例会部会
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「第245回例会」報告

PMAJ例会部会 原 宣男 : 6月号

【データ】
開催日: 2019年4月26日(金) 19:00~20:30
テーマ: 「画力不要!グラフィックレコーディングとは」
~活用法とそのプロジェクト適用効果~
講師: 山野 元樹 (やまの もとき) 氏
富士通株式会社/グラフィックカタリスト・ビオトープ
講師略歴及び講演概要: こちらのリンク先の例会案内をご覧ください。

【はじめに】
 いまや流行の兆しを示しているグラフィックレコーディング、この言葉を知っている人も、それを知ったのはごく最近のことではないでしょうか。
 ただこのグラフィックレコーディング、自分以外の人が容易に内容を把握できるよう絵を描くことはそう簡単ではないようで、いくつかの押さえるべき点を把握し、またある程度習熟が必要なようです。
 本講演ではこの点について解説頂き、又いくつかの事例を紹介頂くとともにプロジェクトマネジメントへの応用についても言及頂きました。紙面の関係もあり、以下にその講演のエッセンスをご紹介いたします。
 尚、グラフィックレコーディングの解釈は、いろいろあり、今回は講師が経験を積む中で講師なりに解釈された内容を講演いただいております。従って、講演頂いた内容(3項以降)が必ずしも一般的な解釈ではないことをご承知おき願います。

【講演概要】
1.グラフィックレコーディングとの出会い
 システムエンジニアとして富士通のG会社に入社、受発注システムの開発に従事していたが、気づくと8~9年間経っていた。2016年にファシリテーションの勉強を始めて、グラフィックレコーディングの存在を知った。

2.グラフィックレコーディングとは
グラフィックレコーディングとは、議論や対話などを絵や図などのグラフィックに可視化して記録していくファシリテーションの手法である。会議の内容を一つの絵として見せることで関係性や構造が直感的にわかり、全体を俯瞰できるため、参加者の認識が合わせやすくなるというメリットがある。 グラレコを言語化すると?
 また、可視化し振り返ることで隠れた問題点を浮き彫りにする、現場の雰囲気など言葉で表現されていない部分まで描いて気づきを与えるなど、「絵のついた議事録」にとどまらない、議論をより良いものとする手法として、注目を集めている。(Weblio辞書より)

3.3つの特徴
 グラフィックレコーディングの特徴として「整理」、「抽出」、「創発」が挙げられる。「整理」とは、話を整理して表記することで、話の全体が見え、展開が見え、交わしていた議論の焦点が見えるようにすること。「抽出」とは、色々な見方や足りない視点に気づくこと。

グラレコの3つの特徴と4つの効果  「創発」とは、場が和み、色々なアイデアが生まれやすくなったり、人に紹介したくなったり、他人との関係性が生まれることである。

4.4つの効果
上述の3つの特徴により、4つの効果が顕在化する。それは「わかりやすく」、「つたえやすく」、「はなしやすく」、「つながりやすく」なるということである。

グラレコに必要な3つのスキル 5.3つのスキル
 ではグラフィックレコーディングには、どういうスキルが必要であろうか、それは次の3つのスキルが必要である。それは「ききわける」、「くみたてる」、「えがく」というものである。
 発言した人がいったい何を言っているのか聞き分け、頭のなかで整理し、関係を組み立て、そして描くのである。
 特に、聞き分けることはとても重要で、これが出来なければ絵を描けない。いくつか発言した中でどの言葉を残すべきかをよく吟味するのである。極力公平性を保つためも、必要に応じて発言者に確認しながら言葉を選んで描いていくのである。またその描き方も、ひとが見やすい、理解しやすいという点を考慮しなければならない。

6.グラフィックレコーディングに画力は必要か
 グラフィックレコーディングに画力は必要ない。点、線、矢印を組み合わせて、何回も描いていくことにより、わかりやすい表現を表すことができるようになる。
(下図は当日受講者が感情表現することにトライアルしたワークシートと感情表現例)
当日受講者が感情表現することにトライアルしたワークシートと感情表現例 当日受講者が感情表現することにトライアルしたワークシートと感情表現例
 点、線、矢印で描けるようになったら、次のステップとして、色分け、吹き出し、アイコン、構造化(グラフなど)を付加していけばよい。

