(2)相手に攻撃されたら、絶対黙っていてはいけない(3)たまには、相手が話し終えるのを待たないで話し出す 私も実体験を通じて、納得がいく点だ。外国人と日本人が参加する会議やワークショップで最近ファシリテーションをする機会があったが、上記(1)と(3)ができる日本人は残念ながらその場にはいなかった。結果として、その場に参加していた日本人の存在感は薄いものになってしまった。「伝えたいことがあったら日本語で話してもらってok。私の方で通訳するから」と言ったが、効果はなかった。後で、参加者の一人が言っていた。「何か言おうと思って頭を整理しているうちに、次の話題に進んでしまっていました、、、」立派なことを言おうと思って何も話さないでいると、「その会への貢献度ゼロ」と評価されてしまう。外国人の他の参加者が皆、頭が整理された状態で常に話をしていたかというと、そんなことはない。話をしながら頭を整理しているのでは?と思えるような人もいたが、彼らの方が貢献度があると見なされる。
 日本人がグローバルな場でもっと話ができるように、という意図で設計されたプログラムがある。5月からgacco講座(オンラインで無料で学べる講座)として提供されている「TAGAKI 英語四技能は“書く”がHUB」だ。講座概要には、次のように記載されている。『「考える」→「書く」→「伝える」を繰り返し、自分の意見を持ちそれを英語で伝えられるようになる、これまでの日本教育界にはない英語ライティング講座です。TAGAKIとは、21世紀型学力に求められる思考力・判断力・表現力と共に語彙力・文法力・英文構成力などを同時に身につけ、英語面だけでなくメンタル面も鍛えることが可能な、全く新しい考え方から生まれた英語学習法です。』私も登録をして、一週間分の動画で学んでみた。「すぐ意思決定ができる。Yes/Noで意思を表明できる。一文のみではなく、自分の意見を裏付けることを付加して3文で伝えることができるようにする。」といったことがすぐにできるよう、訓練を繰り返す構成になっている。21世紀型学力をつけるためなので、子供向けに元々設計されているのかもしれないが、大人にも役立つ反復学習だ。単に日本語で伝えたいことを英訳する、というものではない。グローバルでコミュニケーションする際に必要なマインドセットを訓練を通じて、筋肉のように身につけることができる講座で手軽に学べるのは嬉しい。今後の講義が楽しみだ。

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