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「日本再生“アベノミクス”を成功させるために何が必要か」 (64)
高齢化社会の地域コミュニティを考えよう (40)

東京P2M研究会 渡辺 貢成: 7月号

Z. 先月号はでは用意周到なる企画案を出したIさんが残念なことに再生協議会という凡人を集めた組織から提案を抹殺された。それにも関わらずIさんは腹も立てずに平然としていた。不思議に思いその秘訣を教えてもらった。重要なのでその概要をまとめてみた。
I. Zさんによるこれまでの経緯の紹介
i ) Iさんの答えは簡単であった。ビジネス社会で仕事をする人々を大きく分類すると、2種類の仕事のやり方がある。第1がルーティンワーカーで、他はプロジェクト管理ワーカーだ。工場は各種作業をする機械が並び、その工程にそって製品が完成されていく。しかし、そこで働いている人間は毎日同じ機械に張り付いて、同じ仕事を繰り返している。事務でも部署の違いがあるが、担当している人は毎日同じ仕事をしているルーティンワーカーである。
 一方大規模な工場を設計・計画・管理する人がいる。これらの業務を通常プロジェクト管理業務という。工場建設に2年かかるが、彼らは工程に沿って企画し、構想を固め、建屋や屋内の工場設備を計画・製造させ、据え付けを行い、試運転して、工場を完成させている。これらの関係者は工場建設の流れに沿って、日々違う仕事をおこない、最終的には工場建設全体を完成させる。これをするのがプロジェクト管理者である。彼らは時代の変化を先取りして、プロジェクトの企画設計をおこない、完成時には時代に即した成果を確実に提供している。

ii ) 読者のみなさん、地域再生協議会が進めている仕事はルーティンワークか?プロジェクトワークか?どちらかな。
町役場の業務は基本的にはルーティンワークである。しかし、地域再生協議会は町行政の将来を想定し、限界集落にならないための企画、計画から、実践完了までおこなうプロジェクト管理業務である。プロジェクト管理業務は終了時点でその成果が評価され終了する。このプロジェクトが評価され、運用される場合は、これに従事する人々はルーティンワークをおこなうことになる。
再生協議会は新しい仕事を創り上げていく仕事である。効率を求めた仕事ではなく、創造を求めたものである。
しかし、素人がこの仕事を始めると、何から手を付けてよいかわからない。この種の仕事を手際よく、的確に取り扱うために、プロジェクトマネジメントという手法があり、世の中にはPM専門家(資格者)がおり、素人は通常は専門家の管理のもとでPMルールに従い業務を進めている。しかし、小さなプロジェクト (初めがあり、終わりがある仕事)はPM経験者なしに行われているが、多くの場合、手抜きが行われ、混乱を起こし、プロジェクトは赤字になるケースが多い。そのために世界中でPMマネジメント協会があり、専門家育成の教育と、資格の発行を行っている。
iii ) 大型プロジェクトには石油開発、石油精製、第二次大戦中の原爆開発プロジェクト、原発プロジェクト、月征服プロジェクトがある。これらのプロジェクトは内容がそれぞれ異なるが、仕事の進め方に、標準的で各段階的な流れがある。標準的な業務の流れとその内容を理解し、業務をすすめると、業務の内容とその質に信頼性が増し、プロジェクトは失敗しなくなる。
iv ) 今回の当該町行政のための再生協議会はまさにPM資格者が取り扱うに相応しい規模の内容が総合戦略で示されていた。しかし、再生協議会は町行政の経験をベースに、簡単にできるものから手をつけるという素人方式を採用した。理由は簡単である。町行政の業務は種々の規制の中で実施されており、行政の素人が手を付けると、規制の網にかかり、変更を余儀なくされる。
v ) 再生協議会は人材募集の際、履歴者を提出させなかった。協議会幹部はIさんの提案を見て、内容が大きく、すぐできるプロジェクトではないと判断し、内容の説明をさせることなしに却下した。Iさんの提案は外部の関係者を動かす必要があったため、外部機関を動かすことの難しさゆえに却下したと思われる。
vi ) PM専門家としてのIさんはこのテーマをプログラム・マネジメントで処理すると、外部機関を加えるメリットがあるため、このプロジェクトは成功すると考えていた。しかし、幹部はIさんの説明聞くことなしに、頭でっかちな提案と受け止めた。このことは悲しい出来事であるが、Iさんは頭の固い幹部に説明することを止めた。
Z. これまでの経緯を話した。これからどうするのかな。

