投稿コーナー
先号   次号

「日本再生“アベノミクス”を成功させるために何が必要か」 (63)
高齢化社会の地域コミュニティを考えよう (39)

東京P2M研究会 渡辺 貢成: 6月号

Z. 先月号はIさんの用意周到なる企画案が書かれていた。しかし、残念なことに再生協議会という凡人のグループからIさんの提案は抹殺された。それにも関わらずIさんは別な策があると平然としていた。その秘訣を教えてもらうことになっている。楽しみだな!
I. その通りです。しかし、私は負けたと感じていません。これからうまく立ち回れば勝者になれる可能性があると思っていると先月書きました。
 少し話をそらしますが、私がこのエッセイを書いている理由をお話しします。私はPMAJでプロジェクト戦略、プログラム戦略の研究を進め、それを実践に使ってみて、実践としての戦略論を書いてみたいと考えたからです。
 講習会ではセオリー通りしか教えません。しかし、実践では性格の異なる相手がいるので、相手と状況を見計らって答えを出していきます(PMR資格の領域)。
 今回の場合を説明します。はじめに、町の総合戦略がありました。これは都市計画専門家に導かれて、町民が考えて創りました。総合戦略は全部で4つありました。
分類Ⅰ:基本目標Ⅰ.地域づくり:安心な暮らしを守り、住み続けられる地域をつくる。
1. 公共施設の有効活用です。
2. 町民の健康づくり
3. 地域コミュニティの醸成支援
4. 災害に強い街づくり
分類Ⅱ:基本目標Ⅱ.賢い生き方を探す:町の強みを活かした魅力ある暮らしの提案
1. XX町Lifeプロモーションプロジェクト(提案と発信)
2. 生涯学習の勧め
3. 生涯学習センターの活用、特色ある学校教育
分類Ⅲ:基本目標Ⅲ.子育て(人口増):若い世代の結婚・出産・子育ての希望を叶える
1. 子育て世代を支えるための切れ目ない支援
2. 子育てと仕事の両立の推進
分類Ⅳ:基本目標Ⅳ.雇用増進:
1. 地域産業の起業家支援
2. 再生エネルギー地産地消の可能性検討
3. 雇用創出
4. 就農・地産・地消応援プロジェクト
分類Ⅴ:小学校コミュニティスクール計画(学校協議会に属する)

再生協議会は総合戦略のすべての中から、町の健全な発展を考え、確実にできるものからスタートするという方針を立てました。
 私は後から参画したので、その方針が分らなかったため、私自身が信じる、町にとって最も効果的な基本目標Ⅲの提案をしました。理由は人口縮減に伴う、町の予算が減っていく中で、子育てプロジェクトがもっとも、予算削減が少なかったからです。
 この案に対し再生協議会幹部は、町にふさわしくない案という理由で却下しました。
 この時私が感じたものは、忠実に町の総合戦略の一番素晴らしいことを却下した理由がわかりませんでした。そして今日までふさわしくないという理由だけが私に告げられただけです。
 私は幸いグローバルレベルのエンジニアリング企業のプロジェクトマネジャーを経験し、理屈のわからないことで、自己の提案を検討することもなく却下されたことがなかっため、説明すれば理解してもらえると思っていました。しかしそれが間違いでした。
Z. 私はIさんの手法の成功は高いと感じたので、Iさん案の成功の確率につき、話だけでもきくべきではなかったのかと思うがどうかな。
I. その通りですが、しかし、私はZさんの言われた【天才を殺す凡人】という本の事例そのものだと感じていますが、私は日本人の持つハード信仰論に危惧の念を感じています。モノづくりには素晴らしい能力を示しますが、彼らは将来が読めていないという点を危惧しています。見えるものに対して徹底的に素晴らしいものを造ります。他方見えないものに関してはお手上げの状況です。これが顕著に表れたのが、2,000年以降のIT経営です。IT経営に関しては経産省傘下のIPAが警告を発しています。IT経営を実施するに際して「経営者は最初に経営ビジョンを明確に指示すること」と勧告しています。しかし、現実は経営ビジョンが出されたケースが少ないようです。経営者の本音として「私はITに弱いから」という発想でした。IPAが指示したものはITのビジョンではなく、この会社はITの細部の課題ではなく、ITという武器を使ってどのような経営をするのかというビジョンでした。経営者はその内容を理解せずに責任をCIOに押し付けてきました。残念ながら指名されたほとんどのCIOはにわか作りの素人でした。結果的にはIT部門が勉強して、彼らがビジョンをつくってIT経営のソフトを導入してきました。
Z. その結果はどうなったのかね。
I. 多くの大企業は大金をはたいて米国式のIT経営を導入しました。
Z. その結果はどうなったのかね。
I. しかし、経営者が実施していたのは経験的な稟議制意思決定法の継続でした。IT経営でおこなった内容を実施すると、稟議制との整合性が取れず、大金を支払って、アナログ方式に戻しました。それ以降の多くの日本企業はタテマエIT経営、AI経営を標榜していますが、AI経営するための正確なデータがありません。このままでは日本企業はアジア諸国にも劣る可能性が出てきます。
Z. その理由は何なのか。
I. 【天才を殺す凡人】の本に書いてありましたが、天才は先の先を読む能力が高い。秀才は「再現性」に優れているとありました。秀才の才能は既に世の中にある知識の再現に優れているにすぎません。日本企業とドイツの企業と比べたとき、その落差は格段になりました。将棋でAI将棋が高く評価されています。しかし、将棋ではすべての対局記録が残されているからAI化することができます。他方稟議経営は決定する仕方に特徴がありますが、将来を占うデータがありません。日本人がハードに強いのは、言葉を換えると見えるところだけに強いのです。再生協議会でも幹部が心掛けているテーマは既に見えているテーマを採用し、失敗しない事業の実行にすぎません。そこからは未来が生まれてきません。
Z. では、Iさんは何をするべきと考えるのかな?
I. 簡単に言いますと「価値創出」です。モノづくり時代の価値創出はハード(モノづくり)でした。現在は「コト」に注目するべきです。
Z. 簡単に「コト」というが、「コト」とはなにか具体的にイメージが沸かないな。
I. 文科省は欧米の大学では博士が最高の地位を得ているのに、日本人は博士に興味が薄く、修士で満足し、社会へ巣立っている。このため発明が少なく、欧米の発明を受け入れ、ブラッシュアップするのに優れていただけでした。その上経営のスピードを上げていないため、グローバル市場で後れをとっています。
Z. 中国、韓国が日本の製造業を凌駕しているね。ところで「コト」の分野で「価値創出」を行うことが必要だな。
I. 日本でも「コト」づくりの「価値創生」を実施しているグループがいます。日本TOC協会です。本年4月に「優れた発想はなぜゴミ箱にすてられるのか?」が出版されました。
Z. 面白い題名だな。TOC協会とはゴ-ルドラット博士が設立した全体最適理論TOC(Theory of Constraint):科学的論理を定義する『仮説の論理構造』とよりよい社会への可能性」についてが、出版された。
I. 【天才を殺す凡人】は天才を活躍させるには「共感の神」が必要だとあります。しかし、そこの本は価値創出に関し、完ぺきな内容を提供しています。
 STEPⅠ.価値を創る
 STEPⅡ.価値を伝える
 STEPⅢ.実現への道のりを創る
です。来月号で詳細をお知らせします。

ページトップに戻る