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「きぼう」日本実験棟開発を振り返って (7)
―宇宙船の火災対策は厳重に対応―

宇宙航空研究開発機構客員/PMマイスター 長谷川 義幸 [プロフィール] :6月号

アポロ1号事故  1967年1月、宇宙飛行を模擬するため船内気圧を外気圧の5倍の酸素濃度にしたアポロ1号の打上げ前地上試験で、3人の宇宙飛行士が死亡する悲劇が起きました。電線の被膜がドア開閉によりめくれ電線がむき出しになってショートし冷却材と多量のマジックテープに引火して火災が発生し、宇宙飛行士が死亡したのです。脱出ハッチは2つあり、外ハッチは外側へ、内側ハッチは内側に開く構造になっており、飛行士が脱出するためには船内ガス排気後でしか開けられないため自力で脱出できませんでした。開発企業はこのハッチの改善策をNASAに提案しましたが、宇宙船で何回も使用され問題がなかったので受け入れませんでした。アポロ1号事故調査委員会は、原因究明を行い数多くのプロジェクトマネジメントと技術改善を勧告しました。NASAは、その勧告を受け船内気圧を1/3気圧純酸素から1気圧空気に変更するとともに、ハザードを除去するため、可燃性、有毒ガス、異臭を出す物質を持ち込まないように検査し部品・材料の選択規準に合致している物質のみ使用する安全性評価基準をつくりました。

可燃性試験設備  この基準は、スペースシャトルにも適用されることとなったのですが、飛行中に、焦げ臭いにおいが船内の床下配線からでる不具合が数回発生しました。これは、定格以上の電流が流れると電線被覆が熱くなりますが、シャトル船内は微小重力のため、被覆に熱が蓄積され温度が上昇すること原因でした。NASAは運用をしながら基準の改善を行いISSにもこの基準を持ち込みました。そのため、JAXAは、ISSに持ち込んだものが、安全か否かを定量的に判定する装置を筑波宇宙センターに設置することになりました。可燃性試験設備(右写真)は、0.7気圧、酸素濃度30%、室温での燃え方を試験するもので、燃え広がる性質、徐々に燃え広がる性質、火がついても自己消火性があるかを小型のチャンバーで観察するものです。

 私は、プロジェクト参加当初この仕事にも関与することとなり、アメリカの有人宇宙技術の奥深い世界に引き込まれることになりました。当時日本では、耐火性新建材やシックハウス症候群がニュースになっていました。ISSでは、外気と換気することはできませんので、使用材料はより厳密に管理します。自分で発火したり、燃え続ける材料を排除し、難燃性材料を使用して火災の発火を防ぐようにしています。取得したデータは、NASAと欧州宇宙機関などと共有してデータベースとしています。「きぼう」も「こうのとり」も、使用材料は通常このデータベースから選択すれば試験は不要ですが、日本独自の材料はこの設備で試験しなければならないので、連日企業からの依頼で試験をしていました。

 しかし、火災は材料以外でも発生する可能性があるので、万が一火災が発生した場合には、出入りのハッチを閉め、ISS本体から実験室を隔離し、キャビンの空気の流れを止めて消火します。それでもダメな場合は船外に空気を排出して強制消火させます。そのためこの最悪のケースの場合、急減圧する際に機器が壊れ元に復帰できないと困るので、重要な機器に対して急減圧にも耐えられるか否かの確認試験をすることになりました。大気状態から20パスカルまで10分で急減圧にさらす試験です。非常に心配で試験の結果を聞くのが怖かったのですが、「きぼう」の生命線の機器は丈夫にできていました。さすが、日本製だと思いました。「きぼう」打上げから11年経過しましたが、火災、有毒ガス、異臭などの安全性に関わる不具合も、船内の空気を全部排出する事態も現在まで起きていないようです。

以上

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