Ⅱ.読者の皆さんへ!
 Iさんによる「プログラム・マネジメント」と「プラットフォーム・マネジメント」の紹介
I. 読者の皆さん方は多くの組織があつまってできたコンソーシアムが「プログラム・マネジメント」と「プラットフォーム・マネジメント」を使うことで子育て環境の整備ができることを勉強したいかもしれない。
そこで今月号は私がどのようにして提案したか、その解答だけでなく、考え方まで含めて説明します。
Iさんが再生協議会で参加したプロジェクトは人口縮減で限界都市化する地方自治のための再生を進める企画プロジェクトで、町が進めているのは「コトづくり」のためのシステムズ・エンジニアリングといえる。
この町は既に町の再生を図る計画を、四つの基本目標として策定していた。
Iさんの提案はこの町にとって最も重要と思われる【基本目標3:子育て環境の整備】に的を絞って提案だった。
Iさんの提案の特徴は町の縦割り行政からの視点を離れて、子育て環境整備に関連するできるだけ多くの組織体を構成し、横割の組織体の活動(システムズ・エンジニアリング)によって、各組織それぞれが関与できる子育て環境の整備をとりまとめ、全体システムに最大の成果を与える提案をおこなった。
子育て環境の整備に関与する下部組織群を下記に示し、それぞれの組織の役割を提案する。
A: 町行政(縦割り運営方式)
B: 再生協議会が関与する地区の学校群(縦割運営方式)
C: 再生協議会(横割り運営方式)
D群: 民間ビジネス組織群(独立運営方式)
D1.県住宅供給公社、D2.保育園、D3.幼稚園群、
E群: 再生協議会が関与する地区のE1.自治会、E2.地区長会、E3.社会福祉協議会、E4.地区老人会群、E5.その他ボランティア組織
F群: アパートに入居希望のテナント群:F1.独身テナント、F2.家族テナント、F3.子育て希望の共稼ぎ家族テナント、F4.シングルマザー家庭テナント

Iさんの提案はPM協会が開発したプログラム・マネジメント方式を活用したもので、そのメリットは各組織の分担は少ないが、「これを組み合わせると相乗効果で膨大な成果が得られる」ところにある。(横型組織のメリット)
因みに現在再生協議会が実施している運営方式は個別テーマごとのプロジェ00トマネジメント方式を採用しているため、相乗効果がなく、単位効果だけである。私の解説はこの程度としてIさんから分かりやすい説明をうける。

I. プログラム・マネジメントの効果を説明します。
子育てを希望しているが、何に困ってますか?
子育てを願う人は関係機関の整備について
子育てでいま何が欠けていますか
共稼ぎ家庭での子育てが難しい理由は何ですか
子育ての難しさを支援できる方法はありますか?
子育てを希望してるが、本当に困っている人々は誰か

①の答え「保育園等の関連機関の不足」です。キャンセル待ちが多い。
②の答え「健全な保育園であるための人材確保」
③の答え「母親の留守中の時間帯をカバーする人々の存在」
④の答え「企業からの残業の要請への対応」
⑤の答え「母親代わりの人材を提供する機関の存在」
⑥の答え「共稼ぎ子育て願望家族・シングルママ」

Z. Iさんこの質問の回答を見ますと今までなかった新しいステークホルダー(利害関係者)が、登場しています。それは「母親の代わりとなる人材」の提供と「子供を産みたいが、企業の残業要請で子育てができない集団」が参画してきました。

I. Zさん。ここがプラットフォーム・マネジメントの面白いところです。「モノによる価値創出」は見えるものから選べば、何でもできます。ところが「コトでの価値創出は皆さん苦手」です。対策が思いつかないからです。そこで「価値創出」に関し、面白い話をします。
I. まず、問題とは何かを考えてみてください。そして①から⑥までの質問の答えを見ましょう。問題の中に答えがあるということです。
Z. 問題の中に答えがあるとすると、
「関連機関の価値の充実」で保育園の数の不足が挙げられる。
「関連機関内の不足分の充足」保育士の数と質の問題だ。
①と②は保育園の努力と町行政の支援で課題が解決されそうだ。
共稼ぎ家族では企業の残業への要求の全てに対応できない。
これが問題点で、これまで対応不能とされてきた。
I. ところが、プラットフォームマネジメントでは、保育園への送り迎えと家族が家に戻るまでの面倒をみる代理人の存在があれば、交渉しだいでは課題解決になります。
実は私は老人会の地区支部の会長をしています。傘下には子供の送り迎えをしてくれる信頼性の高いボランティア活動家が数名おります。老人会はこれらのボランティア活動家を提供することができます。ただし、無償のボランティア活動は長続きできません。このコンソーシアムにNPO法人を設立し、子供を委託する家庭から、委託費として、関係者が納得できる謝礼をおこなうことで、課題解決となる可能性があります。町の行政ではできなかった「新しい価値創出」が生まれます。

