PMプロの知恵コーナー
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ゼネラルなプロ (105) (実践力)

向後 忠明 [プロフィール] :7月号

 前月号ではプロジェクト実行中における下記に示す①、②、③の行動のうち①について話をしました。

 今月号は下記の②について説明します。

問題や異常事態発生時での対応です。すなわちコンフリクトマネジメントや交渉力です。これは変更やトラブル発生時にどのような行動を取るかということです。

プロジェクトのリーダとしてチームメンバーが惑わないようにチームの進むべき方向を示し、結束力を高め、相乗効果や生産性の向上を高めるといった行動を取るということです。

プロジェクトメンバーを含むステークホルダーとの密な関係維持のための伝達、連絡そして密な意思疎通に必要なコミュニケーションが取れる手段の構築とそれを可能にする行動を取るということです。

 リーダはプロジェクトの目標に向かって一糸乱れずプロジェクトを遂行するために、プロジェクトの代表として次のような能力を発揮できなければなりません。

 すなわち、集団の経営資源を最大限に活用し、複数の要員に対してより優れたそして望ましい影響を一定期間にわたって及ぼす、集団目標を達成するために必要な能力と言われています。

 そのためには、プロジェクトの実行において常に以下のようなことで部下を鼓舞し、やる気にさせ、そして先頭に立って旗を振っていく必要があります。

A. 部下に対して如何にやる気にさせるかなどの仕事に対するモチベーションを与えることができること。
B. 良いコミュニケーションネットワークを持ち、付き合いの幅の大きいこと。

C. 集団としての目標を作り出し、部下がそれを進んで受け入れることのできる状況にもっていくこと。
D. 集団の目標を達成させるための有効な作業方法や技術の指導ができること。

 プロジェクトを実行する組織は一般の企業の定常組織とは異なり、その対象のみを処理するために設立される一時的(時限的)なプロフェショナル集団組織です。
 そのため、プロジェクト組織は、プロジェクトに与えられる要件や契約条件、仕事の範囲、規模などによりその構造や形態も変化します。
 そのため、プロジェクト目標を達成するためには、プロジェクトに与えられる要件によって関連する社内の組織だけではなく、外部の組織もこの組織にはいってきます。
 そのため多様な人的資源が投入されるが、プロジェクト組織の持つ機能、すなわち実行(Execution)と管理(Management)を有機的に機能結合できるように分担を考慮し、その相互関係を結合できるような形態にもっていかなければなりません。

 この相互関係を効果的かつ効率的に働かせ、全体最適な形でプロジェクトがスムーズに進めるようにすることがリーダとしての役割です。

 因みにプロジェクトマネジャを取り巻く要素を以下のような図にて示してみました。

プロジェクトマネジャを取り巻く要素

 この図を見てもプロジェクトマネジャに課せられた役割は広範囲にわたることがわかります。

 その上、昨今では上図に示されている顧客要求条件でもさらにプロジェクトマネジャを悩ませることが多く発生してきています。
 すなわち、以下に示すようなプロジェクトを取り巻く環境に時代の変化に伴ってこれまでにない多様な要件が出てきて、それらに対応しなければならない事象が多く生じてきました。

A. 市場の変化及び競争の激化
B. 新ビジネスモデルの登場
C. 新技術の発生等技術変化
D. 不確定要素の増加
E. ビジネスの国際化

そのためには何が必要なのか?
 それはプロジェクトを目指す方向を明確に示し、顧客やメンバーを含むステークホルダーに「「何をしなければならないか?」、「気になっている」、「おかしいと感じる」、「何とか手を打たなければ」といったことを具体的に示し、プロジェクトの方向性を具体的に示してやることが必要になってきています。
 そのため、プロジェクトマネジャに求められるリーダとしての資質はさらに高いものが求められるようになっています。
 その資質には人間的側面として求められる発想力とか構想力から導き出されるプロジェクト要件の見える化、そしてそれに基づくプロジェクトの進むべき方向(ビジョン)を描き、その実現に向けて行動するといったこともリーダの役割となってきています。
 すなわち、ビジョニングがリーダにとって重要な役割となります。
 プロジェクトは計画立案から始まるとPMBOK®に書いてありますが、現在ではさらにその上流からのプロジェクトの進むべき方向を明確に示し、顧客そしてメンバーが迷いなく、生き生きと働くことのできる環境作りをする必要があり、そのためにはビジョニングが重要な役割を果たすことになります。
 ビジョニングを的確に示すには:
A. 自分の果たす役割を十分に認識し、プロジェクトの目的、目標を理解し、進むべき方向をガイドするものでなければならない。
B. プロジェクトの目的達成のため取らなければならない効果的で実現性のある具体的なシナリオをメンバーが理解しやすい旗印としてのビジョンを示し、正しく行動できる環境を整える。
 このように、プロジェクトの方向性を明確化し、ビジョンを掲げることによってメンバーを一定の方向にむけることができるようになります。
 次にリーダとしての役割はプロジェクト方針を含むプロジェクト計画を行うことになりますが、実際の活動で重要なことはメンバー相互の信頼関係を構築し、プロジェクト内でメンバーが生き生きと活動できる状態に持っていくことが必要になります。
 すなわち、チーム活性力すなわちチームワークの維持です。そのためには下記のようなことをリーダは気にかけていなければなりません。

A. メンバーを公平に扱い、情報の共有化を図り、オープンで効果的なコミュニケーションが取れるようにする。
B. チームの置かれている環境が厳しくなっても、明るく前向きな姿勢を崩すことなくメンバーのやる気を引き出し、目標に向かってリードすることができている。
C. ビジョン、目的、目標等をしっかり示し、メンバーに理解させ、目標を達成するという意欲をしっかり持って、メンバーをリードする。
D. 異なる専門分野と経験を持った多様なメンバーが協働して作業に当たれる状況を作り出すことができる。

 そのためにはリーダ自身も自己規律をもって自発的、かつ模範人たる行動を起こし、メンバーの結束を主導するといった率先垂範の模範を示す必要があります。

 率先垂範はリーダとして最も重要な資質であり、プロジェクトマネジャ自ら率先して行動を起こすことが上記で説明したチーム活性力につながり、プロジェクトの成功に大きな影響を与えることになります。

 例えば、困難に直面しても、プロジェクトマネジャ自ら率先してその困難を克服する姿勢を見せることによって、メンバーも困難さから逃げることなく、何とか克服しようという勇気が醸し出され、困難な状況から抜け出すことも可能になります。

 また、経験の浅いメンバーの多いプロジェクトにおいては、プロジェクトマネジャが率先して「この場合はこのようにやるのだ」という手本を見せることによってメンバーに協力し合う雰囲気を醸成することもできるようになります。

 筆者も好きな日本のリーダの言葉として:
A 「やってみせ、言って聞かせて、させてみせ、ほめてやらねば、人は動かじ」
B 「身をもって範を示すという気概の無い指導者には、人々は決して心から従わないことと銘記しなくてはならない」

などがあります。
 この昔のリーダの言葉は短いがなかなか含蓄のある「リーダのあるべき姿」を示していると思います。
 その他にリーダにはメンバーがやる気を起こすための動機づけというものがあります。
 これはメンバーにやる気を与えるものであり、これもやはりプロジェクトチームを引っ張っていくリーダによるメンバーの扱い方であり、オープンでかつ公平なプロジェクト運営により、メンバーの適性、能力等十分把握し、成果を公平に評価して、より責任の高い立場につくチャンスを与えることなどがやる気の源泉となると思います。

 今月はこの辺でリーダに関する話は終わりとし、来月は冒頭に示す③のコミュニケーションについての説明をします。

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