投稿コーナー
先号  次号

「きぼう」日本実験棟開発を振り返って (8)
―「きぼう」の型式認定は大変だった―

宇宙航空研究開発機構客員/PMマイスター 長谷川 義幸 [プロフィール] :7月号

 国産旅客機の開発でアメリカ連邦航空局の型式認定取得に苦労しているニュースが時たま新聞に掲載されています。この話題を聞くたびに、「きぼう」の開発で1年半(2001年~2003年)苦労した認定試験後審査のことを鮮明に思いだします。「きぼう」の機能性能の認定試験は、複数の会社で分担開発しているフライトモデルをすべて筑波宇宙センターのクリーンルームに持ち込み、全体の機能・性能試験およびソフトウエアの全体システム試験(右下写真:2001年10月20日、朝日新聞より)により確認するものでした。そして、その結果を、審査会に提示して安全と品質がISS要求に合致しているかを確認するもので、いわば型式認定でした。

全体の機能・性能試験およびソフトウエアの全体システム試験(:2001年10月20日、朝日新聞より)  まず、審査会についてNASAから以下の説明がありました。「部品・材料や製品の設計から製造まであらゆるプロセス記録、部品材料管理、機能・性能試験や解析データ、図面、不具合管理などを審査文書として提示し、構造強度、電力、通信、配線、熱など数十項目にわたり安全性・信頼性が担保されていることを審査する。」



 開発工程上時間がないので作業を開始しました。そして、審査会を開始するとNASAは文書を徹底的に読み込んで指摘票を多量に送ってきました。例えば、「技術の詳細が分からないので、技術内容を提示してくれ。」、「設置する装置の検査は、製造者とは別のグループが行っているか?」、「船内実験室の外壁はリベットで留めているが、リベットの限界強度のデータを提示してくれ。」などの指摘でした。特に、リベットの件では、開発企業から「リベットを打った大型旅客機で毎日世界を飛行しており高い信頼性を長年有しており実績がある」などの返答をしたので、NASAから、「この指摘は、打上げから軌道上の運用寿命までに経験するいろいろな荷重に対して実験室構造が部品を含めて問題がないかを確認するもので、技術データの数値を要求しているのだ。」と教育的指導を受ける場面もありました。審査は、指摘票に指摘事項を書き、指摘者と内容の調整を終了させ本審査会に提示しますが、証拠が適切でない場合には何回も調整することになります。どこまでNASAがチェックすれば終わりなのか明確でなく、米国企業に対する検査のような振る舞いをする者もいて、チーム員の苦情が私のところに山のようにきました。NASAの統括マネジャーに協定上NASAが責任をもたなければならない箇所に審査を限定するよう依頼しました。また、回答が難しい指摘について、どうやればNASAは満足するのか、頻繁にface to faceで相談したところ、彼の経験をもとに処理の仕方の具体例を数多く教えてもらいました。直接頻繁に話をしにいくと、アメリカ人は、意外と親切な方が多いです。

 しかし、審査と並行して大規模な全体システム試験をしているので、対応が後手に回り半年間は散々だった。事態を改善させるため、参謀達と相談して審査方法と体制を変更しました。
 日本側に分野別対応チームを増強し、開発担当者が英文回答を書くとともに、すぐにテレコンで調整し了解をもらう。重要事項が絞られた段階で担当者をヒューストンに派遣して調整会を開く。これにより、審査の本来の目的である要求のコンプライアンスの確認に絞られていきました。NASAは、上位要求からフローダウンしている一つ一つの技術データを細部に亘ってチェックし、「検査合格基準の技術的根拠は?」、「解析結果より試験結果を提示してくれ」などの実証を重視する実践主義を見せつけていました。指摘票は毎日NASAから送られてきました。プロジェクトチーム全員で対応するのですが、認定試験の合間に指摘票の処理とNASAとのやりとりを行うため、眠りの浅いまま朝を迎える日々が続きました。しかし、慣れてくるにつれて短期間で処理するコツがわかってきたので、作業はスムーズにいくようになりました。

 試験も審査もすべて終わり、2003年3月、ピーンと張りつめた雰囲気の中、NASAのISSプログラムマネジャーを議長とする本審査会が筑波で行われました。技術完成度に問題はなく、いくつかのフォロー事項がでただけで、NASAのケネディー宇宙センターでの射場作業にむけ「GO!」が出されました。NASAのベテラン審査員は、「開発での不具合がISSの他の国に比べて非常に少ない」とびっくりしていました。これで、長かった「きぼう」の開発が終了しました。
 未知の作業をスムーズに行うには、その道の経験者にしつこく過去の事例を教えてもらう努力が必要だと感じました。その後、この経験で得たやり方を、HTV開発や実験装置開発に応用してスムーズに審査を通過させてきたことが記憶に残っています。JAXAでは、今年の7月19日に、「きぼう」完成10周年、HTV初号機打ち上げ10周年を迎えるので、これを記念して夏に記念シンポジウムが開催されるとのプレスリリースがでています。

以上

ページトップに戻る