7.プロジェクト活用法事例紹介
 (1) チーム「グラフィックカタリストビオトープ」による支援活動

 「グラフィックカタリストビオトープ」(GCB)というチームは、「かいてつたえる」「かいてはぐくむ」をミッションとし、「描くこと」を通して想いと願いを「見える化」し、 創造的関係性~たのしみあえるつながり~をはぐくむ触媒になることを目的に活動している。
 大きなイベントでのグラフィックレコーディングだけでなく、日々の会議でプロセスや課題を見える化したり、 一人一人がより「私らしく」生きるためのグラフィックメソッドを伝えている。以下はその代表的なメソッド。
グラフィックレコーディング
セミナーやカンファレンスにおいて、グラフィックを活用し、議論や発表の内容、構造、流れをリアルタイムに可視化する。(本日の講演)
グラフィックファシリテーション
会議やワークショップにおいて、グラフィックを活用し、議論や会話をリアルタイムに可視化しながら、参加者の対話を促進する。
エモグラフィ・ダイアログ
参加者一人一人が描くことを通して、考え伝えあうための対話の場を設計する。
 (2) 会社の中での活用例
 社内で以下のように活用したところ、それぞれ効果が得られた。
プロジェクトの振り返りに活用
ジャーニーマップを書いたところ、プロジェクト内で認識の違いが起きたポイントの合意が取れ、またメンバーそれぞれのミッションの違いが明らかになった。
このことは、次のプロジェクトマネジメントの改善につながった。
お客様発言の整理に活用
お客様の発言をマッピング分析したところ、本来のやりたいこと即ちゴールが明確になった。
成功プロジェクトの伝播に活用
成功したプロジェクトの軌跡をストーリーにまとめて社内発表し、それにかけた熱意を伝えることができ、またプロジェクトの分岐点や障害、メンバーの気持ちの浮き沈みを伝えることができた。
ユーザの声収集に活用
書くアンケートと違い、話すだけのアンケートの為、より多くの人から声を集めることができた。

8.プロジェクトにグラフィック適用する意義とは
 プロジェクトのヒエラルキー組織からホラクラシー組織へ変化、案件の小型化やメンバーの兼任化の進行、マネジメントのリーダ主導型からファシリテータ先導型への、或いは管理型から自律型への変化など、プロジェクト自体が大きくそのあり様を変えつつある。
 一方、日本の風土にもグローバル化やダイバーシティ化の波が押し寄せている。
 今まさにプロジェクトが変わる過渡期であり、いろいろな形が混在している状態と言えるのではないか。
 このような時であるから、プロジェクトをまとめ上げる一つの手段として描くこと(グラフィックレコーディング)にかけてみたのである。

9.所感
 文字だけで綴った会議メモよりも、線や絵を加えて内容を表現するグラフィックレコーディングは、描き手の習熟度やセンスによって、その伝わり方が異なるかもしれませんが、文字だけでは表現できなかった感情を豊かに表現できるという点で優れた手法だと聴講して確信しました。またプロジェクトへの活用事例についても、とても参考になりました。さらに、このグラフィックレコーディングが、いまや紙面だけでなく電子黒板やダブレットを利用した形で発展しているとのことなので、電子機器の販売を生業としている記者にとっては、たいへん喜ばしい限りです。
 今回、グラフィックレコーディングについて、初めてこの手法を知った人にもわかりやすく、丁寧にご解説頂きました講師にたいへん感謝いたします。
 尚、今回の講演で聴講者(H.K様)が作成されたグラフィックレコーディングをご参考までに以下に掲載させて頂きます。ご協力ありがとうございました。

今回の講演で聴講者(H.K様)が作成されたグラフィックレコーディング

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