そこで皆さん方にしていただくことは、まず、各組織はどんなことに困っているのか調べてください。まず、各組織の危機感を調べましょう。
Z. 各組織群それぞれの危機感を上げてみよう。
i ) 公社は現在アパートの遊休率が50%で、28棟あるアパート群の半分を取り壊す羽目になる。このままではこの町の人口は減る宿命にある。公社も困るが町も困っている。
ii ) 幼稚園、保育園はそれぞれ人口縮減でほどなく経営困難となる。
iii ) 町そのものも人口の減少で、町予算の減少となり、役場の雇用が減少する。役場の雇用が減少しても、町に存在する施設は稼働しているから、維持費は減らない。維持費捻出という危機感がある。これはダブルパンチだな。

I. そこで国が考えたことは「住民参加で事業を起こさせることでした」。それが“アベノミックス”です。“アベノミックス”の担当大臣は町の発展に貢献できるネタを探して提案せよ。金はいくらでもある、と公言しました。

Z. そうか、ここにビジネス機会があるのだな。これが「価値創出」というやつか!
この町の子育て環境整備に関連している組織を整備できれば町に新しい「価値創出」が期待できると考えるべきだな。
私に考えさせてくれ。まず、子育てに関連している組織群はD群組織で、県住宅供給公社、保育園、幼稚園だな。

I. 28棟あるアパート群の遊休率は50%です。昨年から公社の理事長がドイツ政府での将来計画に関与していた人材で、公社の再建のために着任しました。早速独身者向けアパートのリフォームを手掛け、これが成功し、数十名の独身者が入居し、この町の人口が昨年度は+、-=0でした。これに気をよくし、家族のためのアパート群のリフォームをてがけ、入居者の獲得を図りたいという方針が出ました。

Z. ここまではうまくいきそうだが、保育園や幼稚園の対策は何かあるのかね。今のところ保育園に余裕があること、幼稚園のも余裕があることで、公社アパートへの家族向けリフォームが成功すれば一歩前進かな。

I. 公社のこの政策転換は歓迎です。しかしこの政策転換を更に活気づかせる提案が必要です。私は老人会の会長もしています。この会には健康で面倒見の良い、ご婦人軍団が存在します。私は保育園への送り迎え、すべてを引き受ける組織を構築すると、共稼ぎ家族の参加で、企業の残業要求に対応できます。この場合共稼ぎ家族は企業の残業手当を得ますから、幾らかの手当てを出すことで老婦人方への報酬を提供できます。その場合はNPO組織の導入が必要かもしれません。

また、再生協議会地域内での交通の便への要求が高まっています。この地域の幼稚園児の送り迎えに小型バスが使われています。これも送り迎え時間以外は空き時間となりますので、域内弱者のための有効活用ができるかもしれません。その場合にもNPOの存在は必要となります。荒っぽい発想ですが、地域再生協議会という組織がNPO化することで全体的に大きな利益を提供することができます。

Z. ここで今再生協議会が実施しているテーマと比較したいね。
I. その通りです。町行政は新たな町再生のための総合戦略を検討し、4つの基本目標を確立しました。同時に再生協議会を設立し、“アベノミックス”への提案をおこない、5つのテーマが国から認可されました。
Z. どのようなテーマかな。それとその方針は何かな。
I. 前に話しましたが、①~⑤までです。
友情の山部会:地域と小学校との連携(基本目標2)
文化・イベント振興部会:合唱団設立、各種イベント開催(基本目標2)
地域福祉部会:地域ケアシステム、高齢化健康対策(基本計画1)
古民家活用部会:古民家の維持活用(基本計画1)
県住宅供給公社部会:共同農園、共同山里運営、地域ライブの開催

これら再生協議会の基本方針は
「無理をせず、すぐできるところから始める」です。
協議会は素人の集団である。まず町民からの信頼を得るために、自分たちの最初の活動を成功させ協議会の信頼を得ること。その実績で住民の協力が弾みをつけ、再生協議会は更に価値の高いテーマに挑戦する。
だが、“アベノミックス”が望んだ収益の回収が全く行われていません。
Z. プラットフォームマネジメントの事例に比べると格段の差があるな!

I. 紙面の都合で今月はここまでとしますが、グローバル世界の問題点と我が国の問題点の差を次回は突き止めます。

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