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「日本再生“アベノミクス”を成功させるために何が必要か」 (62)
高齢化社会の地域コミュニティを考えよう (38)

東京P2M研究会 渡辺 貢成: 5月号

Z. 先月号は「町の再生協議会」が実施している協議会の内容の説明があった。
残念なことに再生協議会はIさんの案に対し、一言の返事もなく、Iさん案を無視した。返事があれば反論できるが、見事なまでの無視戦略で通し、来年度から公園部会も平常業務に戻し、Iさん自身が協議会から外されることになった。
I. その通りです。しかし、私は負けたと感じていません。これからうまく立ち回れば勝者になれる可能性があると思ってます。その理由をお話しします。私は町の総合戦略を見て、子育て環境の整備が“アベノミックス”獲得の目玉となると考えました。それには2つの方式を考えました。
( 1 ) 総合戦略は「この町には素晴らしいものがありません。住民しかいません」という発想です。これに対し私はこの町の最大の危機は何か。その危機を救う可能性がある組織や人々はいないかという視点で発想をまとめてみた。
1 ) 発想1.何が問題か?
:人口縮減で特にダメージを受ける組織、企業、その他は何か。
この町で人口縮減は限界集落につながる。町は何を優先的に取り上げるのか。
県の住宅供給公社は50%付近の遊休部屋を有している。
小学校は入学児が40名を切る状況である。
幼稚園も困り始めている。
保育園も同様である。
しかるに町役場はそれぞれが個々の組織や企業の問題として解決を求めている。これでは町全体に危機感をあおることはできない。
2 ) 発想2.この問題を従来とは異なる視線で取り扱い、新しい何かを見つける。
:P2Mのプログラムマネジメントとプラットフォームマネジメントを活用すると大きな進展が起こるのではないか
3 ) 発想3.この発想を希望的発想に切り替え社会に訴える方法はないか?
:この町は【長寿の里】を売り物にしてきた。そこは海と小高い丘のある温暖な気候と、のどかな町の雰囲気が【長寿の里】のイメージを創り上げてきた。若し、この里で町全体が子育てに力を入れ、住民全体で子育て環境の整備をしたらどうなるか。
【ゆりかご】から【長寿の里】、老人介護への施策が成功すれば【墓場まで】の環境整備町として全国に発信できるのではないか。
何もないという総合戦略の発想を、“将来性のある豊かなまちづくり”がイメージできる提案にする。
Z. 何もないと考えていた住民が、このキャンぺーンに出会うと、なにか出来そうな雰囲気が漂ってくるから不思議だな。それで具体的には何をするのかね。
I. P2Mのプログラムマネジメントの実施です。
発想4. 再生協議会が音頭取りし、公社、保育園、幼稚園群、町が関与する社会福祉協議会、ゆめクラブ老人会、自治会等がコンソーシアムをつくります。名前が『子育て環境整備コンソーシアム』です。このコンソーシアムは一つのプラットフォームをつくります。そこでコンソーシアムは子育て環境の整備を行います。
再生協議会:プラットフォームの指揮者として各組織に必要な役割分担をおねがいする。しかし、各組織は自分なりの分野で功績を上げる案を提案する。
公社:公社は自社の遊休アパート群の一部をリフォームし入居者募集を行う。
入居者としての対象者:子づくり希望共稼ぎ家庭、子育てシングルマザー、子育て家庭等。
老人会は子育てコミュニティをつくり、上記アパート入居者の子育ての支援をする。日本企業から残業がなくなることはないため、共稼ぎの主婦は通常お勤めが難しい。その困難をカバーするために、老人会の子育てグループが輪番制で、保育園への送りお迎えをする。この結果として共稼ぎ主婦は安心して残業ができ、職場での肩身が広くなる。しかしこの制度を継続するにはNPOを創り、合理的な形の金銭的処理を行う。タダ働きのボランティアから絆をつくる老人会という精神的な幸福感を構築できる、一段上の老人会に昇格できる。
共稼ぎ主婦の残業対策としてのこの老人会の子育て支援はプラットフォームマネジメントとして“ゆりかごから墓場まで”という「新しい機能価値創出」となる。
保育園の役割は幼児の予約待ちのない対応である。
Z. なかなか。面白い発想だな。プラットフォームマネジメントとは気が付かなかったが、それぞれが、自分の領域の慣れた仕事を提供することで、個別組織は小さな協力であるがプラットフォーム上では規模の大きな活動が行われる。では幼稚園はどのような役割があるのかな。
