例会部会
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『第246回例会』報告

中前 正 : 7月号

日頃プロジェクトマネジメントに従事している皆様、いかがお過ごしでしょうか。
今回は、5月に開催した『第246回例会』についてご報告いたします。

【データ】
開催日: 2019年5月24日(金)
テーマ: 「JAXAの宇宙開発 歴史と今後の展望」
講師: 国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構 チーフエンジニア室 室長
稲場 典康 氏

例会部会ではこの度、宇宙航空研究開発機構(JAXA)でこれまで多くの宇宙開発プロジェクトに携わってきた稲場典康氏(以下、講師)をお招きし、JAXAの宇宙開発の歩みから将来の展望までをお話しいただきました。

講演は、講師が経験した主要な3つのプロジェクトについて、それぞれの研究開発のテーマとなった“キー技術”とともに、その内容を紹介していくスタイルで進行しました。以下、順を追って紹介します。

 (1) 技術試験衛星Ⅶ型(おりひめ・ひこぼし)[1997年]

衛星の捕獲やドッキング、宇宙施設の組み立てや保全、宇宙ゴミの除去などの操作を、宇宙飛行士を危険に晒すことなく、日本の得意なロボット技術を活用し、地上から遠隔で行う技術を習得するために打ち上げられたのが、技術試験衛星Ⅶ型「おりひめ・ひこぼし」です。

このプロジェクトにおいてキー技術となったのは、“古典力学の徹底理解と活用”です。足場となる大地や重力の存在しない宇宙空間では、地上に比べて作用・反作用の法則や慣性の法則が物体の運動を大きく左右します。そのような環境において、ドッキングや組立などの工程を正確に行う技術を得るために、様々な実験を重ねました。

 (2) 準天頂衛星初号機(みちびき)[2010年]

準天頂衛星初号機「みちびき」は、GPSによる測位を補完する目的で、日本のほぼ真上を通る軌道に打ち上げられた衛星です。本機が運用を開始した結果、測位可能時間の向上(約90%から99.8%へ)、測位精度の向上(数m単位の誤差から数cmの誤差へ)、測位信頼性の向上(GPSの異常を早期に通知)などの成果が得られました。

このプロジェクトのキー技術は“宇宙用原子時計と一般相対性理論”です。衛星による測位では、わずかな時刻のズレが大きな測距誤差となってしまいます。そのため、本機に搭載された極めて正確な原子時計を活用しつつ、「地球の質量によって時空にゆがみが生じる」という相対性理論も考慮に入れることにより、正確な測位情報が得られるようになりました。

 (3) はやぶさ2[2014年]

航行中にさまざまなトラブルに見舞われた小惑星探査機「はやぶさ」の後継機として開発されたのが「はやぶさ2」です。小惑星リュウグウへ着陸しサンプルリターンする目的で2014年に打ち上げられました。

このプロジェクトのメインテーマとして講師が掲げたのは“我々はどこから来てどこに行くのか?”です。私たち地球上の生命体の材料物質は、地球に来る前は宇宙をさまよっていたといわれています。その起源を探るために、十分な地上観測を経て探査に最適な天体(=リュウグウ)が選定され、また、よりフレッシュなサンプルを採取する方法(=衝突により人工クレーターを作成し、その表面から物質を回収する)が採用されることになりました。

そして、このプロジェクトには重要なキー技術がありました。それは“システムの進化・知能化”です。講師はこれまでの経験を振り返り、宇宙システム開発の特徴を、以下のように定義しました。

 【宇宙システム開発の特徴】
システムの特徴
大規模
極限環境
非修理性
一品物
開発プロセスの特徴
積上げ型・段階的開発
実証主義
実績品重視

さらに、その中でもとりわけ、「はやぶさ2」のような宇宙探査の特殊性についても、以下のように定義しました。

 【宇宙探査の特殊性】
探査=未知の環境を調べる
開発時に予見しきれない小惑星の環境
自転軸の方向
レーザーの反射率
重力
表面温度
地表状況
地表硬度 など

そして「はやぶさ2」プロジェクトにおいても、開発中には予見しきれない小惑星の環境を現地に到着してから観察し、その中で活動することにより、探査機やそれを操る運用者が進化・学習していること、そして日々進化する宇宙技術が、AIなど地上を含む技術全般にも、何らかの波及効果をもたらす可能性を秘めているという説明がなされたところで、講演は終了しました。

以上が講演内容のご報告となります。例会では、今後もプロジェクト・マネジャーにとって有益な情報を提供してまいります。引き続きご期待ください。

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