I. 実はこの地域は小学校・中学校一貫校になる動きで進んでいます。コミュニティスクール制度と言っています。一昨年の新聞に文科省の教育委員会から幼稚園児向けに、小学校入学前に行うペルー方式学童前授業の提案があり、大人になってから成績が伸びるよという提案があたった。わかりやすく言うと学校で覚えた知識ではなく、社会に出てから役に立つ訓練で、人付き合いの在り方、知恵の出し方に類するもので、社会での活躍が顕著になると言っていました。
またこのプラットフォームではコミュニティスクールヘの転換に際し、従来にない勉強の仕方、教え方などの変化が求められると思います。その意味で小学校もこのコンソーシアムに参加することになるかもしれません。
Z. Iさんは学校関係にも口出しできるのかな?
I. 実は再生協議会を出されましたが、学校協議会登下校児童見守り部会員になりまして、登下校の見守りで、小学校の方々と接触する機会が増えています。この機会を利用して小学・中学の勉強の仕方、いろいろと変化に対応する提案ができるかもしれません。
しかし、それはさておき、プラットフォームで実施するという利点は、多くの人々が参加するため、次々に価値創出のアイデアが出るという変化があります。
Z. その点は非常に価値が高いと思うが、このようないい提案が何故最初にできなかったのかな?
I. 本件に関して言えば、私が提案したのは2年半前でした。その時点で公社は28棟あるアパートの遊休率が50%と高く、頭を悩ましていました。そのため、子育てのための改善などという発想はなかったようで、今の協議会幹部には空論と映ったのだと思い、私を大ほら吹きと思ったようです。
来月号でお話ししますが、本年の4月に『優れた発想はなぜゴミ箱にすてられるのか?』という本が出版されました。有名なTOC理論を発表した米国のゴールドラット博士が書いた論理を日本TOC協会のCEO岸良 裕司が書いた本です。この本の内容が素晴らしいので、来月号で紹介しますが、私のアイデアも、優れていたために(笑い!)、2年前では葬られたのです。ところが公社は新たに長年ドイツで、ドイツ国家政策の要職にあった前向きの姿勢の人材を理事長に迎えました。彼の着任に伴い、公社は人口減の時代に住宅供給だけでは生き残れないこと、遊休農地の増大と農業従事者の高齢化で更なる遊休農地が増えることを問題化し、同時に日本の農業がJAに入口、出口で農家を縛りあげている現実に着目し、公社の農業化への政策も提案している。彼の最初の政策は遊休アパート群の一部を独身向けにリフォームしたこと、この募集の評判がよく、数十名の入居者があった。このため町は昨年の人口の出入りが均衡した。理事長はこの独身者が農業に従事してくれれば半値で入居できる提案をしています。また、これに力を入れた公社は所帯持ちの募集を始めました。そのようなわけで、私の提案に対する障害は現在亡くなったはずです。しかし、協議会幹部は面子にかけて頭をさげてくるはずもありません。
Z. 反論はできないのかね!
I. 再生協議会幹部はできるところから始めることをモットーとして進めました。そのため提案した“アベノミックス”の内容が小さく、案件としては790万円の助成金しか得られませんでした。小さいテーマはイノベーションになれる筈もありません。私も取り組むつもりもありません。しかし、イノベーションというものは、気が付くと手早くできることを理解する必要があります。
再生協議会的なものは、どの市町村でも行われています。そして同じような目に合っている人々が多いと思います。これらの幹部は元企業の部長クラス以上とお見受けしますが、他業種の知識はありません。マネジメントをしたといっても自社だけの領域ですが。やたらとプライドが高いようです。イノベーションは一人ではできません。いろいろな人と議論していく中で誰かが気が付き、その発言で、また別人が新しい提案をします。この積み重ねがイノベーションとなります。
私のような被害者が大勢います。面白いことに私と同じ被害者が多いのか、最近「天才をころす凡人(2019.1月初版)」、「コミュニティをつくって、自由に生きるという提案(2019.1月初版)」が出されてます。
Z. それでは、来月号では天才が凡人から殺されない提案の仕方、ゴミ箱に捨てられない提案の仕方について何か書いて欲しい。
I. P2Mではコンピテンシーを持った資格者PMRを育成することが任務となっています。その教材を創るためにも、これらの本を引用しながら、工夫した内容の提案をしたいと考えます。

以上

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